1-72:カウント・ザ・ブリッツ 下
少しリスクを取って、今度は相手との距離を詰める。最後の詰めのため、相手との距離がより近い岩場へと移動する――十一、十、九、八、七、六――ここからは、後は力技だ。岩陰から飛び出して、ジグザグに走りながら相手との距離を詰め始める。
「……ヤケクソになったの!?」
やけくそかどうかと聞かれれば確かにやけくそなのかもしれないが、ここまでは自分の想定通りに動けている。だが、セスティナも何か感じるところがあったのか、半身出していた岩の影から身を隠してしまう。恐らく、そのまま移動して様子を見るつもりなのだろうが――賽は投げてしまったのだ、出目が出るまでは止まれない。
セスティナを追って岩陰に入ると、やはり彼女は後退を始めていた。だが、こちらの気配を感じたのか、振り向きざまに銃口を向けてくる。ここからは本気、もう出し惜しみは無し。身体に漲っている力の限り速度を上げて、またジグザグに走りながら相手との距離を詰める。
驚きに目を見開くセスティナ――五、四、三――セミオートの三点バースト、慌ててマニュアルに切り替えるのも忘れているのだろう。次のトリガーであの子は泣きを見ることになる。
こちらの接近に対してなりふり構わなくなったのか、セスティナはこちらに向けて――今までは末端を狙っていたが、今は胴を狙っている――銃口を構える。だが、今の感覚なら、銃口さえ見えていればどうとでもなる。
セスティナがトリガーを引く。その射線から僅かに横へずれて躱し――二、一、〇――セスティナが銃口をこちらへずらす。走りながら撃鉄を起こす。そしてセスティナがもう一度引き金を引く。彼女の顔に驚愕の色が浮かぶ。
そして――。
「……今!」
彼女の銃がドライファイアしているのに合わせて、走ったまま銃口を前に構える。狙うは、炎典レーヴァテイン。撃鉄が雷管を叩き、鉛球が飛び、それが突撃銃に当たり、その衝撃で彼女の手から神器が弾かれ、宙を飛ぶ。あとは、このままの勢いで――。
「くっ……!」
「たぁ!」
地面を蹴って、セスティナの方へと膝を突き出したまま跳びかかる。銃を弾かれてバランスを崩している彼女は、この一撃をよけることはできない。先ほどの意趣返しに相手の腹に膝を埋めると、その衝撃で彼女の体が思いっきり後ろへと吹き飛ばされた。
ただ、このままでは終われない。もちろん、ダメージ的には勝負あったといっていいとは思うが、あと少ししたら自分の方が動けなくなるはずだ。草の上に背中を強く打ち付けたセスティナの元まで走り、彼女が腰につけていたハンドガンを左手で抜き去り、撃鉄を起こして銃口をセスティナに向ける。
「ぐっ……ま、まさか、機関銃の弾数を数えていたというの……そんなこと、できるわけが……」
「不可能はない。私はお姉ちゃんなのだから」
左手の銃口を向けながら後ずさりし、転がっている炎典を拾い上げる。すると、レーヴァテインは手のひらサイズの冊子へと――金属の装丁が施された本で、背表紙にマガジンを差すスリットがある――戻り、それをそのまま懐へとしまい込む。
これで、彼女の無力化は済んだはずだ。マガジンベルトに入っているのはアサルトライフルのものだし、他に銃は持っていないはず。あとは、こうやって少し距離を離したまま、ハルトたちが勝つまで時間を稼げばいい。
「おかしな真似はしないで。もし怪しい動きをしたら……」
「……認めない。認めないわ……私がクィンティアに負けるなんて……」
「う、動かないで!」
「ふっ……撃てるものなら撃ってみなさいよ!」
「うっ……くっ!」
撃つか撃つまいか、悩んでいるうちに体に急激な痛みが走る。なるほど、これがハルトが感じていた反動か。思わずその場に跪いてしまい、それでも何とか銃を相手の方へ向けるが、腕が震えてまともに狙えそうにない。
「ふん、なにかしらドーピングをしていたのね……丁度いい、そこでアナタは大人しくしていなさい」
セスティナも苦しげではあるが、しかしお腹を抱えながらもなんとか立ち上がり、そして中央の巨大な岩の上へ飛び乗った。レーヴァテインを取り返さなかったのは、後回しにして問題ないと判断されたのか――そこまで考えて彼女が何をするつもりなのか気づく。
自分がセスティナに抗ったことなど無駄だったのだろうか? いや、そうはさせない。痛む体を押しながら、自分は二人が戦っている草原の方へと歩みを進め始めた。




