2-6:戦旗オリフラム 上
「それでも、皆がフェルノワールに逆らえないのは、彼には絶対的な力があるから。彼に忠実な帝国兵やディケムを除いた元帥たち。そして、それら以上に重要なのがデュランダルです。絶対の防御を誇る聖剣は、単純に彼の守りとなっているだけでなく、帝王の不可侵性の象徴ともなっている。
ですが、それを突破できる手段があるとするなら……皇帝の威光は崩れ去り、帝国の瓦解に繋がることでしょう」
帝国がどうなろうと知ったことではないが、フェルノワールを自分以外の者に倒されてしまっては困る。アイツに刃を突き立てるのは自分だ――ただ、それをまだ信頼しきれていない彼らに話すことでもない。ひとまず、黙って男の話の続きを伺うことにする。
「……それで、ディケムのことですが、どちらかといえば、彼はフェルノワールと折り合いが良くないのですよ。ディケムは常に権力を欲しますが、帝国の現状から皇帝に不信感を抱いている。
一方で真っ当な文官がいなくなっている皇帝としては、ディケムは優秀な人材であり、曲者と分かりながらも重用せざるを得ないのです。それ故に互いに納得していないながらも、手を組んでいるというのが現状です。
ディケムは常に保険を掛けており、どちらに転んでも良いようにことを運んでいます。なので、皇帝に対して協力をしながら、彼の反対勢力とも色々と繋がっているのです。私たちはその一枝に過ぎません」
「はぁ……とはいえ、逆にいえばディケムにもレジスタンスの情報は漏れているんだろう? 大丈夫なのか?」
「一応、ディケムにも大義名分はあります。元共和国の議員として、帝国内の中枢に侵入しつつ、ソルヴェーニャを取り戻そうとする人々に対して協力をしている……王党派の中での人気は最悪ですがね」
それもそうだろう。ソルヴェーニャ王族の処刑に関する投票は、ディケムの一票で可決されたのだから。王党派としては最大の裏切り者ということになる。逆に、ディケムの側としては、王権復古を果たした場合に備えて、少しでも王党派に恩を売っておこうという魂胆もあるのかもしれない。
しかし、理知的そうなセギュールは置いておいて、他の二人などはディケムとの連携など認めそうもないものだが――やはりバルトンはディケムの名が出るたびに顔をしかめているが、パントエールは眉一つ動かさず冷静な様子だ。長い足を組んで、ただ無言のまま目を瞑ってセギュールが話し終わるのを待っているようだ。
「……それにどうせ、互いにスパイを送り合っているのです。もちろんこちらの情報を見せずに相手の情報を入手しようと努めるのは大前提ですが、肝心なのはその速度……情報を手に入れてからどれだけ速く動けるか、でしょう」
「まぁ、確かにな。その言葉通り、アンタらが一番乗りだった」
「えぇ。貴方のことを知るシャルトリューズ女史を一番早くに保護できたおかげで、いち早く貴方の居所の予測が立てられました。まだ煉獄から出ていないこと、七層付近まで攻略していること……五層までは人も多いですし、それなら六層に身を隠していると踏み、かつ貴方の攻略範囲を彼女から聞いたおかげで、だいぶ場所を絞ることができました。
それで状況をまとめますと、一昨日の夜半にディケムから我々のもとに連絡がありました。表向きは皇帝フェルノワールの命令で、貴方……ハルト・ハードロックと、その協力者であるイリス・シャルトリューズの指名手配を行うというもの。そしてその裏で、貴方がデュランダルを突破しかけたという情報を得ました。
それで我々は、まずは懇意にしているシャルトリューズ女史を保護し、貴方を迎えに来たわけです。デュランダルを突破できる可能性を、是非とも我々の組織に迎え入れるためにね」
「なるほど、事態は把握できた」
頷くと、セギュールは僅かに身を引き、代わりにパントエールが身を乗り出してくる。
「後は交渉ね。私たちは、フェルノワールを倒せる戦力が欲しい。そのために、貴方たちに協力を要請するわ」
「協力を要請ってことは、レジスタンスに属さなくても大丈夫か?」
「その辺りは交渉次第ね。ただ、属してもらった方がお互いのためだと思う。私たちは貴方に命令や依頼がしやすくなるし、貴方たちとしても追われる身だし、組織内にいた方が安全を確保しやすいでしょう?」
彼女の言うことはもっともではある。とくに自分は帝国に指名手配されているし、そうでなくともフィオナは様々な勢力から狙われている。アザレアだって古巣から目を付けられているようだし、自分たちはどこに行っても安住の地はないといえる。
ただ、レジスタンスに加担するというのが気に食わないというのが正直なところだ。政治信条はどうでもいいのだが、それでも王政を復古させるべきかというのは疑問が残る。自分はフェルノワールに対する仇討ちが目的なのであり、帝国の統治そのものに疑問があるわけではないのだ。
もっとも、戦争で世界が疲弊しているといえばそれまでだが――フェルノワールさえ倒せば戦争は止むだろう。だが、その後の世界は、どちらかといえば王侯に委ねられるべきものではなく、民衆に委ねられるべきものだと思う。
少なくとも、自分は王侯貴族たちのパワーゲームによって奴隷にされたようなものであり、そんな世界が碌なものではないと思うから。そうなれば、どこかに与するとしても、自分にとっては王党派は避けるべき相手だ。
それに、レジスタンスは単純に自分の目的と競合する組織。こいつらに属したら、フェルノワールを生け捕りにしろ、などと言われる可能性もなくはない。そうでなくとも、他の誰かにアイツの息の根を止める手助けをしてしまうこともあり得る――イリスを救ってくれたことはありがたいが、考えれば考えるほど手を取りたい相手とは思わない。




