1-71:カウント・ザ・ブリッツ 中
「はっ、アイツらが来て急に調子に乗って……やっぱり貴女は裏切者よ!」
同時に、何かが先ほどまでいた場所に投げ込まれる。ヤバい、そう直感して岩陰を走る――飛来したそれは地面に落下するのと同時に、にわかに爆発を巻き起こす。こちらの命を取るまではしてこないと思っていたのだが、前言撤回するべきかもしれない。あの爆発に巻き込まれていたら即死していただろう。
しかし、裏切り者と言われるのは心が痛むが、同時にあの子の言うことが全部が正しいわけでないことは既に証明されている。だって、ハルトとアザレアは助けに来てくれたから――自分には、まだ帰る場所はある。だから、もう迷うことはない。
「そういうアナタは……!?」
言い返してやろうと手榴弾が投げ込まれた方角に銃口を向けると、もう一つ別の手榴弾が宙に浮いているのに気づく。ほとんど反射でその軌道を読み、空中にあるうちにそれを撃ち抜く。すぐに、地下空間に一発の花火が上がる。衝撃波が体を震わせるが、なんとかダメージを受けずに済んだ。撃ち落とせなかったら、今頃は爆風に巻き込まれていたはずだ。
だが、一息ついている暇もない。今度は上から降りしきるような弾幕。爆発の煙のおかげであてずっぽうな印象だが、逆をいえば銃口が見えない分、恐ろしさも増す――が、ここで怯んだらいけない。晴れかかる視界の向こう側、わずかに見える岩上のシルエットを頼りに一発撃ち込むが、それは身を引かれることで簡単に躱されてしまう。
すでにこちらは三発も使わされているが、向こうはまだまだ何本も弾倉を持っているはず。今向こうが身を引いたのは、リロードの意味合いもあるのだろう――その予感は的中し、すぐにまた弾丸の雨が降り始める。このままだとハチの巣にされると判断し、ともかく向こうから狙えない物陰に滑り込むように跳躍して、一旦弾幕をやり過ごすことにする。
その後は防戦一方。ばかすか撃てるセスティナと違って、こちらは考えなしに弾をばら巻くわけにはいかない。ただ、途中で吹き飛ばされてきたハルトを援護するために二発ほど弾を使わざるを得なかった。
ただ、それも無駄ではない。ハルトを援護できたことは嬉しいし、何より――セスティナの知らない切り札を得ることができたのだから。後は、いつ仕掛けるか。それを考えるため、物陰を移動しながら肩に乗っているギョロ目の人形に小さく声を掛ける。
「シュライク、アナタに任せればいいの?」
「うむ……しかし、主ほどの時間は使えまい。おおよそ……」
シュライクとの会話は、上からの銃声によって遮られてしまう。
「アナタ、あと一発しかないのでしょう?」
「その通り……私はこの一発に魂を賭ける」
「ふん……可愛くないクィンティア」
恐らく、セスティナは今のタイミングでリロードを行った。それに対して、こちらは彼女の言う通り、残り一発だ。アパートでの襲撃時に一発も撃たなかったからこそ、あと一発残っているというべきか、はたまた銃弾を持ってきてくれなかったハルトのこん畜生とでもいうべきか。
ともかく、文句を言ったところで弾が増えるわけでもないので、この一発に賭けるしかない。
それに、予備弾丸よりも勝ち筋が拾えるかもしれないチャンスは得られた。ハルトの使う魔術、その中にすさまじい身体強化の術がある。その強化はすでにスルトには見られているだろうし、セスティナも認識しているかもしれないが、他者に掛けられるかどうかまでは――自分も認識はしていなかったが――分かっていないはず。そこに、わずかに付け入る隙がある。
「セスティナが次の銃撃を始めたら、強化をお願い」
「それは構わんが……貴様の場合、強化が可能なのは一分といったところだ。それでも問題ないか?」
「あの子を黙らせるには、一分もあれば十分」
「了解だ。魂の弾丸とやらで勝負がつくか、見ものだな」
「ふぅ……いくよ、シュライク」
一度大きく息を吐き、覚悟を決めて岩陰から飛び出す。もちろん、セスティナはけん制のために銃弾をまき散らし始める。同時に、身体が熱く、軽くなるのと同時に、感覚が一気に鋭くなる。それは、時間の進みがゆっくりに感じられるほど――これなら、狙っていたこともできるはずだ。
ただ、自分が身体の強化を受けていることは、セスティナにはばれないようにしなければならない。そのため、走る速度には気を付けて――感覚が鋭くなっているのにいつも通りというのも難しいが――別の岩陰に身を隠す。
だが、あまり相手に時間を与えてもダメ。それに、単調になりすぎてもダメ。向こうはこちらの残弾があと一発と侮っているかもしれないが、それでも露骨に怪しい動きを見せて何も感じないほど愚鈍でもないはずだ。何せ、私の妹なのだから。
なんにしても、こちらの筋書きを押し通さなければ。少し身を乗り出して撃つふりをして数発――また一発、相手の弾丸が頬を掠める――また別の岩陰に移動する形で姿を見せながら、相手に数発撃たせる。
とにかく、相手に考える余裕を与えない。向こうはまだまだマガジンがあるという優位がある。その慢心を突かねば。




