1-49:五番と六番 下
入ってきたのは正真正銘一人。左手に見覚えのある突撃銃を持った、水色の髪を持つ女性、ここまでは予測していた中の一人の特徴に当てはまる。だが、残りは――もしこの特徴に合致する人物が来たとするなら、本来その者は私と同じくらいか、それよりもやや小さい人物が来ないとおかしいはずなのだ。
だが、入ってきたのは、自分よりもかなり背の高い女性だった。黒いラバーのスーツに身を包んだ肢体はしなやかで、手足はかなり長い――だが、同時に、その顔には毎日鏡で見ている人物の面影が確かに残っている。
ともなれば、間違いない、この人は――。
「そんな、アナタ……まさか、セスティナ……?」
「ふふ、久しぶりというべきかしら、クィンティア……もっとも、私からしたら、あまり久しぶりという感じはしないのだけれど」
自分が言葉を失っていると、破壊された壁側からシュライクの声が上がる。
「五番に六番か、読めてきたぞ……しかしまさか、コルネリウスほどの錬金術師が、今や原典派の犬と化しているとはな」
「勘違いしているわね、百貌の王。私たちは別に、原典派に与しているわけではない。予定外に奪われた出来損ないを、取り返しに来ただけ」
そこでセスティナは言葉を切り、入口に転がっている石像の一つを邪魔そうに蹴り退けた。石像は床を滑り、壁にぶつかって乾いた音を立てる。
「男がいないときを狙って奪いに来ようと思ってたんだけれど、まさか原典派も同じように考えていたとはね……ただ、あの女を引き連れて行ったのだから、こいつらも多少は役に立ったというところかしら?」
「成程、成程。では、貴様らは、小娘を原典派か弱小セクトに奪われた間抜けということだ」
「否定はしない。そういうアナタは、口のきき方がなっていないようね」
「よく主にも注意されるよ、失礼な奴だとね。だがね、人の腹をぶちぬいた挙句、土足で人様の家に入り込む強盗紛いな輩に言われる筋合いはないと思うのだが?」
「だから……いえ、アナタに構うのは止めることにする。大方、他の者たちが来るまでの時間稼ぎをしているだけでしょうから」
セスティナはシュライクの言うことに逐一苛立った表情を浮かべている。彼女は自分と比較して――同じ記録と遺伝子で作られているはずだが――神経質なところがあった。それは、成長した今でも変わらないのかもしれない。
一番は、なぜ彼女だけが突然成長しているのか、ということだ。本来なら六番である彼女が、五番である自分よりも大きくなっているのか。
状況がイマイチ飲み込めていない自分をおいて、セスティナはこちらに手を差し伸べて微笑みを浮かべた。ただ、その笑みの裏側には、どこか空恐ろしいものを感じる。自分の記憶の中にある彼女が浮かべないような、そんな表情だ。
「さぁ、クィンティア。私と一緒に来てもらうわよ」
「待って、私は全然事情が分かってないの……ちゃんと説明して」
「あまりあれもこれも話している時間はない。あの覚醒者の女が戻ってきたら厄介だから」
「それじゃあ、これだけは教えて……アナタについていけば、お父様のところに帰れるの?」
「……えぇ、そうよ。だから、行きましょう、クィンティア」
今ので、分からないことだらけの中に一つの核心を得た。彼女と戦いたいわけではないが――撃鉄を起こしたままの銃口を彼女の方へと向け、こちらの意思を表明する。
「何のつもりかしら?」
「答えるまでに、ラグがあった……お父様のところへ帰れるというのは、嘘なんでしょう?」
「勘だけは良いクィンティア……でも、お父様には私がいるから、もうアナタの居場所はない。フィオナ・コルネリア・ヴェルメンティーノは一人いれば十分。アナタは煉獄の扉の鍵となって、その役目を終えればいい」
「何を言ってるの……?」
「……哀れだな、六番目の娘。どうせ貴様も、コルネリウスの期待には応えられなかったのだろうに」
最後の声はセスティナのものではなく、自分の背後から聞こえたものだ。セスティナも苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、後ろで転がっているはずのシュライクの方を見た。
「貴様が暗躍しているのが何よりの証拠だ。コルネリウスは本物のフィオナを蘇らせられていないから、煉獄の最下層に封印されている力を求めているのだろう?」
「……貴様に何が分かる!」
セスティナは怒りをあらわにし、左手に持っていた銃を上げてトリガーを引いた。威力のある弾丸の連射を浴びたら、あれだけぼろぼろだった身体は文字どおりに砕けてしまっているかもしれない。
「シュライク!?」
「アナタも……もうお喋りは終わりよ」
腹部に鈍い痛みが走る。いつの間に、セスティナの右手が自分のみぞおちに深々と沈んでいたのだ。その痛みは腹部から背中に突き抜け、そのまま全身に走ったのかと思うほど――あまりの辛さに立っていることもできなくなり、自分もその場に伏せてしまう。
そして、意識が次第に遠くなり始め――最後に聞こえてきたのは、誰かもう一人分の足音と、「スルト、こいつを運んで……」というセスティナの声だった。




