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1-56:復讐の理由 中

「私は、かつてこの塩の大地に生きる人々に崇拝された神の一柱……いや、そもそもこの星の生物に文明という灯りを授け、この塩の大地を作り出した神。そして、他の神々の反乱の結果、封印される直前に、何とか本体の一部分だけを切り出したもの……それが私の正体だよ」

「分霊を作っていたのは、いつか本体の封印を解くため……でしょうか?」

「まぁ、そういうことにしておこうか」

「……なんだか、言い方に含みがありますね?」

「分霊を分けたのは、単純にそうしなければ完全に地下深くに封印されて身動きが取れなくなるからだ。今回、私が煉獄の最奥を目指している目的の一部分には、私自身の野暮用がある、とは言っておこう」

「つまり、煉獄の最下層を目指しているのは、ご主人様に力を授ける以外にも、アナタの意志でもあるのですね?」

「あぁ、その通りだ。しかし、力の大部分を封印された我輩では、堅牢な封印を施された塩の大地に侵入することも、私だけで煉獄を進むこともできなかった。それ故に、私は待っていたのだ……我が神器、ノモラスの封印を解けるだけの力を持つ人物をな」

「それが……ご主人様?」


 アザレアの視線が、こちらの腰に掛けている剣の柄へと落ちる。そして彼女が顔を上げたのに合わせ、シュライクは「左様」と言いながら首を縦に振った。


「その神器の起動キーを得るには、馬鹿みたいに何重ものトラップと、本来なら不可能なはずの言語を解読する必要がある。それらを乗り越える程の執念と才能を持つ人物ならば、必ずこの大地に施された封印すら解き明かしてくれるだろうとな。

 まぁ、会ってみれば意外と思ったほどの人物ではなかったが、その執念だけは過去に類を見ないほどであったから、面白いと思ってね。それ以来、主とは懇意にしている」

「ふざけるなよシュライク。神器の力を解放したいなら我輩をねじ伏せろと言ってきて、お前と一年間の戦争をさせられて、そして力づくで従わせたんだ」

「おぉっと、そうだったかな? はは、むしろ感謝してほしいね。今の君の強さを支えるのは、我輩の訓練の賜物《たまもの》だろうからな」


 実際のところ、シュライクとの戦いの日々のおかげでかなり実力が付いたのは間違いない。フェルノワールに対する復讐を誓ってから、ただひたすらに神器の解読をしながら、モンスター討伐による報奨金の獲得に明け暮れていた。とくに日銭を稼ぐのに怪物と戦い続けていたので、コイツを従わせる前からある程度は腕に覚えもあった。


 だが、所詮は我流であったし、磨かれたのはあくまでもモンスターとの戦い方。知性のある敵との戦い方はシュライクの下で学んだといっていい。また、元は銃での戦い方がメインであったのに対し、剣を使った立ち回りもコイツとの戦いの中で学んだ。


 思い返せば、シュライクは加減をしてくれていたように思う。本体は封印されていると言っても、大本は偉大な邪神であり、仮初の体であっても相応の実力はあって然るべきである。手段さえ選ばなければ、それこそコイツの思考力と知識をもってすれば、戦わずとも自分を罠に嵌めて殺してしまうことなど容易だっただろう。実際に対峙するとなれば、言わずもがな、である。


 それでもシュライクがそういった選択を選ばなかったのは、ある意味では自分を超える人物は二度と現れないと考えていたためである。


 コイツが重視するのは、知性でも力でもなかった。それらが単純に優れているだけというのは、人の範疇など遥かに超えた位置にいる神の視点からいえば面白くなかったのであろう。


 コイツが重視したのは、先ほど言っていたように執念、ないしは人しか持たない強い感情。人には絶対に解けないほどに難解であった神器を起動させた人物を評価し、それに相応しいだけの力を付けさせる――要は、戦争というのは建前であり、一年かけた修行だったわけである。


 もちろん、自分だってそれに甘えた気はないし、気に食わないコイツを絶対に封印してやる、くらいに考えていた。そもそも、復讐を果たすのに、あまりに遠回りをしてしまっている――あの日からもう十二年、その中でもエヌの写本を扱えるようになるのに二年、ノモラスの起動に掛かったのが八年だ。


 この二つの神器の起動が復讐を遂げるのに必要だという、これらを授けてくれた人物の言いつけをある意味では忠実に守った結果ではあるが、あまりに時間をかけてしまってはフェルノワールが別の者に倒されてしまう可能性などもあり得た。それ故に、必死でしごきに耐え、本来ならまた数年かかるであろうと見込まれていたシュライクの封印を、なんとか一年で済ませた形である。


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