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1-47:原典派の襲撃 下

「ゼロワンよりお達しが出た。貴様と胚の少女を、無理やりにでも連れ帰れと……」

「私がそれを許すとでも?」

「時代遅れの旧式がぁ……調子に乗るなよ!」


 男の体から再び殺気が吹き出し、凄まじい速度で前進してくる。だが、それも凄まじい轟音と共に止められた。男の手には先ほど同様に刃の大きな槍が、対するアザレアが鎌を双剣とし、交差させて止めたのだ。


 アザレアの力が強いのか、男の方は刃を押し込むことができないようである。しかし、男の側も一度槍を球体に戻すことで拘束を破り――その隙にアザレアが一気に前へと踏み込んだが、男の方は破壊してきた壁の穴から背後へと跳び出し、隣の建物の屋上へと着地した。


「貴様は頑丈さだけが売りなんだ! 五体満足で帰れると思うな!」


 遠くからそんなことを言っても、虚勢にしか聞こえないように思うが――すぐにそれは戦略の一環だということを思い知らされる。どうやら武器を投擲しやすいブーメランのようなものに変えて投げてきたようだ。


 ようだ、と曖昧に表現をせざるを得ないのは、一瞬しか見えなかったからである。アザレアは双剣を直ちに盾のような巨大な円形の物体に変形させて、男の攻撃を防いだ。


 ただ、それも束の間、何度も何度も攻撃を仕掛けてきている。アザレアは防戦一方だ。正確には、自分がここにいる以上、彼女は動くわけにはいかないのだろう。


「女、貴様はあの覚醒者の相手に専念しろ」

「シュライク!? でも、あと五人ほど、こちらへ向かってきて……」

「小娘も自衛はできるし、それに……」


 妙な気配を感じて、背後を見る。すると、入口の方に何某かの魔法陣のようなものが現れており、そこに袋の中の土が陣の中央に集まっていき、それらが集まって人の形を成した。背が高く、氷のような精巧な顔立ちで、上等な外套に身を包んだ偉丈夫だが、直感で分かる、これはシュライクだ。彼が人間の体を持つとしたら、ちょうどこんな感じになるのだろう。


「私が新手の相手をする。今は力の大部分は失っているが、木っ端を相手にするくらいは訳はないさ」

「しかし……」

「小娘は我が主の目的を遂げるのに必要なパーツだ。貴様と同じ従者として、みすみすと小娘をさらわれるような真似はせん。何より……」


 シュライクの言葉が聞こえなくなったのは、アザレアの展開している盾の方から轟音がしたからだ。アパートの壁は既にぼろぼろになっており、彼女が立っているところを境にほとんど外にむき出しになってしまっているほどだ。


「そうやって、防戦一方では埒があかん。心配なら、あの貴様の何倍もつまらない小僧を瞬殺して戻ってくれば良いのだ。貴様なら余裕だろう?」

「……アナタの言うことにも一理ありますね。すぐに戻りますから、フィオちゃんを頼みましたよ、シュライク」


 アザレアは盾を長柄の武器に変形させ、男の武器を力強く弾き返した。男の方はその衝撃で身体をよろめかせたようで――アザレアはその隙を見逃さず、勢いをつけずに対面の屋上へと一気に跳んで、刹那の剣戟の後、二人の影はいずこへと跳び去って行った。


 部屋に残るのは自分とシュライクのみ。いや、外から複数の足音が聞こえる。アザレアがあと五人は来ると言っていた。そいつらが今にもアパートの階段を上って、この部屋まで向かってきているのだろう。


「さぁ、銃を持って構えろ小娘。貴様の身体を目当てにした、悪い奴らがやってくるぞ」

「奴らって……人間を相手にしろっていうの!?」

「あぁ、そうだ。だが、モンスターや眷属と何が違うというのだ? どいつもこいつも、何某かの主義思想に傾倒して我を持たず、言われるがままに動く操り人形だ……貴様が先日撃ち抜いてきた連中と何一つ変わらん」

「で、でも……!」

「殺せんというのなら、せめて最低限の自衛はしろ! さもなくば、人体実験をするような組織に連れ去られてもいいというのか、貴様は!」

「くっ……!」


 アザレアが否定するような組織に囚われても、碌なことにはなりそうもない。それに、ハルトとの約束もある――意を決して個室へと駆けて武器を取り、すぐにシュライクの待つ居間へと向かう。そしてダイニングテーブルを倒し、玄関とは反対方向へと身を隠す。


「いいぞ、その調子だ……ちなみにだが、胚の力は使えそうか?」

「それは……」

「無理か。貴様、胚が辿る運命を知っているのだな?」


 そう、それが自分が能力を解放できない理由だ。根源の渦への干渉に少しでも失敗すれば、大変なことが起こるから――頷き返すと、シュライクは溜息一つ、一人玄関の方へとゆっくりと足を進める。


「まぁ、それなら仕方あるまい。幸か不幸か、奴らは貴様を殺す真似はしないはずだ。貴様は奴らに捕まらぬようにだけ専念しろ。後は、私がどうにかする」

「こ、殺すの?」

「さぁて、どうだろうね……加減ができる身分ではないからな。まぁ、可能な限り貴様の出る幕がないように努めるよ、お嬢さん」


 シュライクが不敵に笑った瞬間、玄関の扉がドンドンと叩かれ始める。そして、すぐに銃声が一発、ドアノブが落ちるのが見え――テーブルで身を隠し、拳銃の撃鉄を起こして覚悟を決める――そこから一気に複数人が室内に押し入ってきた。

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