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2-9:黄昏の帰り道 中

 その後は簡単に荷物を整理し、フィオナと共に買い出しに出掛けた。商業区ほど充実しているわけではないが、この辺りは学生や居住者向けの簡単な商店も多いため、買い出しには困らなさそうだ。


 買い物をしている最中は、フィオナは割と静かだった。食べたいものに関しての意見だけは熱心だったが――お菓子ばかりだったので半分以上は却下した――それ以外についてはどことなくよそよそしかった。


 普段ならもう少し毒舌が来るはずなのだが。思い返せばフィオナはアザレアには懐いていたが、自分に対してはそんなにである。ただ、それにも増して遠慮がちに感じる。


「胚の力についてだが、今後は本当に有事の際以外は使わないようにしよう」


 黄昏に染まる街並み、買い物の帰り道、そう声を掛けてみる。もしかしたら、今後も胚の力を使うことに関して恐怖があるのではないかと思ったのだ。


 一応、この件については移動がてらに考えていた。あれだけの力を発揮できるのは魅力的だが、それでも、フィオナが異界の瘴気に取り込まれることを恐れているのも――実際に浸食されている自分としては――理解はできる。


 それに、普段の探索に使うには、あの力は過剰だ。あそこまでの火力は出さなくても、モンスターや並のデミゴッドと戦うには問題ない。


 そう思っての決断だったのだが、フィオナは紙袋を抱えながら、口を開けて唖然としているだけ。向こうからの返答がないので、もう少し、こちらの想いを伝えることにする。


「すまなかった。俺は、アオートの胚の能力について、細かいことは知らなかったんだ……いや、知らなかったからこそ性質が悪かったといえるかもしれないな」

「……いいの? それじゃあ、私、あんまり役に立たないんじゃ……」

「何言ってるんだ。拳銃一丁で神器に立ち向かって大金星だったんだ。十分だろう」


 実際のところ、フィオナは頑張ったと思う。そもそも、子供を戦場に連れて行くのが良いのかと言われれば疑問は残るが――それを差し引いて考えたら、並の冒険者と比較にならないくらいの戦力といえる。やや怖がりな点はあるが、いや、むしろ恐怖の中に活を見出したからこそ、彼女の力は素晴らしいものだといえるだろう。


 こちらの言葉に対して、フィオナはまた唖然としており――ただ、先ほどは完全に予想外だったという様子だったのに対し、今度は少し喜びも混ざっているように見える。ともかく、向こうから言葉が出てこないので、引き続きこちらから話すことにする。


「ただ、有事の際は使わせてもらうかもしれない。悪いが、その点は頼む」

「うん。強力な敵が出てきたら、生き残るのには必要。それで、聞きたいんだけど……」

「なんだ?」

「あの、ハルトはなんで……うぅん、なんでもない」


 別にある程度のことは答えるつもりでいたし、逆に中途半端なところで切られると気になるのだが――しかしこちらが追及をする前に、フィオナが「ところで」と言いながら、ポケットから一つのオブジェクトを取り出した。


「セスティナから、炎典レーヴァテインを取り戻してきた。これで弾薬さえあれば、色々な銃を使うことができる」

「なんだ、それじゃあ買った拳銃はもうお役御免か?」

「うぅん、これはこれで良いと思ってる。レーヴァテインはどうしても、変形するまでにラグがある。何よりこれ、気に入ったから」

「そうか。それじゃあ、上手く活用してやってくれ」

「うん、任せて」


 ここで初めて、フィオナは明確に笑みを浮かべた。ただ、そこからまた少し沈黙が訪れ、ややあってから少女の方から「ねぇ」と声を掛けられる。


「セスティナとスルトは、どうなったと思う?」

「頭に血が上っててあんまり覚えてないが……フェルノワールはアオートの胚を求めていた。そうなると、フェルノワールに連れていかれたんじゃないか?」

「そう、だよね……」


 先ほども考察したように、アオートの胚の力は強力だ。イグノートゥスの力を直接使役する自分にとっては最高に相性が良いともいえるが、神器の性能を向上させるだけでも凄まじい価値があるといえる。


 しかし、今にして思えば、なぜセスティナらはフェルノワールにフィオナを差し出そうとしていたのか? この「差し出そうとしていた」も予測に過ぎないが、状況から見てほぼ間違いないだろう。


 フェルノワール側の動機も気になる。シュライク曰く、アオートの胚は煉獄の最下層に踏み込むために必要らしい。フェルノワールも最下層に眠る力を求めてはいたのだろうが、ここ最近は帝国として積極的な探索はしていなかったようだから、急な方向転換があったということになるのだろうか。


 そんな風に考察していると、ふと袖が引っ張られる。フィオナが遠慮がちな瞳でこちらを見上げていた。

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