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星屑の瞬く夜に  作者: 鈴太
第一章
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7/18

第7話:得意なこと

次の指示を待っている間。

気づけば俺は、モニターを見ていた。

天野護――1897。

神谷蓮司――4735。

城戸大地――2106。

桐原千咲――3002。

改めて見ても、蓮司だけ明らかに数字が違う。

同じ火属性でもここまで差が出るものなのかと、改めて思う。


「まもるん?」


隣から声がした。

見ると、千咲が膝を抱えて、少し心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。


「ん?」


「元気ない?」


「そんなことないと思うけど」


たしかに、真剣に数字を見ていたからいつもより口数が少なかったかもしれない。

ただ、元気がないなんてことはない。


「そう?」


「うん」


「…………なら、いいんだけど」


そうは言うものの、千咲はまだ俺のことをじっと見ている。

なんだか心配されているようで気恥ずかしい。


「まあ、すごいとは思ったけど」


実際、それだけだ。

あれだけの火力を目の前で見せられれば、素直にすごいと思う。

俺にもあれができたら、と思わなくはないけど。


「次いくぞ」


上里先生の声で、俺たちは話をやめた。

千咲は何か言いたそうにしていたが、やがて諦めて前を向いた。

先生は操作パネルの前に戻って、いくつかのボタンを押した。

倒れていた標的が起き上がる。

別のボタンを押すと、人型標的の頭部に白い円が浮かび上がった。

胸の辺りにも同じ円がある。


「今度は出力じゃなく、精度を見る」


上里先生が標的を指す。


「頭に出てる白い円を狙え。そこに当てればいい」


円はそれなりに大きい。

顔の半分くらいだろうか。


「ただし、さっきみたいにでかいのをぶつけりゃいいってわけじゃない」


言葉と同時に、先生が蓮司を見る。


「……俺ですか?」


「お前以外に誰がいる」


「当たればいいんじゃないんですか」


「それじゃ精度を測れねえだろ」


そして先生は、標的の胸に表示されている方の円を指した。


「いいか。胸まで焼いたら失格だ。火球そのものを小さくして、必要な箇所だけに当てろ」


蓮司は少し不満そうだった。

さっきの課題とは、ほとんど正反対だ。


「これも一人ずつ。三発撃て。順番は同じだ」


先生が俺を見る。


「天野」


「はい」


また最初だが、もうこの流れにも慣れてきた。

指定された線まで歩いていくと、標的までは十メートルくらいだった。

右手を真っ直ぐにして地面と平行に上げ、狙いを定める。

さっきの出力測定とは違う。

今度は威力はいらない。

小さく、狙った場所に当てる。

それだけだ。


「始め」


掌に魔力を流し、小さな火の玉を撃つ。

一発目。

火が白い円の中心近くに当たった。

二発目。

今度は、ほぼ中心。

三発目。

これもほぼ中心だった。


「よし。三発命中」


先生の声と一緒に、俺は手を下ろした。

特に難しいとは思わなかった。


「次、神谷」


蓮司と入れ替わる。

蓮司は標的へ向けて手を構えた。

火球が生まれる。


「小さく」


「分かってます」


さっきよりは小さい。

それでも、俺が撃ったものよりかなり大きかった。

一発目。

白い円の端に当たる。


「命中」


二発目。

今度は少し上へ逸れた。

円から外れる。


「外れだ」


「……チッ」


三発目。

蓮司が狙い直す。

今度は円の内側に入った。


「二発命中」


上里先生が結果を告げる。

蓮司は少し振り向いて、的を睨みつけるように見ながら戻ってきた。

さっきの出力測定の時とは、ずいぶん様子が違って見える。


「次、城戸」


「はい!」


大地が前へ出る。

手を構える。

先生の開始の合図とともに、一発目。

火が勢いよく飛び、円の少し横へ当たった。


「外れ」


「うわ、マジか」


「次」


二発目。

今度は当たった。


「よーし!」


「まだ一発ある。集中しろ」


「はい!」


三発目。

撃った瞬間、火が少し膨らんだ。

円の端には当たったものの、その周囲まで炎が広がる。


「これは失格だな」


「ええ!?」


「最初に説明した通り、胸まで焼いてる。精度の測定って意味じゃ失格。記録は一発命中だ」


「はーい……」


大地が肩を落として戻ってくる。

やっぱり、同じ火でも違う。

さっきの課題でも見えたそれぞれの特徴が、そのまま別の形で出ている気がした。


「桐原」


「はい」


最後は千咲。

指定位置に立つ。

俺は少しだけ気になっていた。

制御は千咲が圧倒的だった。

だったら、こういう課題も得意なんじゃないか。


「始め」


一発目。

中心近く。

二発目。

少しだけ右。

それでも余裕で円の中だ。

三発目。

また中心近く。


「三発命中」


やっぱり。

千咲が戻ってくる。


「まもるんと一緒だ」


「そうだな」


「でも、まもるんの方が真ん中だったかも」


「そう?」


「うん。たぶんだけど」


自分ではそこまで意識していなかった。

円の中に当てろと言われたから、真ん中を狙っただけだ。


「じゃあ、次」


上里先生が操作パネルに触れる。

頭部に表示されていた白い円が、一回り小さくなった。


「今度はこれ」


さっきの半分くらい。

さすがに少し難しそうだ。


「同じく三発」


また俺から。

構える。

小さくなった円の中心を狙う。

撃つ。

一発。

二発。

三発。

全部、円の中に入った。


「三発命中」


今度は少し嬉しかった。

戻って、他の三人の様子を見ると。

蓮司は一発。

大地は一発も当たらず。

千咲は三発。

ただ、千咲の三発目は円の端ぎりぎりだった。


「危なかったぁ」


戻ってきた千咲が、自分の手を見る。


「当たってるんだからいいだろ」


「でも、まもるん全部真ん中じゃん」


「狙ったからな」


「私も狙ったよ?」


「じゃあ俺の方が上手かった」


「むぅ」


千咲が少しだけ頬を膨らませる。

なんて顔してるんだ、と言おうとした時、先生が俺を呼んだ。


「天野、もう一回やってみろ」


「俺だけ?」


「ああ」


先生は操作パネルを触った。

白い円が、さらに小さくなる。


「……小さくないですか?」


思わず聞いた。

頭部の中心に浮かんだ円は、もう握り拳より小さい。


「小さくしたからな」


「ですよね」


「距離も伸ばす」


「えぇ……」


ありきたりな機械音をならしながら、床の上を滑るようにして奥へと下がっていく。

さっきまで十メートルくらいだった距離が、一気に倍近くまで広がった。


「先生、天野だけ難しくないですか?」


大地が言う。


「難しくしてる」


「なんで?」


「見たいから」


何を?

そう思ったけど、先生は説明しなかった。


「まあ、とりあえずやってみろ」


「はい」


もう一度、指定位置に立つ。

遠い。

さっきまで見えていた白い円が、かなり小さく見える。

俺は右手を前へ出した。

火を作る。


「もっと小さくしていいぞ」


上里先生が言った。


「威力はいらない。とにかく中心に当てることだけ考えろ」


掌の火を見る。

もっと小さく。

余計な部分はいらない。

炎を絞る。

掌全体の四分の一くらいの大きさまで小さくしたところで、これ以上小さくすると消えるような気がした。

そのまま標的を見る。

頭部。

白い円。

さらに、その中心。

不思議と、他の部分はあまり気にならなかった。

距離が遠くなったことも。

標的が小さく見えることも。

狙う場所が一つなら、そこだけを見ればいい。

右手を少しだけ動かす。

まだずれている。

もう少しだけ下。

ここだ、と思った。

掌で魔力を爆ぜさせるイメージ。

細い火が飛んだ。

標的の頭部に、小さな赤が散る。


「……ど真ん中」


先生の呟きに、思わず拳を握りしめた。

達成感があった。

振り向くと、蓮司は遠くの標的を睨んでいた。

大地は「すげぇ」とか言いながら蓮司に話しかけているが、軽くあしらわれている。

千咲は立ち上がって、手をぴょこぴょこと小さく動かしながら上げていた。

何年ぶりかの、ハイタッチの構えだ。

俺は千咲の近くまで歩いていって、掌を合わせた。

ぱん、と乾いた音がした。


「すっごいじゃん!私あんなの無理だよ!」


真っ直ぐに俺の目を見ていた千咲の視線が、少し右にずれる。先生がこちらに向かってきていた。


「天野。お前、こういうの慣れてるのか?」


慣れているかと言われてもよく分からない。


「……どうなんでしょう?」


「どうでしょう、ってお前なぁ」


先生は少し呆れたように俺を見た。


「慣れてるかは分かんないですけど、狙ったところに当てるのは、昔から割と得意な気がします」


「どのくらい?」


「どのくらいって言われても……」


考える。

これまでだって、日常生活の中で魔法を使う機会はたまにあった。

中学生の時には、木にくっついているセミの抜け殻を目掛けて、誰がいちばん近くに撃てるか、なんて遊びを公園でしたこともあった。

改めて思い返してみると、昔から狙った場所を大きく外した覚えはあまりない。

公園の勝負でも、たしか俺が勝った気がする。


「天野。お前は、火力も制御も今のところ並だ」


「はい」


「でも」


そこで言葉を区切り、先生が遠くの標的を指す。


「一点を狙うのはかなり上手い。この点では、桐原すら上回っている」


一点に集める、という先生の言葉を脳内で反復した。

俺は自分の右手を見る。

特別なことをしたつもりはなかった。

ただ小さくして。

狙って撃った。

それだけだ。


「これが、お前の強みだな」


俺の強み。

出力測定では1897。

蓮司の半分にも届かなかった。

維持も、千咲みたいにはできなかった。

でも、狙った一点へ当てる、ただそれだけなら。

俺にも、得意と呼べることがあるらしい。


「やっといつもの顔だ」


千咲が隣で言う。


「俺変な顔してた?」


「んーん、なんでもない」


千咲は笑って、風に揺れるスカートを押さえた。

右手を握ってみる。

急に強くなったわけじゃない。

新しい魔法を覚えたわけでもない。

それでも、自分について、昨日まで知らなかったことを一つ知ることができた。

今はそれだけで十分な気がした。

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