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2-5:王党派レジスタンス 下

「それで、スカウトっていうのはどういうことだ?」

「言葉通りの意味です。ハルト・ハードロック殿。ソルヴェーニャ王国の至宝、王剣デュランダルを突破しうる力を見込んで、ぜひ我々に協力してほしいということで、このように馳せ参じたわけです」

「ちょっと待て。その件、情報が出回っているのか?」

「ごく一部では……とお伝えしておきます。貴方も外の状況が気になるでしょうから、まずは順を追って説明しますよ。

 まず、先日の朝に新たに二名の者が帝国から直々に指名手配となりました……その人相書きがこちらです」


 そう言いながら、セギュールは鞄から巻かれた二枚の厚紙を取り出した。それを手に取り一枚目を開くと、やはり自分の顔と名前が刻まれていた。しかし、罪状は――。


「罪状は、スパイ疑惑です。反逆罪や国家転覆罪などは適用されていません。まぁ、あまりに強烈な罪状を載せると愛国心の強い帝国兵などに命を狙われかねませんから。情報が欲しいので、生け捕りにしたいのでしょう」

「それで、生きていれば三十万帝国リーブルだなんて懸賞金が掛けられているってわけだ」

「えぇ。ですが、幸いにも人相書きにはバンダナが巻かれた顔が載せられていますし、この絵では目元もほとんど分かりません。バンダナを外せば、街を歩いていてもほとんど気づかれないんじゃないでしょうか。

 何より、今回の手配はそこまで大々的なものではありません。新聞などにも載っていませんし、帝国兵や一部の冒険者にだけ解禁されている情報です」

「はぁ……随分と温情だな。本気で捕まえたいとは思えん」

「理由は二つ。あまり大々的な指名手配となれば、なぜそれだけのニュースになっているのか、その正当性が必要になります。デュランダルが破られたということを大々的に言うわけにいきませんからね……そのため、あくまで一般的な懸賞金の範囲になっているわけです。

 あとは、貴方を指名手配した人物が、アルマン・ディケムだというのが第二の理由です」

「ディケム……帝国大元帥か。それが理由になるのか?」

「えぇ……ですがその前に、もう片方の人相書きも確認してもらえますか?」


 言われるがまま、置かれているもう一枚の厚紙を広げる。てっきりアザレアの顔でも書かれているのかと思ったが、そこには意外な人物の顔が描かれている。


「……イリス!? 罪状は……こっちもスパイ疑惑か」

「えぇ。帝国としては、貴方と懇意にしていた彼女を捕まえることで、情報を吐き出させようとしたのでしょう。ですがご安心を、彼女は既に我々が匿っています」

「本当か、証拠は?」

「こちらを。貴方に会ったら、渡せと言われていたものです」


 セギュールは懐から一枚の封筒を取り出し、それを自分へ差し出した。中の手紙には、彼らが帝国に反抗する王党派レジスタンスで間違いないことと、イリス自身も彼らに保護されていることが記されていた。


「……なるほど、確かにイリスの字だ。続けてくれ」

「えぇ。まずは、イリス・シャルトリューズのことからお話しましょうか」


 貴方も心配でしょうしね、とセギュールは続け、彼女の詳細を語る。曰く、イリスは自分以外にも、反帝国的な分子と秘密裏に繋がっていたようだ。そのうちの一つが王党派であり、様々な情報交換をしていたらしい。王党派レジスタンスの中には煉獄を探索しているメンバーもおり――地下に眠る未知の力の調査や、塩の大地の地理把握などが目的らしい――そんな彼らを煉獄へ通していたようだ。


 そこでセギュールは一息つき、「さて」と新たな話題を切り出す。


「ディケムの件ですが……彼の異名をご存じで?」

「風見鶏だろう? ソルヴェーニャ革命において、そのときどきの権力者に上手く取り入って、最後には大元帥にまで上り詰めた男だ」

「その通り。彼は常に退路を用意してるんですよ。正義も信条もない男で、強いていえば勝ち馬に乗ることだけに腐心している」

「……待て、ディケムは王党派と取引をしているってことか?」

「あくまでも一部の情報が交換されている、というだけです。彼はもう、帝国が長くないと踏んでいるのです。

 フェルノワールが覇権を握って十二年ですが、帝国の政策に大陸中が疲弊しています。それもそのはず、彼のやり方は、ただひたすらに戦争を吹っ掛けて、その先から賠償金を巻き上げて、影響力のある土地から食料を買い漁るという焼き畑農業のようなやり方ですから。

 最初こそ旧体制の破壊者として崇め奉られていましたが、既に厭戦気分が至るところで高まっている……そもそも此度の戦乱は、何もフェルノワールが始めたものではありません。ソルヴェーニャ革命から数えれば二十年です。

 大陸はもう、戦乱をできるほどの元気がなくなっている……この塩の大地にいると、気づきにくいですがね」


 厭戦気分が高まっているというのは、自分も全く感じていなかったわけではない。そもそも、塩の大地に来たのが一年前であり、その時点での大陸側では停滞感というか、無力感というか、そういった空気に支配されていた。それ故に塩の大地の街の活気には驚かされたほどである。


 しかし、恐らくここ一年、正確には半年ほどでより事態は悪化していると思われる。ここ半年は物価の上昇が、とくに食料品で大きい。一次産業以外はありとあらゆる産業が集まっている塩の大地は、食料品に関しては輸入に頼らざるを得ない――大陸側で食品の希少化が進んでいるため、その煽りを塩の大地ももろに受けているのだろう。


 そういった意味では、確かに帝国の支配には陰りが見えている――改めて自分の中でそう結論付けている間に、セギュールが続ける。

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