「第3話 幼馴染み」
前回までの話し――
中学1年生の頃から好きだった宮本理奈にラブレターを書いた神山太一、しかし宮本は幼稚園の頃にラブレターを渡した女の子だった。太一の必死の告白で付き合うことになったが……
人というのは、普段一緒にいる人より、滅多に会わない人の方が変化に気付くものである。まあ、中には気付く人もいるだろうが、だいたいの人は気付かないものだ。
そう…幼馴染みみたいに、ずっと昔からそいつと一緒にいた俺にとっては、そいつの微妙な変化には気付かない。それでも何とかここまで来られたんだから、別にいいと思うけどね。
「ふう……」
朝、いつも通りに目が覚める。学校に行く支度をして、リビングに行く。
「あ、おはよう。裕二」
「ああ、おはよう母さん」
俺、藤井裕二は、現在母親と二人暮らしをしている。父親は2年前に他界、以来俺と母さんは、マンションに住んでいる。別に引越してきたとかじゃなくて、昔からここに住んでいるんだがな。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう言い、俺は学校へ向かった。学校までの道のりはそう遠くない。歩いて10分程度で着くくらいの距離だ。
ザワザワ
教室に入ると、後ろの方に人が溜まっていた。
「…………」
俺はそれを無視して席に着くが、席が後ろの方なのと、声がでかいせいで、話しが聞こえてきた。
「全員これを見ろ! ビッグニュースだ!!」
その騒ぎの中で一人、佐伯 良介が、何やら説明していた。
《神山太一と宮本理奈熱愛発覚!!》と、書かれた貼り紙が、一枚でかでかと貼ってあった。
「ち、ちょっと! これはどういうことだよっ良介」
ちょうどその時、神山 太一が、登校して来たところだった。
「お! 来たな。この幸せ者」
「そうじゃなくてっ」
「太一と宮本の熱愛が発覚したのは、昨日の夜! しかも教室だ」
ざわっ
夜の教室という言葉で、周りがざわめき出す。
「しかも二人は、幼稚園の時すでに、両思いになっていた」
佐伯は構わず、語り出している。
「そんなの、どこで知ったんだよっ!」
神山が怒鳴る。
「ふっふっふ。オレの情報網を甘くみるな。何があってもいいように、この学校の至るところに、隠しカメラや盗聴器を仕掛けておいたのだ」
「そんなの、仕掛けるなー」
つうか、そんなことを言っていいのか? と俺は思った。
「あ、理奈! 大変なことになってるよっ」
どうやら、宮本も戻って来たようだ。宮本は、委員会の仕事とかで、朝早く登校し、そのまま仕事へ行ってしまうらしい。
「大変なことって?」
「あれ見てよっ」
「あれって………ぇえ!! 何あれっ、どういうこと?」
あの様子からすると、宮本が登校した時にはまだ貼られていなかったということだろう。
「ちょっと、佐伯君! これはどういうこと?」
「主役二人揃ったな」
「熱愛発覚ってどういうことかって、聞いてんの」
あの二人も大変だな…
「コノヤロー!! 神山テメェー!!!」
その時、人混みの中から一人の男が、神山に突進していった。身長は180を超える巨体で、たくましい体をしている。
「裏切り者ー!!」
「うわぁ! ち、ちょっと! いきなり出て来て、訳のわからないことを言わないでよ!?」
「俺はお前を信じてたのに、よくも裏切ったな! チクショー!」
この男の名前は、田中 健三。クラスで一番力が強い男、としか知らない。部活は柔道部に入ってたかな。
「う、裏切ったって…え?」
「宮本がこの学校に転校して来たとき、俺が宮本に告白するって言ったとき、お前は応援するとか言ってたじゃねぇか!!」
「そ、そうだっけ?」
「うおおおお!! 男と男の約束を忘れやがってえ!! 一発殴らせろー」
「ぇえ! なにそれ」
「ちょっと、待ってよ!」
そこに、宮本が乱入した。
「う……」
田中の手が止まる。
「田中君が私を好きだったって言っても、結局は告白して来なかったじゃない」
「ぐ……そ、それは……」
「神山君は、ちゃんと告白して来てくれたわ」
「し、しかし…宮本は、告白して来た男を全員フってるって聞いたから…告白しそびれたというか…」
田中は、戸惑っているようだ。いきなり宮本に告白しようとしてたとか騒いだ上に、本人が目の前やって来たんだから、しょうがないか…
「私だって、相手くらい選ぶわよ、真剣な気持ちで告白してくれた人は、神山君ぐらいだったけどね」
宮本も、そんなことを言う必要あるのか? まあ確かに、どうせフラレるんだからダメ元で告白して、付き合えたらいいなあ…くらいの奴しかいなかったけど。
「お、俺は…本気で宮本を愛してるんだ! これじゃダメか?」
ここで告白かよ…
「ごめんなさい。私にはもう付き合ってる人がいるから」
「何でだー! 何で神山は良くて俺はダメ何だ!」
「だから、付き合ってる人が……」
「じゃあ、俺が先に告白してたら付き合ってくれたのか」
「…………」
宮本が黙り込む。
「俺は、神山と付き合うことに納得がいかーん!」
ったく…いつまでこの馬鹿騒ぎは続くんだ…
「と、とにかく、その紙をはがしてくれない? 良介」
宮本と田中が言い合いをしている間に、神山が佐伯に言った。
「ダメだ」
「え、何で」
「これはちゃんと許可を取ってるからだ」
「許可って誰に?」
「生徒会長だ」
「生徒会長って、3組の桂木君だよね…?」
「呼んだか〜い?」
「うわぁ!」
突如、神山の後ろから、生徒会長、桂木 四郎が現れた。
「呼んでないよ…」
神山も疲れたのか、テンションが下がっていた。桂木は、かなり変わったところがあるから、相手をするのは疲れるそうだ。俺は相手したことはないが。
その時、予鈴が鳴り、先生がやって来た。みんな席に戻っていった。
結局、桂木は登場した意味はあるのか? など思いながら、午前の授業を聞いていた。
午前の授業が終了し、昼休みに入った。俺はそのまま、図書室へ向かった。
この学校の図書室は、他の学校のより広いと思う。ここの図書室には、いろんな国の本もある。まあ、世界中というわけでもないが。
俺は、いつも座っている席に着いた。
「ふう……」
俺のクラスは、どうしてああ騒がしいのばかりいるんだろう。
俺がそう思いながら、本を取り出し、読み始めた。
「藤井君」
そこへ、女子が声をかけて来た。
「……やあ、宮本サン。どうしたの?」
「この前借りた本を返しに来たの」
「ああ、どうだった?」
「うん、面白かったよ」
「……どの辺りが面白かった?」
「え?」
「あれ? いつも聞いてることだけど」
「あ…え〜と、69頁の辺りが面白かったよ」
「69頁は、どんな場面だった?」
「え〜と、主人公が活躍するところ…かな」
「おかしいな…69頁には、主人公は登場してないぞ?」
「え? ああ、79頁だったかな…」
「おや? 79頁にも、主人公は登場してないぞ」
「う……」
「外見は真似出来ても、中身は真似出来ないな、ゆう」
「うぅ……いつからバレてた?」
そう言って、変装を解いた。こいつの名前は、桜田 ゆう(さくらだ ゆう)。俺の幼馴染みで、家も隣にある。
「最初からだよ」
「え〜っ、じゃあ何さ、最初からバレていて、ボクはからかわれてたのか」
ゆうは自分のことを、ボクと呼んでいる。昔からだけど…何か、女の子らしくない感じがする。
「そういうこと…で、この本はどうした? これは確かに、宮本さんに貸した本だが」
「教室で、理奈ちゃんがこの本を裕二にいちゃんに返そうと図書室に行こうとしてたから、ボクが返すって言って、持って来たんだよ」
「それでわざわざ、変装して来たのか?」
「裕二にいちゃんを騙そうとしてたんだけど…やっぱり、バレちゃうんだね」
「わかるだろ、本人かどうかぐらい」
「他の人は騙せたもん」
「他の連中と一緒にするな」
「う〜、何で裕二にいちゃんだけ騙せないんだろ」
ちなみにこいつは、変装の名人らしい。まあ、俺にはすぐわかるんだがな、これは幼馴染みだからだろうか? 幼馴染みで、毎日のように一緒にいるこいつのことは、良く知っている。だから、変装した時も、どことなくわかってしまう。
「それと、後ろに隠してるノートは何だ?」
「え? あ…こ、これは…その」
「変装するんなら、そういうのを持ち歩くな、宮本さんは俺に勉強を教わりには来ない」
「い、移動教室かも知れないじゃん」
「ノート一冊でか?」
「ぐ……」
「で、どこがわからないんだ?」
「こ、ここっ、ここ教えて」
「これ、宿題だろ、次の授業で提出の」
「そ〜なんだよ、だからお願い、教えて」
「はいはい」
俺とゆうは、いつもこんな感じだ。ちなみに、ゆうが俺をにいちゃんと呼ぶのは、昔から兄妹のように育って来たからでもある。身長は俺より低く、俺も妹感覚で扱って来た。
「それにしても、いつもここにいるね」
「静かだからな、とくに今日はうるさい」
「ああ、理奈ちゃんと神山君ね」
「二人は騒いでないだろ」
「周りの男子が騒がしいね」
「生徒会長もだろ」
「は〜い、僕を呼んだか〜い?」
「呼んでない」
また現れたよ…意味ないのに。
「すごい地獄耳だね〜」
感心するなよ…
「生徒会長はお呼びではないので、教室にお戻りください」
「お〜冷たいな〜マイハニー」
「ぇえっ!? 裕二にいちゃんがマイハニー??」
「真に受けるな、アホ」
「アホって何さー!」
「図書室は静かにするように」
騒いでいると、図書委員がやって来て、追い出された。
「お前のせいで、追い出された」
「ボクのせいじゃないでしょー!」
またいつものパターンなので、カットする。
放課後――
「裕二にいちゃん、帰ろー」
俺が帰り支度をしていると、ゆうが声をかけて来た。
「お前、部活はどうした」
「そんなの別にいいじゃん」
「ゆうちゃーん、部活行こー」
その時、教室のドアのところから女子数人がゆうを呼んでいた。
「ほら、呼んでるぞ」
ちなみに、ゆうは演劇部に入っている。
「ゴメーン、今日は休むー」
「え〜、主役がいないと劇にならないよー」
「ちょっと、大事な用事があるからー」
「……しょうがないか、わかったよ、顧問の酒井先生には、ちゃんと言っといてあげる」
おいおい、諦めるのかよ
「ありがとー」
「じゃあ、また明日ねー」
そう言って、女子たちは去って行った。
「……いいのか? 主役の桜田 ゆうサン」
「いいの、大事な用事ってのはホントだから」
「そうか……」
俺は黙って歩いて行く。
「…………」
「…………」
「どうして付いてくる」
校門を出てからずっと付いてくるゆうに声をかけた。
「一緒に帰ろうって言ったじゃん」
「大事な用事があるんだろ? 急がなくていいのか」
どうせ、大した用事なんてないだろうけど。
「………裕二にいちゃん」
ゆうが何かを決意したような顔で俺を見る。
「何だ?」
ゆうが何を言おうとしてるのかわからないのは、これが初めてだった気がする。
「……ボクのこと、どう思う?」
いきなり、変なことを聞いて来た。
「……幼馴染み」
軽く答えてみる。
「そうじゃなくて」
「……騒がしい奴、問題事をもってくる奴」
「う〜…裕二にいちゃん、冷たい」
「そんなことを聞いて、どうするんだ?」
「……ボクは、裕二にいちゃんのこと、好きだよ」
「……昔から言ってるな」
「昔とは違うよっ、一人の女として、ボクは裕二にいちゃんが好きなんだ」
……俺的には、にいちゃんと呼ぶのは止めて欲しいんだが…
「裕二にいちゃんは……ボクのこと……どうかなって」
「…………」
ゆうは本気のようだ。しかし、これはどう答えるべきか…俺はゆうのことが嫌いなわけではない。ただ、恋愛感情は感じたことはない。
「ボクのこと…嫌い?」
「いや」
「じゃあ、何か答えてよ、裕二にいちゃん」
にいちゃんって呼ばれると、兄妹みたいで恋愛感情とか意識することができない。
「……その、にいちゃんって呼ぶの止めてくれ」
「え……?」
「その呼び方だと、いくら好きだと言われても、妹が兄に好きと言っているみたいだから」
「……じゃあ、にいちゃんって呼ばなかったら、付き合ってくれる?」
いきなり告白されてもな…今まで、こいつとは兄妹感覚で付き合って来たから、男と女として付き合って欲しいなんて言われても、ピンとこない…
「どうなの? 裕二」
何だろう…ゆうに呼び捨てにされると、別人に呼ばれたように思える。
「………俺も…好き…だ」
言ってて恥ずかしくなる。
「裕二……」
ゆうの顔が緩む。
「あと…そのだな、やっぱり、今まで通りで呼んでくれ」
「え? だって、にいちゃんは付けるなって…」
「お前に呼び捨てにされると、別人に呼ばれた気分だからだ」
「え〜、何それ〜」
「別にいいだろ、ゆう」
「あ……」
ゆうが足を止める。
「どうした?」
「初めて、名前で呼んでくれたね」
「? そうか?」
「今まで、お前とかしか呼んでくれなかったもん」
心の中では、何度も呼んだんだがな…
「あれ?」
「なに? 裕二にいちゃん」
「お前、背伸びたな」
「今更気付いたの?」
「普段一緒にいる奴には、わからないんだよ」
「そうかな〜? ボクは、裕二にいちゃんの変化には気付いてるよ」
「なんだ?」
「首筋にホクロができてる」
「あ…」
人というのは、普段一緒にいる奴よりも、滅多に会わない人の方が、相手の微妙な変化には気付かないものだ。と思っていたが、ちゃんと相手を見ていれば、ちょっとした変化にも気付けるものなんだと、気付いた…
ギュッ
「あ…裕二にいちゃん」
「ほら、行くぞ」
俺はゆうの手を握って、歩き出した。これからは、ゆうのことをちゃんと見よう、どんな小さな変化でも気付ける人になろう。と、心の中で考えながら、道を歩き続ける。変化を探しながら
この物語を読んでくれた方、ありがとうございます。何か意見や感想等があれば、よろしくお願いします。




