第8話:クラスメイト
入学してから、二週間くらい経った。
朝の教室は最初の日とは随分違って見えるようになっていた。
扉を開ければ、誰がどこにいるのか何となく分かる。
翔太は大抵もう誰かと喋っているし、美月の周りにはいつも何人かの女子がいる。
千咲もその輪の中にいることが多い。
蓮司は自分から積極的に関わりをもとうとするタイプではないけど、話しかけられれば普通に喋っている。
少し威圧的な時も多いけど。
そして大地は――。
「城戸、待って!」
教室へ入った瞬間、そんな声が聞こえた。
見ると、大地が窓際へ向かって早足で歩いている。
「だからまだ開けちゃだめだって!」
その後ろを智也が追いかけていた。
「なんで?」
「今、留め具外してるから!」
「暑いからいいだろ」
「開けたら落ちる!」
大地の手が止まる。
「……先に言えよ」
「言ったって!何回も!」
何をしているのかと思えば、窓の金具が少し緩んでいたらしい。
智也が小さな工具で取り付け直しているところだったようだ。
「おはよ!」
横から千咲に声をかけられた。
「おはよう」
「朝から元気だよね、大地くんって」
「元気っていうか、せっかちっていうか」
大地は何か思いつくと、とりあえず動くタイプだ。
考えるのが嫌いというわけではなさそうだけど、身体の方が先に反応するらしい。
その大地はというと、窓を開けるのを諦めた直後には、もう別のものへ興味を移していた。
「真壁、それ何?」
「来ないで」
「見るだけ」
「城戸の『見るだけ』信用できないんだよ」
智也は工具を大地から遠ざけた。
何だかんだで、あの二人もよく話している。
「ねえ、まもるん」
「ん?」
千咲が教室の奥を指差す。
見ると、机に突っ伏している女子がいた。
結衣だ。
完全に寝ている。
腕を枕にして、顔を横へ向けたまま微動だにしない。
ふと、結衣の前の席にいた未央が振り返った。
未央は、喋り方が丁寧で、姿勢が良い。
座っていても、しっかりと背筋を伸ばしている。
いつもふにゃふにゃの結衣とは対照的だ。
「結衣、もうすぐホームルームですよ」
「…………あと五分」
「五分もないです」
「じゃあ三分」
未央は困ったように笑う。
それでも結衣は起きない。
すると少し離れたところから、
「あと一分くらいで来ると思う。先生」
と声がした。
琴音だ。
本を開いたまま、小さく呟く。
「聞こえました?」
「廊下の奥。先生の声したから」
これもいつもの光景だった。
琴音は耳が良い。
音を拾いすぎてしまうのがストレスなのか、イヤホンをしていることも多いが、今日は何もつけていなかった。
「結衣」
未央がもう一度呼ぶ。
「先生来ますよ」
「……ほんと?」
「琴音が言ってます」
ようやく結衣が顔を上げた。
髪の一部が頬に張りついている。
「琴音ちゃんの耳なら信用できる」
結衣は欠伸をして、ゆっくり身体を起こした。
「おはよう」
「ええ、おはようございます」
朝から随分マイペースなやつだ。
そんなことを思っていると、教室の扉が開いた。
本当に上里先生だった。
しかも、琴音の予報からちょうど一分くらい。
「お前らおはよう」
琴音が結衣の方を見ると、結衣は親指を立てて返していた。
◇ ◇
午前の授業が終わる頃には、教室の空気もかなり緩んでいた。
昼休み。
「護、飯食おうぜ」
翔太が机を寄せてくる。
「いいけど」
「陸も呼ぼう」
「もう呼んだ」
翔太が振り返る。
「陸ー!」
教室の反対側にいた陸が顔を上げた。
改めて見ると、やっぱりちょっと怖い。
背も高いし、体格もいいし、目つきも鋭い。
初対面の陸と街で会ったら、目を合わせないようにすると思う。
「高峰、静かに呼べ」
「聞こえないかと思って」
「聞こえる」
言いながら、陸がこちらへ来る。
手には弁当箱。
「今日も作ったの?」
俺が聞くと、陸は頷いた。
「昨日の夜な」
翔太がすぐに弁当を覗き込んだ。
「うっわ、今日もちゃんとしてる」
「離れろ」
「卵焼き一個くれ」
「嫌だ」
「即答!?」
「昨日もやっただろ」
「昨日ももらったから今日も」
「その理屈はおかしい」
見た目に反してかなり世話焼きなのは、この数日で分かってきた。
翔太が何か忘れれば貸してやるし、制服のボタンが緩んでいた時なんて、その場で縫い直してやっていた。
本人は面倒そうな顔をするのに、結局やる。
「一個だけな」
今日もだ。
陸が卵焼きを翔太の弁当へ移した。
「やった!」
「明日はない」
「明日は明日でまた交渉する」
「するなよ」
懲りない翔太に、思わず笑ってしまった。
陸は弁当箱を片手に持ったまま、俺を見た。
「護も食べるか?」
「いや、俺は自分の分あるし大丈夫。ありがとう」
「そうか」
声も低いし、顔も怖い。
でも普通にいいやつだ。
「高峰〜」
後ろから声がした。
振り向くと、悠真が携帯ゲーム機を持って立っていた。
「昼休み、昨日の続きやるって言ってただろ」
「あ」
翔太が箸を止めた。
「飯食ったら行く!」
「逃げるなよ」
「逃げねえって。昨日はたまたま負けただけだから」
「三連敗をたまたまって言う?」
「今日は勝つから」
箸を噛んで拳を突き出す翔太を、悠真が鼻で笑う。
普段はそこまで騒ぐタイプではないけど、ゲームの話になると少し雰囲気が変わる。
ふと気になって、聞いてみることにした。
「何のゲームやってんの?」
「対戦。流行ってるやつ」
悠真が画面を見せる。
老若男女、様々なキャラクターが十人ほど映っていた。
こいつどうやって戦うんだろう、みたいなおじいちゃんまでいる。
「高峰、攻めることしか考えないから分かりやすいんだよ」
「攻めた方が楽しいじゃん。あと強いし」
「負けてるけど?」
「だから今日は勝つって」
翔太と悠真のやりとりを聞いていると、隣から別の声が入った。
「だったら正面から行かなきゃいいのに」
修也だった。
自分の昼飯を持っていつの間にか近くへ来ていた。
目元にかかる前髪を、無造作にかきあげる。
翔太は修也を見るなり、悠真を指差した。
「修也、お前も昨日見てただろ。悠真って逃げてばっかなんだよ」
「逃げて勝てるならそれでよくない?」
「よくない。気持ちよくない」
「勝つゲームでしょ?」
修也は当然のように言った。
悠真が笑う。
「ま、修也は俺より性格悪い戦い方するからな〜。修也に助け求めてもダメだ」
「褒めてる?」
「半分」
「半分かよ」
正面からぶつかっていくタイプの翔太とは、きっと対極にいそうなやつだ。
何をやらせても違うやり方をしそうで、少し興味がある。
「そうだ、今日三人でやろうぜ」
翔太が続ける。
「俺、先に修也倒すから悠真も協力して」
「じゃあ高峰には近づかない」
「だからそういうのやめろって!」
昼休みから騒がしい。
でも、こういうのも悪くなかった。
◇ ◇
昼食を食べ終え、飲み物を買って教室へ戻る途中だった。
前を歩いていた大地が急に止まった。
「何?」
「紙落とした」
床にプリントが何枚か散らばっている。
大地がしゃがんで拾おうとした、その時。
「拾わないで」
後ろから声がした。
振り向くと、凛が階段を登ってくる途中だった。
「え?」
「手」
大地の指先に、小さな切り傷ができていた。
紙で切ったらしい。
「これくらい平気だろ」
「血つくでしょ」
「あ」
凛は大地の手を取ると、傷を確認した。
大した傷ではない。
それでも持っていたハンカチを当て、軽く圧迫する。
「しばらく押さえてて」
「治せないの?」
翔太が横から聞いた。
「何でも魔法で治せるわけじゃないよ」
凛が答える。
「それに、この程度なら普通に止血すればいい」
「へえ」
「魔法を使う方がいい時と、そうじゃない時があるから」
凛は落ち着いている。
救命や治療の分野に興味があるらしい。
授業でもそういう話になると、いつも以上に真剣な顔をしていた。
「次から走りながらプリント見ないでね」
「見てない」
「じゃあなんで落としたの?」
「急いでた」
「同じようなものでしょ」
何も言い返せなくなって、大地が苦笑いした。
凛は少し笑って、「怪我には気をつけて」と言い残して一人歩いていった。
静かなやつだけど、言うべき時に自分の意見はちゃんと言えるタイプらしい。
そんなことを思いながら、俺は遠くなっていく凛の背中を見ていた。
◇ ◇
午後の授業が始まる少し前。
俺が席へ戻ると、美月が窓際でちょうど奈々に話しかけているところだった。
「それ全部種なの?」
「うん」
奈々が小さな袋を何個か机の上へ並べている。
「種類違うの?」
「これは朝顔で、こっちは蔓が強いやつ。それと――」
言いながら、奈々の声が少しだけ明るくなる。
植物の話が好きなんだろう。
普段よりずっとよく喋っている。
「そんなに持ち歩くんだ」
「木属性だし」
「木属性の人って種必須なの?」
「必須じゃないけど、あった方が便利」
奈々は大切そうに袋をまとめる。
「その辺に植物がないこともあるから」
「なるほどね」
美月は興味深そうに一つ一つ見ていた。
「私だったら絶対どれがどれか分かんなくなる」
「袋に書いてあるよ」
「あ、ほんとだ」
奈々が小さく笑う。
「朝倉さんって意外と天然?」
「美月でいいよ」
「え?」
「朝倉さんって呼ばれるの、あんまり慣れてなくて」
奈々は少し戸惑ったあと、
「じゃあ、美月ちゃん」
「うん!」
美月は満足そうだった。
本当に誰とでも話している。
クラスの潤滑剤みたいな存在かもしれないな、なんて思ったりした。
「奈々ちゃんは植物好きなの?」
「好き」
即答だった。
迷いのない声。
「学校にもいっぱいあるから楽しい」
そう言って、奈々は窓の外を見る。
校庭の木々。
花壇。
その向こうには、星見坂の方も少し見える。
ふと、入学の日に見た大樹のことを思い出した。
木属性の奈々から見れば、俺たちとは違って見えるんだろうか。
まあ、今度機会があったら奈々に聞いてみてもいいかもしれないな。
植物の話を楽しそうにする奈々を見て、俺はそんなことを思った。
◇
次はいよいよ今日の最後の授業だ。
一つ大きなあくびをしてから授業の準備をしていると、前の方で小さな声が上がった。
「あ……」
陽菜だった。
筆箱を落としてしまったらしい。
中身が床に散らばる。
「大丈夫?」
すぐ近くにいた千咲が、さっと素早くしゃがんだ。
「ご、ごめん」
「ううん、なんで陽菜ちゃんが謝るの?」
「あ……うん」
陽菜も慌てて拾い始める。
かなり大人しい子だ。
点呼の時に先生から名前を飛ばされても、自分から言い出せなかったくらいだから、人前で何か言うのは相当苦手なんだろう。
「あ、これも陽菜ちゃんの?」
千咲が小さな袋を拾う。
「あっ、それは……」
陽菜が慌ててそれを受け取った。
「植物の種?」
「うん」
「似たようなの、奈々ちゃんも持ってた」
「私は……その」
陽菜が袋を両手で握る。
「何かあった時……すぐ使えるように」
「なるほど」
千咲はそれ以上聞かなかった。
「あの、ありがと……」
陽菜が小さく言う。
「ううん!」
千咲が笑うと、陽菜もほんの少しだけ表情を緩めた。
千咲が俺の視線に気づいてこちらを向き、不思議そうな顔をする。
なに?とでも言いたげな顔だ。
俺は、なんでもない、と小さく首を横に振って席を立った。
眠気覚ましに風でも浴びたい気分だったが、授業までもう時間がない。
俺は眠気覚ましを諦めて、眠気と戦う覚悟を決めた。
◇ ◇
そして放課後。
いつもは千咲と二人で寮まで帰ることが多いが、今日は何やら用事があるからと、帰りのホームルームが終わるとすぐに、どこかへ走って行ってしまった。
一人で帰るか、と教室を出ようとしたところ、翔太に声をかけられて一緒に帰ることになった。
ところが、
「護、ちょっと待って」
俺が教室から一歩足を踏み出したところで、翔太が俺を呼び止めた。
「ん?」
「あれさ、ちょっと見たい」
振り向くと、翔太の指差す先には、まだ教室の中に残っている二人の姿があった。
慧と智也だった。
二人で何かを覗き込んでいる。
「何してんの?」
翔太が近づいた。
「壊れかけてるの、直してる」
智也が答えた。
机の上には、授業で使った小型の魔導器具が置かれていた。
「先生に言えば?」
「もう言った。触っていいって」
智也は器具の内部を覗き込む。
その横で慧が、外装の一部を手にしていた。
「あ、これ木なんだ」
俺が言うと、慧が頷く。
「外側だけね」
そして、手の中の木材に指を滑らせる。
「ちょっと割れてるから、補強できないかと思って」
「木属性の魔力でってこと?」
「そう」
慧は少しだけ言いにくそうに答えた。
「俺、生きてる植物より、こういう加工された木の方が扱いやすいんだ」
「そうなんだ」
「……なんか、ちょっと変だよな。木属性っぽくないっていうか」
慧が苦笑する。
「なんで?木なんだから木属性じゃないの?」
翔太が言う。
慧は一瞬、きょとんとした。
「いや、まあ……そうだけど」
「ならいいじゃん」
翔太は本当に何も考えずに言っているようだった。
よく考えると、『木なんだから木属性じゃないの?』って少し変な文章な気がする。
もう一度考えてみる。
やっぱり、言っていることが分かるようで分からない、変な文章だ。
翔太は特に気にしていない様子だった。
慧も気づいたのか、小さく笑っている。
「高峰って面白いな」
「なんで?」
「褒めてるんだよ」
「ならいいや」
慧は智也に視線を移す。
「智也、それ外せそう?」
「多分。電流流せばロックだけ解除できる」
「壊さない?」
「壊さないようにやるよ」
「俺、触らない方がいい?」
「城戸じゃないから大丈夫」
「城戸はどういう扱いなの」
四人で笑う。
いつの間にか、俺も輪の中にいた。
二人の作業をしばらく見てから、そろそろ帰ろうかという空気になり、翔太と二人で教室を出る。
少し歩いたところで、背後から声がした。
「あ、高峰くーん!」
彩葉だった。
金色の髪を高く結んだポニーテールを左右に揺らしながら走ってきた。
「ん?何?」
「ちょっと聞いていい?」
「いいけど」
彩葉は少し迷うように視線を外してから、もう一度翔太を見る。
「あのさ、この前の実技でさ、高峰くん、すごい速く走ってたじゃん」
「あー」
彩葉の目が少し輝く。
「あれ、どうやってるの?」
「んー」
珍しく翔太の歯切れが悪い。
「私もできるかな?」
「できるとは思うけど、うーん」
やっぱり歯切れが悪い。
翔太は何やら難しい顔をして唸っていた。
「結構危ないから、やめといた方がいいかも」
彩葉は目を丸くしている。
「そうなの?」
「そう。足痛めるし」
しかし、彩葉はまだ諦めそうにない。
「じゃあ今度教えてよ」
「え?」
「高峰くんの、びゅーん、ってやつ」
翔太が明らかに困った顔をした。
「いや……うーん、」
「ダメかな?」
「いや、ダメって言うか、先生に色々習ってからの方がいいんじゃね?と思って」
珍しく慎重だ。
自分では何でもすぐ試そうとするのに。
それでいつも先生に怒られてるのに。
「そっか。……でもね」
彩葉は少し残念そうだった。
「私もあんなふうに走ってみたいんだ」
彩葉の目は真っ直ぐだった。
真っ直ぐに、翔太を見ている。
「じゃあ、そのうちな」
根負けして、翔太が笑った。
「座学の方ちゃんとできるようになったら教えるよ」
どの口が言ってるんだ、と思ったが、彩葉は特に気にした様子もなかった。
「約束?」
「え、約束は……」
翔太が俺を見る。
「何でこっち見るの?」
「護、どうする?」
「お前が決めろよ」
「薄情なやつ!」
彩葉は笑っていた。
「ごめん引き止めちゃって!高峰くんには、今度また聞きに行くから!またね、二人とも!」
ふと、急に用事でも思い出したのか、彩葉は早口で一方的に喋って、こちらの返事も待たずに走り去っていく。
その背中を見送りながら、翔太が息を吐いた。
「諦めてないよな、あいつ」
「たぶん」
「俺、人に教えるほど上手くないんだけどなぁ」
「でも嬉しそうだったじゃん」
「まあな」
翔太は照れ臭そうに笑いながら、走り去っていく彩葉の背中を見つめていた。
◇
また別のある日の帰り際。
ふと教室の中を見回してみると、見慣れた光景があった。
結衣が眠そうにしていて、未央はその横で、「早く起きて帰りましょう」なんて言っている。
琴音は少し離れた席で本を読んでいて、奈々は種の入った袋を鞄へしまうところだった。
陽菜は何が入っているのかよくわからない大きな袋を大事そうに抱えて、教室を出ていった。
慧と智也は、また小さな機械のようなものを覗き込んでいる。
修也と悠真はゲーム機を持って、今日も翔太が戻ってくるのを待っている。
その翔太はというと、陸に借りていたノートを失くしたとかなんとかで、校舎内を追いかけ回されているようだった。
凛は誰かに貸していた絆創膏の箱を片付けていた。
蓮司は誰とも喋らず、不機嫌そうにスマホを見ている。
大地は、帰りの挨拶が終わると一番に教室を飛び出していった。
入学初日には、名前しか知らなかったみんな。
今だって、全員のことをよく知っているわけじゃない。
でも、ほんの少しずつ。
名前の横に、その人らしい何かが増えていく。
「まもるん?」
千咲に呼ばれて振り返る。
教室の扉の前で、千咲と美月、春が並んでいた。
「帰らないの?」
「帰るよ」
「じゃあ行こ」
「うん」
それから四人で、他愛のない話をしながら歩いた。
学食のメニューは何がオススメか、なんて話題から、先生は結婚していそうか、なんてものまで飛び出した。
この手の話題は、ほとんど美月が発端だ。
校舎を出て少し歩いたところで、大きな足音が後ろから聞こえてきた。
見ると、息を切らした翔太が追いついてきたところだった。
翔太は息を整えてから、爽やかな笑顔を俺に向ける。
「なあなあ、あとで俺の部屋でゲームやろうぜ」
「そんなことより陸が探してたぞ」
翔太はけらけらと笑いながら、腕をぐるぐる回している。
「いいからいいから!あとで謝れば許してもらえ」
「…………る?」
翔太が喋り終わるのを待たず、背後から大きな影が覆い被さる。
背後の人影に気づいて、翔太がおそるおそる振り返った。
そして、首根っこを掴まれて後ろに引きずられていく。
「ごめんって!謝るから!陸!ほらこの通り」
「謝罪は要らない。見つかるまで探せ」
「そ、そんなぁーー!!!!」
どんどん遠くなっていく翔太の声に、俺たちは思わず吹き出した。
千咲と美月は、男の子ってほんとに、みたいな顔をして笑っていた。
春も、堪えきれずに肩を小さく揺らしていた。
まだ始まったばかりの学園生活。
最初の日より少しだけ、このクラスが好きになっていた。




