1-66:炎の巨人と百貌の王 上
フィオナの姿が見えてからは、ただ我武者羅だった。だから、自分が何を言ったのかはよく覚えていない。フィオナの消え入りそうな声はほとんど聞こえていなかったが、少女の方の――シュライク曰くセスティナという名――大声は聞こえていた。
二人の事情など自分は知らないし、二人にしか分からないこともたくさんあるのだろう。それでも、フィオナが泣いているのも、彼女を泣かせている女のことも気に食わなかった。
変にあの子に情が湧いているわけではない。そもそもとして、自分だってセスティナが言っていたように道具としてフィオナを見做していた部分も間違いなくあるのであり、今さら都合のいい話でもあるのだが――それでも、フィオナを道具扱いする女のことが気に食わず、ついカッとなってしまった形である。
とにもかくにも、フィオナが戦う意思を見せてくれたのはプラスだろう。彼女は銃を迷うことなく受け取ってくれたのだから。
「クィンティア、何のつもり? そんな豆鉄砲で、私とやり合おうというの?」
「そっちこそ。銃を捨てなさい、セスティナ。もしハルトを撃ったら、私は躊躇なく引き金を引く」
「さっきまで泣いてたくせに……」
セスティナはそこで言葉を切り、フィオナの方を見ながら固唾を呑んだようだ。銃を向けるフィオナの気迫を感じたからだろう。
自分とセスティナが銃を向け合い、それを横からフィオナがけん制する形の構図なわけだが――その緊迫感を背後からの轟音が打ち砕く。アザレアとデミゴッドの方で動きがあったのだろう、さすがに視線をずらすわけにはいかなかったが、自分とフィオナが一瞬だけ気を取られたのは確かだ。
そしてその隙に、女はすぐに背後へと跳び、岩の上から降りた。さすがに二対一では不利と判断したのだろう。同時に、この隙にアザレアの状況を確認する。アザレアが後退する形でデミゴッドとの距離を離されており、熱線を避けている――草原をぱっと照らす猛烈な炎が、執事風の服に身を包んでいる老人の腕から発射されているのだ。
「貴様らの力、見せてもらおう……我が眷属たちに付き合ってもらうぞ」
老人が指先を鳴らすと、大地が揺れ始める。草原が割れ、そこから何かが這い出てきている。それも何体も――露わになったそれらは、端的に言えばスケルトンやゾンビなどのアンデッドだった。
しかし、それらは巨大な手足を持ち、またその手には巨大な武器を持っている。あんなもので攻撃されたら、ひとたまりもないだろう。それらが自分たちを、この草原の神殿を取り囲むように出現したのだ。
「なっ……巨人!?」
「奴は炎の魔神にして、巨人の王でもある。奴がここに小娘を運んできたのは、これが理由だったのだろうな」
先ほどまであった数の有利は、ここに来て一瞬でひっくり返されてしまった。そもそも、退路そのものを防がれたといってもいいだろう。こうなれば、手早くどこかを撃破したいところであるが――。
「ハルト、セスティナのことは任せて!」
岩の上から、意外な提案を投げかけられる。確かに、フィオナにあの女の相手を任せられるなら任せたい。だが、一人にして大丈夫なものか。
あの子の方へ銃を投げたのは、自分の道を自分で決めさせるために過ぎない。もちろん、彼女を戦力として換算している部分はあるが、それでも――対峙しているのは彼女と同じフィオナ・コルネリア・ヴェルメンティーノであり、かつ神器を持ち、更に成長までしている相手をするのは厳しいはずだ。
「……大丈夫、前みたいに焦ってるわけじゃない。それに、あの子は私の妹……姉である私が負けるわけない。だから、任せて」
岩の上でフィオナは不敵に笑い、ゆっくりと頷いて見せた。理屈は分からないが、今の彼女からは力強いものを感じる。いずれにしても、今は戦力を分散させざるを得ない。
それなら、彼女を信じてみることにしよう――早く片付けたメンバーが、他の誰かを助けに行けばいいだけ。自分が真っ先にスルトを倒せさえすれば、それだけ早くフィオナのサポートをしてやれる。
頷き返すと、フィオナはセスティナを追うように岩から降りた。上を取るメリットよりも、下で遮蔽物を利用するというのを選んだのだろう。自分も振り返り、敵に囲まれて押されているアザレアの方を見る。




