2-17:パントエールの目的 下
「しかし……まさか、王党派最大の大物が、鉄砲玉として帝国のおひざ元にいるとはな。少々無謀なんじゃないか?」
「私もそう思います。このお転婆がきかん坊で困っているんです……というのは半分冗談ですが。どのみち、どこにいてもディケムの情報網を掻い潜ることは難しいですし、コンスタンツ様は剣術の達人にして、貴重な神器の使い手でもありますから。
何より、最前線で戦うと言ってきかないので、こうやって私やバルトンがお守りをしている形です」
「セギュール、一言も二言も多いわよ」
臣下のお小言に、お転婆の姫が口を挟む。そして両手を組みながら――恐らく机の下で足も組んでいるだろう――独り言のように話し始める。
「私は、お飾りの旗振りになるつもりはないだけ。王党派の者たちに担がれた神輿のままでは、真の意味でソルヴェーニャを取り戻すことはできないもの」
「真の意味での、ソルヴェーニャってのは?」
それは単純な疑問だった。彼女にとって真の意味でのソルヴェーニャというのは何なのか――こちらが質問してもなお、彼女の目線は机に向かっている。何か思い出そうとしながら喋っている、そんな感じだ。
「お父様は、決して国外追放をされたことを恨んではいなかったわ。祖国で流れる血を憂いながらも、それがソルヴェーニャのためになるのならばと、革命については目を瞑っていた。
でも、フェルノワールの独裁だけは許していなかった。己の欲望に民を付き従わせ、侵略戦争という名の熱狂に臣民を巻き込み、いたずらに大陸中で血を流している……私はお父様の遺言に従って、暴君フェルノワールを討ちたいだけ。そして、ソルヴェーニャの民に、ソルヴェーニャの未来を返したいだけ。
ただ、私がお飾りなままだと、元の木阿弥……いいえ、むしろフェルノワール帝国よりも酷い惨状を巻き起こすかもしれない。貴族たちは昔の特権階級を夢見て戦っている。でも、もはや臣民は二十年前には戻れないもの」
そこで言葉を切り、ようやっとコンスタンツはこちらに視線の焦点を合わせる。その瞳には強い光が籠っている――必ず成し遂げなければならないという決意を感じる光だ。
「だから、そう……私の目的は、お父様の愛したソルヴェーニャを取り戻すこと。ソルヴェーニャの民の手にソルヴェーニャを返すこと……そのためにフェルノワール帝国と戦っているのよ」
「……ふぅん」
「……何か?」
「いや、遺志を継ぐってのは殊勝なことだと思ってな」
実際、感想としては半々だ。人の目的に対して半々というのも失礼な話だが――ひとまず、今日聞いた話の中で、最も芯の通った話だとは思った。
セギュールの話はそれこそ板書にある通り、絵に描いた餅のようで、分かりやすくはあったが想いはなかった。対してコンスタンツの話は「私の目的」であり、理解もできるし、ある程度の共感もできる内容であったと思う。
同時に、危うさもあると思った。革命が始まったのが二十年前であり、彼女の父であるガストンはそれよりも前に追放されていたことになる。下手をすれば彼女が生まれているか生まれていないかという時分の話だろうし、仮にその時点で生まれていてもコンスタンツに物心はなかっただろう。
つまり、彼女の目的は本当に「亡き父の遺志を継ぐ」の一点であり、彼女にとって取り返すべきソルヴェーニャというものの実体はないはずだ。そういった意味では現実に打ちのめされることもあるかもしれない。
しかし、同時に――亡き人のために戦うという点については、共感できる部分はある。
王党派に協力したいかといわれれば未だ首をかしげるが、ひとまずコンスタンツに協力する、という意味合いなら良いかもしれない。どのみち、どの組織に与したところで碌なものじゃないのだ。そういう意味では、少しでも協力できると思える相手がいる組織の方が良いともいえる。
そんな風に思っていると、急に会議室の扉が叩かれる。緊急事態なのか、割と乱暴な叩き方だ。セギュールがノックの主を中へと通すと、社員風の男性がこちらとコンスタンツの顔を見比べている。自分がいて話していいか、迷っているのだろう。
「良いわ、そのまま話して頂戴」
「はっ……第四層のスヴェルト鉱山に、突如としてモンスターが発生したとの連絡が入りまして」
「詳しい状況は分かる?」
「分かる範囲では、甲殻類型で銃が効きにくく、数自体は多くないのですが、一体一体が強力なようです。それに……」
「今日は第五層で兵たちが演習中だから、動かせる人員が少ないと」
「そうなのです、それで指示を仰ぎたいと……」
「私とセギュールで出る。下がって頂戴」
男が会議室から出ると、すぐにコンスタンツとセギュールも立ち上がる。
「悪いけど、また後日来てもらっていいかしら? 詳細な日程は、後ほど使者を……」
「いや、俺も一緒に行こう。戦える奴は一人でも多い方が良さそうだ」
「……いいの? 貴方、まだ傷が癒えていないのでしょう?」
「前衛をやれと言われれば厳しいが、援護くらいならしてみせるさ。それに、帝国相手にドンパチやりあうのに手を組もうってんだ。互いに手の内をもう少し見せ合った方が、理解も進むだろう?」
「それもそうね……それならお言葉に甘えて協力してもらうわ。私たちは着替えてから行くから、貴方はエレベーターの前で待っていて頂戴」
「了解だ」
二人と別れて言いつけ通りにエレベーターの前へと移動し、そういえば帰りが遅くなりそうだと一報入れておくべきだと思い、シュライクを介してアザレアたちに言伝を頼むことにする。
すぐにシュライクから『女がメチャクチャに慌てているぞ』と報告が入ったが、『何とか宥めておいてくれ』とだけ返したタイミングで、着替えたコンスタンツとセギュールと合流したのだった。




