2-14:レジスタンスのオフィス 上
アパートを出てから目的地までは、徒歩で三十分ほどかけて到着した。パントエールの地図は簡易だが分かりやすく、またランドマークを的確に示してくれていたので、一切迷うことはなかった。
王党派が使っているという建物はビジネス街の外れにある。朝の時間帯は出勤や外回りのために外に出ている者が多いのだろう、繁華街ほどではないもののそれなりの数の人とすれ違う。
とくにいつもの活動範囲と比較すると帯刀している者が少ないので――荒事で金を稼いでいる奴が少ないせいだろう――少しじろじろと見られたのは気になったが、別に禁止されているわけでもないので、気にすることもない。
『そういえば……女と小娘の件だが、どうするつもりだ?』
指定された建物に入ってエレベーターを待っていると、出し抜けに、シュライクの声が脳裏に響く。
『なんだ、突然だな』
『いや、ひとつ意見を出したくてね。今後も奴らと行動を共にするつもりか?』
『つもりも何も、元々お前が連れて行けって言ったんだろう?』
『それはそうなのだが、状況を整理するとだな……女は原典派の連中に、小娘はありとあらゆる機関からその身を狙われている。君も帝国に指名手配をされているわけだが……行動を共にしていると、狙われる機会が多いというリスクは認識しておくべきだと思ってね』
『確かに、そりゃ事実だ。だが、今さら捨てるつもりはない。フィオナはフェルノワールを倒すのに絶対に必要だし、フィオナを守ってくれるアザレアも必要だ』
『ふむ、そうかね』
『あっさり引き下がるじゃないか?』
『いや、全くの同意見だからね』
そのタイミングでエレベーターが降りてきたので乗り込み、昇降機の操作員に五階を指示して壁際に陣取る。
『それなら、わざわざ聞かなくてよかったじゃないか。要するに、連れて行くべきだと思ってるんだろう?』
『だから、状況を整理するために言ったまでだ。強いていえば、群れることで君が腑抜けてしまうんじゃないかと心配というのはあるが』
『ふぅ……そうだな』
『ふむ? 珍しく素直じゃないか』
『別に、お前の言うことを逐一真剣に受け止めてるわけじゃない。半々だな……別にあの二人を復讐の道具と考えるまで冷酷になる必要もないが、あんまり頼りすぎるのも良くないのは確かだと思ってな』
『ほう、冷静だな。主の成長を、我輩は誇らしく思うよ』
『さて、ここだな……お前のこともそれなりに頼りにしてるんだ、頼むぞシュライク』
『はは、嬉しいことを言ってくれるじゃないか……声は聞こえているから、我が主が不利にならないように意見は出そう』
念話が終わったタイミングでちょうど五階に着き、エレベーターから降りる。フロアを丸々貸し切っているらしいので――レジスタンスが入居審査などは大丈夫なのだろうかと思いつつ――すぐに受付があり、そこで名前を告げると、会議室に通されることになった。
移動の際にはオフィスの中を通ることになる。意外と真面目に働いているようで、背広たちが机に向かって書面と向き合ったり、タイプライターを打ったりしている。中には新聞を読んだり、朝食をかっこんでいる者もいる――普通に働くというのはこういうことなのだろうが、荒事だけで食ってきた自分には縁遠い世界でもある。
そんなこんなで会議室に通されて一人座していると、一人の女性が盆を持って中へと入ってきた。その顔は、見知った顔である。
「イリス、無事だったんだな」
「そっちこそ、無事でよかったわ」
「悪いな、俺のせいで」
「いえ、私の場合は前々から目を付けられていたのでしょう。貴方以外の帝国への反乱分子に加担していたからね。だから、気にしないで。それに、王党派の方々にお仕事はもらえているから、問題はないわ」
「そうか、それならよかった……座らないのか?」
イリスは自分の前にコーヒーの入ったカップを置いて、そのまま立ちんぼをしている。
「言ったでしょう、仕事をもらってるって。早くも新しい職場で大活躍で、私は忙しいの……面接官が来るまでの余興よ、私は」
面接官とは、言い得て妙かもしれない。スカウトといっても、向こうにも選択権がある。新居まで与えられるほど期待されているとも思っていたが、今日のやり取り次第では「自分が敢えて王党派に加担しない」ではなく、「向こうからお断りされる」という可能性もあり得るわけだ。
「状況は認識できたようね。もちろん、貴方にも選択権はあるわ。貴方の決断を優先すればいいと思うから、とやかくは言わないけれど……女の子を二人も養ってるなら、きちんとお給料をもらうのもいいんじゃないかしら?」
「なんだ、茶化しに来たのか?」
「言ったでしょう、余興だって。でも、王党派は私が信頼して付き合ってた相手だってことは、留意しておいてちょうだい」




