2-4:王党派レジスタンス 上
荒れた屋内に三人を通すと、ただでさえ狭い空間が余計に狭くなったように感じる。フィオナは動けないので横になったまま、自分はなんとか上半身を起こして上着を羽織り、最低限の体裁を保って正面に座る二人と――壮年が背後に立っており、残りが正面にいる――向き合う。
「それで、アンタらは何者だ?」
「貴様……なんだ、その無礼な口の利き方は!」
こちらの質問に対して声を荒げたのは、戦士風の壮年だった。上品な歓迎でもなかったと思うが、そうおかしなことも聞いていないはずだ。なんだか食い掛かってきそうな壮年を青髪の女が手で制し、腕を組みながらこちらをつり上がった目で鋭く見つめてくる。
「私たちは、ソルヴェーニャ王国の対帝国レジスタンスよ」
「ソルヴェーニャ王国の……ねぇ」
ソルヴェーニャ王国という言い方はかなり気になる言い方だ。その国は、十二年前にフェルノワール帝国に滅ぼされた国である。より正確にいえば、二十年ほど前には王国ですらなくなった――かつて王政に対する革命が起き、ソルヴェーニャは共和国と化したのだから。
その後の魑魅魍魎たちの権力闘争は、最終的には対外戦争を行って力を付けた軍事政権の下に収束し、それが今のフェルノワール帝国の礎となった――要するに、ソルヴェーニャとはフェルノワールの最初の根拠地である。
それをわざわざ「王国」と言ったということは、こいつらは王党派レジスタンスということになるだろう。ソルヴェーニャを王国と呼ぶのは、そう言い慣れてしまった老人か、世情を全く知らない田舎者か、はたまた旧王国の支配層かのいずれかになるからだ。
王党派の目的は、革命によって失われた王国、もとい特権身分の再建であり、主に旧貴族や聖職者からなる。旧体制を徹底的に破壊したフェルノワールに対する恨みは一入といったところだろう。
自分は世情についてはそこまで詳しい方ではないので、王党派の存在自体は認知していたが、それが塩の大地にまで潜伏しているとは知らなかった。しかし、フェルノワール憎しという点では自分の競争相手ともいえる。そういった意味では、普段ならあまり仲良くしたい相手ではない。
ただ、それもこいつらが本当に王党派のレジスタンスであれば、の話である。嘘をつくとしても、もう少し無難な組織を騙るのが普通な気もするが――それでも帝国の者が立場を騙って自分たちを油断させようとしている可能性は、まだゼロではない。
『ふむ、なるほど……君、コイツは恐らく本物だぞ』
シュライクの声が脳裏に響く。もちろん、こいつらにはシュライクのことは紹介もしていないし、人形の姿も見せていない。外を飛ばせていたので、中へ案内するがてらにこっそりと中へ入ってきてもらい、今はフィオナが被っている毛布の下からこっそり状況を観察させている形だ。
『レジスタンスを騙って油断させようって魂胆じゃないってことか?』
『あの女の持つ鞘に刻まれている家紋を見たことがある。アレは間違いなく神器……ソルヴェーニャ王国に伝わる二つの神器の内、失われていた戦旗オリフラムだろう』
『つまり……こいつ、王族か?』
『さぁてな。何せ、その神器は革命のごたごたのうちに紛失していたはずだ。それを持ち出した不届き者なのかもしれん』
『それじゃ、本物の証明にはならないんじゃないか?』
『神器を使えたら、王族であることが証明されるだろう』
確かに、神器は血族ならば同一の起動キーで利用できる。鎖の魔術師が解読を必要とするのは、すでに壊滅したセクトや、この星を去ったイグノートゥスの神器を起動させようとしているからである。
つまり、王家に伝わる神器は王族ならば起動できるはず。仮に王族でなくとも庶子などの可能性が考えられるが――起動さえできれば、王党派というのはほぼ間違いないといえるだろう。
とはいえ、神器を使ってみてくれなどとは言えないし、今は情報が欲しいのも確か。そもそもイリスの使者ということならば、ひとまず話を聞くのは良いだろう。
「分かった。アンタの身分を信じよう。それで、レジスタンスが俺に何の用だ?」
「話が早くて助かるわ。この後も早いことを祈るけど……貴方たちをスカウトに来たのよ」
「スカウトぉ? 王党派にか?」
敢えて鎌をかけてみた。こいつらは一度も王党派を自称していない。ただ、レジスタンスと言っただけである。女は驚いたように目を見開き、老人はあからさまに狼狽しているようだ。ただ、眼鏡の男だけが口元を吊り上げ、興味ありげに身を乗り出した。
「折角貴方をお迎えするために上がりましたのに、失礼しました。私はジャン・カロン=セギュール、そして後ろの鼻息の荒いご老体がオーギュスト・バルトン。私の横の偉そうな女性はパントエールと呼んでください。
それで、我々は確かに王党派レジスタンスです。が、私はあくまで対帝国の、としか言っていません。それなのに、どうして貴方は王党派と分かったのでしょうか?」
「二点。お前らはソルヴェーニャのことを敢えて王国と言ったこと。あとは、そっちの女……パントエールの持っている鞘に、王国の家紋が印されているからだ」
「成程、ハードロック殿は博識でいらっしゃる。その家紋は、確かに王国のものですが、それは主に今より四百年前に使われていたものですから」
要するに、普通の人間は鞘を見ただけで王党派とは分からない、ということなのだろうが――シュライクの『我輩からしたら四百年前なんて昨日くらいの話だからな』という言い訳は置いておいて、セギュールとの話を続ける。




