2-8:黄昏の帰り道 上
パントエールらに連れられた先は、第三階層の鉱山の一角だった。そこで採集物の中に紛れて、ゲートを通るという算段である。本来ならこのような事態を想定して、ゲートを越える荷物はチェックされるのがルールとして決まってはいるようだが、検査は形骸化しており、先頭の荷台をちょろっと確認される程度でスルーされることが多い。
実際に、パントエールらの作戦で見事にゲートを通過できた。荷物を降ろすタイミングで――実際に彼女らは業者に鉱物を売っているらしい――自分たちは荷台から降りて、後はそのまま街へと昇る。
「やっとダサいバンダナを外した」
フィオナから散々な評価を得ているバンダナを外しても、一応は前髪で刺青を隠せるようにしている。もっと正確にいえば、そもそも前髪がうざったいのでバンダナを巻いていたというのもあるのだが――ともかくこれのおかげで人相がバレないというのは、たまたまバンダナを巻いていて良かったといったところだろう。
街へ出てからはバルトンとセギュールと別れ、パントエールが潜伏先へ案内をしてくれることになった。確かに、六人でぞろぞろと移動するのは怪しいことこの上ないし、あからさまにこちらのことを気に入っていないバルトンに案内されるよりはマシだったのだろうが――。
「……じろじろ見られるのも居心地が悪いんだが」
「気にしないで頂戴。観察が趣味なだけだから」
汽車に乗っている間、パントエールは喋るでもなく、ただひたすらに自分たちを観察していた。あまりにも無遠慮に、かつ無言のまま見てくるので、自分たちも会話がしにくい雰囲気になってしまっている。
いずれにせよ、外で話をしても誰に聞かれているか分からないし、そういった意味では無駄口がなくて良かったともいえるのかもしれないが――とくにアザレアはパントエールに苦手意識があるのか、彼女の視線に萎縮して小さくなっていた。
環状線から路面機関車に乗り換えて案内されたのは、ビジネス街寄りの学術区の外れだった。王党派は普段は普通にビジネスを行っているらしく、とくにここで塩の大地や帝国に関する情報を新聞にまとめて、大陸側へ出しているようだ。
パントエールの案内で通されたのは集合住宅の一室だった。居住区のように旧時代の建物を改造したものでなく、ビジネスマン用に新築された建物なので、外観も内装も綺麗なものである。居住者の多くがソルヴェーニャの者、かつ王党派であるらしい。
「貴方たちのアパートにあった物品は、可能な限り回収して持ってきたわ」
「マジか」
「マジよ……まぁ、貴方たちが合流してくれる前提での待遇だから。もし私たちの組織に入らないのなら、荷物ごと出て行ってもらうことになるけれど」
実際に部屋に整然と置かれている物品を手に取ってみると、確かに自分の所有物を運んできてくれていたようだ。とくに、長年かけて集めてきた暗号解読に関する書物が運ばれてきていたのは嬉しい誤算である。
「改めて礼を言わせてもらうよ、ありがとう」
「どういたしまして……それで、できれば明日、もう一度話がしたいの」
パントエールは備え付けの机の上で紙にペンを走らせて、書き上げたものをこちらへ渡してきた。住所と簡易な地図が記載されたメモである。
「今日中に意思決定してくれとは言わない。もう少し話し合って、相互理解を深めた方がお互いのためだと思うのよ……返事はそこから考えてもらって構わないから」
「何時に行けばいい?」
「明日なら十時が空いているわ」
「俺一人で行けばいいか?」
「貴方一人に裁量権があるなら、それで構わないわ」
そこで言葉を切り、パントエールは扉へ移動し、「今日はゆっくり眠って頂戴」と言って去って行った。
さて、改めて仮の住まいは――返事次第ではすぐに出ることになるのだろうが――前回住んでいた場所よりも広い、二つの個室と居間がある間取りだった。家具も備え付けてあり、わざわざ買い足す必要もない。このまま快適に生活もできるだろう。
「……私は王党派とやらに参加するのは賛成」
「フィオナ、お前それは綺麗な部屋に住めるからだろう?」
「うん。ハルトは嫌なの?」
「嫌って程じゃないが……落ち着かないのは確かだな」
ずっと慎ましく暮らしてきたので、塩の大地に来る前は安宿や、下手をすれば馬小屋のような場所で寝泊まりをしていたのであり、最新鋭の住居というのはどうにも居心地が悪い。そこそこ年季が入っている前のアパートは気に入っていたのだが――まぁ、今さら居住区に戻ってもリスクもあるし、そういった意味では住む場所が提供されているだけでもありがたいという部分もある。
「その……王党派に参加するかどうかは置いておいて、前の住居の方が私は落ち着きました」
「お、アザレアはあの良さが分かるか」
「そうですね。ちょっと三人で住むには手狭ではありましたけれど、みんなの息が聞こえてきてぬくもりがあったといいますか……ふぁ……すいません、あくびが……」
「ずっと寝ずに番をしててくれてたんだもんな。今日は休んでくれて構わないぞ」
「でも、お二人のご飯が……」
「材料がないだろう? それならどのみち買い物に行かなきゃだからな。買い物に行くくらいなら、俺とフィオナの二人で問題ない。作り置きの物を買って、それで食べておく」
「すいません、それではお言葉に甘えて……」
アザレアは眠たそうに目を擦りながら、先ほど取り決めた部屋に――今回もフィオナと同室にしてもらっている――入って行った。




