2-18:スヴェルト鉱山 上
「改めて、私のことはパントエールと呼んで頂戴」
駅へ向かう最中、コンスタンツからそのように言いつけられた。そもそも、王党派内では王族がいるという話自体は共有されているものの、彼女こそが王族であることを知っているのは王党派のトップ層のみで、セギュール曰くディケムですら彼女の正体は知らないはずであるらしい。
確かに自分も――そこまで世情について敏感な方ではないが――ソルヴェーニャの王女が存命であることなど知らなかったし、バレてしまえば様々な組織に悪用されることもあり得る。だから内密にしているといえばそれまでだが、自分には共有したということは、それだけ彼女たちの本気度が窺える。
さて、今回向かうスヴェルト鉱山については、王党派が所有する第四層の一画――というわけでは流石にないらしい。ただ、鉱山の一区画が民間に解放されており、その経営者が親ソルヴェーニャであるため、帝国には秘密で一部の採掘をさせてもらっている、という話らしい。
煉獄内へは、正面から普通に入ることができた。パントエールが正式な発掘証を持っているので、それにくっついて入る形だ。一応は同行者の顔も管理局員に軽くチェックされるが、いとも簡単にスルーされた。あの人相書きではバンダナの占める割合が大きく、かなり目立つ特徴になっているから、本当に外すだけでバレないらしい。もっとも、刺青は見えないように気を付けなければならないが。
スヴェルト鉱山には、自分は行ったことがなかったが――主に採掘が目的とされる第三階層と第四階層は早々にスキップしたからである――パントエールが場所を知っているようですぐに移動することができた。
鉱山の入口には人だかりができており、見ればけが人も多くいるようで、軽い恐慌状態に陥っているようだ。人だかりの中で、こちらに気付いた人物がおり、その者が近づいてくる。恐らく、王党派の者だろう。セギュールが歩み寄り、声を掛ける。
「救援に来ました。状況はどうなってますか?」
「は、はい。モンスターは鉱山の第十三番区画で出現しました」
「ウチの管轄ですね……鉱員は無事ですか?」
「本日出勤していた二十名のうち、十名の避難は確認できています。残り十名については、残念ながら不明です」
「貴方は、発生したモンスターは見ましたか?」
「いえ、私は見ておりません。ただ、採掘を進めた先が、モンスターの巣だったようで……浅いところにいた私は助かりましたが、深いところにいた同志については……。
見た者の話では、硬い殻に覆われた、巨大な虫のようなモンスターであったとのことです」
「分かりました、ありがとうございます。貴方は引き続き、ここで同志が出てこないか待っていてください」
「はっ……セギュール様、パントエール様、ご武運を」
男の敬礼に対し、セギュールとパントエールは同じ所作を返す。その後は人ごみをかき分けて鉱山の中へと踏み込む。入口から少し歩くと背後の喧騒は聞こえなくなり、辺りは突然の静寂に包まれる。
入口付近は人の行き来も多いためか、しっかりと壁も補強されており、一定の距離ごとに灯りもあるので、やや薄暗いながらも歩く分には問題はない。しかし、化け物の出現でみな仕事を放棄して外に出ているので、普段なら響いているであろうトロッコの動く音やツルハシを振り下ろす音はなく、ただ自分たちの靴の音が響くのみである。
逆をいえば、まだ敵の気配はないということにもなる。今日はとくに気配に敏感なアザレアがいないため、早期の感知などは難しいだろうが、それでも巨大なモンスターともなればある程度の物音や気配は感じるだろう。つまり今はまだ、この辺りは安全といっても良さそうだ。
今のうちに、彼らに何ができるのか確認しておくのが良いか。隊列としては、前衛として動けるパントエールを先頭に――女性を前にするというのも何だが、最近はアザレアを前に置いているのであまり気にもならなくなってきている――自分とセギュールが並んで歩いている形である。
「セギュール。アンタは何ができるんだ? 見たところ、魔術師のようだが」
「お察しの通り、我が一族は代々続く精霊魔術師の家柄です。もっとも、ここ三百年は過去の栄光を頼りに霞を食って、何とかつなぐほど没落した家柄ではありますがね」
霞を食うというのは流石に誇張だろうが、魔術師が影響力を持てなくなったのは仕方がないだろう。この世界において有名な言葉の一つに「魔術は枯れ、大陸は火器に制圧された」というのがある。これは過去数百年における魔術の没落を意味する言葉だ。




