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1-46:原典派の襲撃 上

 アザレアと対峙しているローブ姿は、仮面を被っておりその正体は分からない。ただ、背が高く肩幅が広いところを見るに、恐らく男性なのだろう。その手には先端に巨大な刃を持つ槍が握られており、アレでアパートの壁を破壊して中に入ってきたのだろうと――ここが三階であるという事実を無視すればだが――予測される。


「この人は……!?」

「原典派の刺客……それにあの武器、女と同じ覚醒者だろう」


 シュライクの声が横から聞こえる。男の持つ槍は、変形して収縮して球状になってその手に収まる――確かに、アザレアの持っているものと同じだ。となると、あの人もアザレアと同じくらい強い人になるのか。そして、その人が突然、この場に襲来したことが何を意味するのか。


「何をしている、ゼロツー……任務を忘れたのか。胚の少女を連れて、アメルキアに戻るのだ」

「断ります、と言ったらどうしますか?」

「貴様……主《しゅ》に対する信仰を忘れたのか?」


 アザレアの返答が気に食わなかったのか、現れた男は殺気を露わにする。だが、斬りかかってくる前に、男とアザレアの間に球体が――二人の武器とはまた違う水晶球のような透き通ったものだ――割り込んだ。


「止まりなさい、一〇三《ワンオースリー》。彼女はそこにいる異教の神にかどわかされているのです」


 水晶球から聞こえたのは、女性の声だった。それも、しわがれたゆっくりとした声――それだけでも老婆のものと判別できる。


「ゼロツー……貴女の居場所はこんなところではない。正気を取り戻すのです」

「この声は……聞き覚えがあります。ゼロワンですね?」

「……成程、精神的な干渉を受けて操られているのね。どうしたものか……」


 水晶からの声はそこで一度途切れた。アザレアはどうするのだろう――ゼロワンと名乗った向こう側の相手とは顔見知りのようだし、もしかしたら自分を連れて元の組織に戻る、と言いだしたりはしないだろうか。


 アオートの胚のことは原典派とやらも知っているようだし、もし連れて行かれたら酷い目に遭わされるかもしれない。なんやかんやでハルトの元にいるのは、戦わされるといってもまだ安全な部類ではあり、どこの誰とも分からない連中のところに連れて行かれるのは怖い――そう不安に思っていると、アザレアが一瞬だけこちらを振り返り、いつもの優しい笑顔で頷き返してくれる。


「……退いてください、ゼロワン。アナタの言うように、もしかしたらここは本来の居場所ではないかもしれないけれど、私自身はここにいたいと思っているのです」

「貴女はそこの邪神に意識を書き換えられて、そう思わされているだけです。さぁ、正気に戻って」

「仮に私がここにいたいという想いが本物でなかったとしても、一つだけ確かなことがあります。私の中で幾分か蘇った記憶……ご主人様とフィオちゃんと出会う前に私が組織に対して抱いていた本物の感情。

 それは、疑問……アナタたちの信仰が、果たして本当に正しいものなのかという疑念です。私は、アナタたちの信じる神に対する信仰を失っていたのです。ですから、もう戻るつもりはありません」

「愚かな。組織という籠の中にいなければ、貴女は……」


 球体からの通信が聞こえきる前に、空間に銀閃が走る。アザレアの手にいつの間にか巨大な鎌があり、そして浮いていた球体は真っ二つに割れて床の上に落ちた。


「これが答えです、ゼロワン。もう二度と、私に声を掛けないでください」


 そう言うアザレアの声は、聞いたことがないくらい冷たいものだった。少し記憶が戻ってきていると言っていたし、もしかしたらゼロワンとやらのことを思い出したのかも――それも間違いなく、あまり思い出したくない記憶であったに違いない。


 ひとまず、ただちに謎の集団に連れ去られるという事態は防げそうだが――侵入してきた仮面の男はアザレアの態度が気に食わなかったのか、肩を震わせているようだ。また、何か小声で通信しているようである。

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