↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/179

1-57:復讐の理由 下

 回顧から現実に意識を戻すと、シュライクはつらつらとアザレアに説明を続けていた。


「なんにしても、この地に封印されているのは、何も我輩だけではない。塩の大地で信仰されていたものの内、最も強力で、ポプリストたちが恐れた連中が封印されているのだ。

 帝国も煉獄の最下層に眠るそれらの力を狙っている。元々は治安維持や帝国領を維持するのに手いっぱいで、もっぱらダンジョンの攻略は冒険者に頼っているみたいだが……その力を先に皇帝に取られれば、奴の力はより盤石なものとなってしまう。

 逆に、先に得られれば力の差を埋めるどころか、追い抜くことすら不可能ではない。帝国は鎖の魔術師どもを使っていくつかの神器を現在によみがえらせているが、それ以外は所詮は銃に鋼製の武器、我輩たちイグノートゥスからしてみれば原始的な武器で領土を拡大しているにすぎんからな。

 先に封印を解いて力を得ることができれば……塩の大地の外に出た人類が、原始的な技術から積み重ねてきた一万年程度の技術力など覆すほどの力で、帝国ごと滅ぼすこともできる。如何に神器を持つといえど、皇帝一人なぞ取るに足らずだ」

「では、アナタの目的も、復讐ですか? アナタに与する神々を復活させ、神魔大戦で敵対した神々に、仕返しをしたいと……」

「ふっ……まぁ、封印されている連中は、今もそう考えているだろうね。少なくとも、最奥に封じられているア(・)レ(・)を全て復活させれば、間違いなく神魔大戦が再来するだろう」


 シュライクの真意は、自分すら知らない。シュライクが自分に協力してくれている理由は、アザレアの推測と同じようなものと考えてはいるが、コイツからはあまり復讐してやろうという気概は感じない。どちらかといえば、単純に面白そうだから、くらいの理由で動いているようにも見えるのだが――本当のところはシュライクにしか分からないだろう。


 ただ、煉獄の最下層に封印された連中を解き放てば、世界に再び大きな災いが起こることは間違いない。アザレアもそれを懸念してか、無言のまま顔を蒼ざめさせている。まさか、自分が主人と仰ぐ男が、そんなことを計画しているとは思わなかったに違いない。


「……今度こそ、軽蔑しただろう? 俺は自分の復讐を果たすためだったら、この世界に再び神魔大戦を引き起こしたってかまわないくらいに考えている。

 それに、お前やフィオナのことだって、復讐の道具くらいにしか思ってない。復讐のためには手段を選ぶ気はない。奴を殺した後のことなんてどうだっていいんだ」

「そ、そんな……!」


 話しているうちに、段々と心が自棄になっているのを感じる。客観的に見れば、我ながら自分のやろうとしていることは本当にクソだ。自分勝手にとんでもないものの封印を解き、自分勝手に暴れて、やりたいことだけやったら後のことは知らない、というのだから。


「……こんな奴に、力は貸せないだろう? それならそれで構わない。元から、お前には勝手にしろくらいに思ってたんだ。今なら一人でもジョウント装置を起動できるはずだ。嫌になったのなら、もう帰ってくれていいんだぞ?」


 こう話している内にも、吐き気を催すような気分になってくる。それは、自己嫌悪のため。目の前の女は、自分がどんな目的で動いていようと、必ずついてくると分かっているから。


 内心でどれほど蔑まれようと、一度眷属として契約を結んだ以上、彼女はついて来ようとするだろう。それを分かっていて、自身を最低だと揶揄することで、罪悪感から逃れようとしているだけなのだ。


 だが、自分がどれだけ最低だと分かっていても、復讐を止めることはできない。フェルノワールを倒すのに神魔大戦が必要なら、引き起こしてやったってかまわない。自分にとっては、それほどセレスタが大切だったから――彼女は自分の全てだった。彼女のいない世界になど、もはや何の価値もない。


 同時に、それを奪った男のことだけは許せない。だから、アイツを殺して自分も死のうと思っている。もしこの世に天国と地獄があるとするのなら、セレスタは天国に、自分は地獄に行くのだろうが――。


「……あの!」


 気分が沈んでいく中、急な大声を上げられてびくりとしてしまう。少しぼーっとしてしまっていたが、顔を上げると、コツコツと階段を叩く二人分のブーツの音と、真剣な表情のアザレアの顔があった。


「もし、良かったらなんですけど……セレスタさんのことを、教えてほしいんです。どんな人だったのか、ご主人様にとってどのような人だったのか……」

「それを聞いて、何になるっていうんだ?」

「知りたいから……ただ、それだけです」


 正直、彼女がセレスタの代わりになるとか言い出したら、自分はこの女のことを許せなかっただろう。いや、もしかしたら真意はそうなのかもしれないが――止めよう、考えれば考えるほど自己嫌悪に陥りそうだ。


 こちらが黙ったままでいると、アザレアは「あの、その」とか言いながらしどろもどろになっているが、変わらず眼は真剣だ。これは話さないと梃子でも動かなそうだし、恐らく話しておくべきことだ――まだ続く階段を恨めしく思いながら、「仕方ない」と一言、話を続けることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。