2-7:戦旗オリフラム 下
「……もちろん、報酬は出すわ。報奨金はもちろんだけど、組織に属してくれたなら住居の確保、並びに安全性の確保。私たちの持っている、かつ公開できる範囲の情報の共有、あとは、そうね……そっちの子も、怪我をしているの?」
パントエールはフィオナの方を横目で見ている。自分はミイラ男のような外見になっているからあからさまだろうが、フィオナには目立った外傷はないはずだが、それでもずっと横になっているから気になったのかもしれない。
「怪我というか、激しく動いたことによる筋肉痛だ」
「動けないほどの筋肉痛っていうのも違和感があるけれど……それに、後ろの女性もお疲れみたいだし。良いでしょう。驚かないで、そのまま楽にしていて」
パントエールは立ち上がって鞘からゆっくりと細身の刀身を抜き出し、それを正面で構える。自分の後ろにいるアザレアが警戒をしたようだが、彼女の動きを手で制止し――神器が起動できるかどうかを確認できる――パントエールの動きを待つ。だが、それにセギュールが横やりを入れる。
「パントエール、それは……」
「いいの、セギュール。ヴィクトリア・キアカ・エティマ・ミアト・ヒエラ・シエソ……起動せよ、勝利に導く救国の御旗。戦旗オリフラム」
パントエールが神器を起動すると、刀身から温かい光があふれだす。その光は自分とフィオナ、それにアザレアを包み――その灯りに照らされていると、次第に身体の痛みが引いていくような心地がしてくる。
「おぉ……身体の痛みが引いていく……」
「あたたかい……疲れがなくなっていくみたいです」
自分だけでなく、二人にも効果があったようだ。自分に関してはまだまだ身体は重いし、かつ戦闘するには厳しいが、ひとまず一人で立って歩けるくらいには回復した、といったところである。
「この剣……オリフラムの効果は、共に戦うものに加護を与えるというもの。力の増強や自然治癒能力の向上……これは、ちょっとした気持ちよ。まぁ、動けない人と一緒に脱出をしたくないっていうだけではあるけれど」
要するに、大人数を一挙に強化するという神器か。パンタグリュエルに比べて効果は薄くとも、小隊や中隊規模を一気に強化できるとなれば、それはそれで強力ともいえるだろうし――それに一軍の長らしい効果ともいえる。
同時に、パントエールの行動は少々迂闊だとも思う。彼女は秘密の一つをいとも簡単に自分たちに提示したのだから。自分たちが王党派に属さなかった場合に、神器を持っている王族が塩の大地に潜伏しているという情報を漏洩されるリスクもあるわけだ。だからセギュールは止めようとしたのだろうが、パントエールはリスクを承知の上で治療を買って出てくれたのだろう。
パントエールが細剣を鞘に戻して、再びセギュールの横に座る。そして、こちらをまっすぐに見据えてくる。答えをよこせと、そう目が言っている。
『……どう思う?』
『王党派に参加することについてか? 君が主なんだから、君自身が考えて決めてほしいと思うが……僭越ながら意見を申し上げるとするなら、今は協力した方が良いだろう。
というのも、今のままでは君は煉獄の中に閉じ込められたまま補給もできないからな。一旦は協力する振りでもして煉獄を出て、新たな偽装身分を得る、くらいまでは一緒に行動した方が得策だろうな。
それにどの道、どこかの組織には入らざるを得ないだろう。眼鏡の男が言うように、その人相書きで追われるほどではないだろうが、新たな発掘証の発行は難しい。そうなれば、王党派でなくともどこかのレジスタンスに合流しなければ身動きは取れなくなる。
なので我輩としては、交渉を引き延ばすことを推奨するね。実際に協力するかどうかは時間をかけて決めたいと伝えればいい。奴らだって暇じゃない。君が答えを出すまでここで座って待ってたりはしないだろう』
『確かにな……』
それに、アザレアとフィオナの意見も聞きたい。アザレアは「ご主人様に従います」と言うだろうし、フィオナは聡明といってもまだ子供なので意見は出しにくいだろうが、それでも共に行動する立場ではあるので、彼女たちの意見もある程度は考慮するべきだ。
「この場で決められることじゃない。少し考える時間が欲しい」
「まぁ、そうよね……一旦、それでいいわ。ひとまず、私たちと一緒に街まで戻りましょう。煉獄を出る手筈があるから、どちらにしてもついて来て損はないと思うわ」
「あぁ、そうしてもらえると助かる……あと、イリスを保護してくれたことと、治療のことも感謝するよ」
「あら、礼を言えないタイプかと思ったら、意外と殊勝なところがあるのね。別に、貴方に恩を売って私たちに合流してほしいという打算込みの行動だから、気にしなくていいわ」
「そういうアンタは、結構歯に衣着せないな」
「セギュールによく言われるわ、口が悪いってね……さ、行きましょう」
パントエールが真っ先に立ち上がり、埃をはたきながら出口の方へと移動を始める。そのすぐ後をバルトンという老兵が続き、セギュールが「どうぞお先に」と笑顔で自分たちの移動を促してくる。こうやって挟み込むことで、こちらの逃走に備えているのだろうが、どちらかといえば怪我人である自分とフィオナを守りやすいための配慮、という感じはする。
先ほど王党派に属するのは遠慮したいと思ったばかりだが、一応この二人は――パントエールとセギュールは――それなりに信頼のできる人物かもしれない。そう思いながら自分も立ち上がり、青髪の女性の後を追うことにした。




