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1-37:フィオナの焦り 上

 フィオナの武器を購入した翌日、二人を連れて煉獄へと降りることにした。発掘許可証は代表者が持っていれば問題ないので、わざわざ二人に取得させる必要はない。ただ、イリスには「本当に連れて行くのね」と呆れた顔をされてしまった。


 さて、今回の目的は三つある。一つ目の目的は単純に生活費を稼ぐため。結局昨日の買い物で稼ぎの大半を失ってしまったので、それを補填するためである。アザレアもいるので多少の無茶も利くだろう。今回は炭鉱に巣くってしまった蟻型のモンスター退治という、普段なら避けるような敵の数が多い依頼を敢えて受けることにした。敵の数が多いほど稼ぎも多いし、一体一体が強くないほど、他の目的を達成するのには向いているからである。


 二つ目の目的はフィオナの腕前を改めて確認するため。低階層なら危険も少ないし、自分とアザレアでいくらでもフォローできる――ただここに関する心配は杞憂であったようだ。フィオナの戦闘力には大きな問題は見られない。小型の敵が多いというのもあるかもしれないが、大口径の拳銃で一撃で敵を倒せているし、同時にすばしっこい敵を正確に射撃できているのは評価に値する。


 しかし、同時に期待していたほどではなかった、というのが正直な感想でもある。確かに狙いは正確だし、動きも速い。ただ、圧倒的なものは感じない――まぁ、片手で百キロもある質量兵器を恐ろしい速度で振りまわす実力者と同タイミングでの加入であったので、それと比べてしまっている部分もあるのかもしれないが。


 物足りなさの原因として考えられるのは、戦闘行動に対する躊躇というか、恐怖心が見え隠れする点にある。この辺りがアザレアが懸念していた点でもある。


 腕は良いので並の冒険者と行動するよりは余程役に立つとも思うし、この子が元々使っていた神器と比べて今持っている武器の火力が劣るというのもあるのだろうが、それでも第六階層以下で一人で十全に戦えるとは思い難い。自分やアザレアが矢面に立って、フィオナには比較的安全な立ち位置から戦ってもらう必要があるだろう。


 ただ、三つ目の目的、ここに関しては重大だ。これが達せなければ、この一週間程度の労力が全て無駄になるといえるのだが――。


「ふぅ……ダメ。上手くできない」


 そう、混沌の渦の力を引き出す能力の実験をしようと思っていたのだが、肝心のそれが上手くできないのだ。


 ちょうど蟻の掃討は完了し――最後の大物はアザレアが仕留めてくれた――安全は確保できているのだが、ここまでの戦闘の疲れのためか、また能力を引き出そうとするのに集中力を要したためか、フィオナは土の上にへたりこんでいる。


「ミドガルズオルムは胚の力を引き出せていたが……」

「アレは、小娘の意識がなかったからこそできたのだ。小娘の意識と関係なしに胚の力を無理矢理に引き出していたのだな。だが、それ故にあれはそこまでの強化に至っていない……小娘が自分の意志で渦にアクセスしてこそ、その真価が発揮される」


 自分の肩に乗っていたシュライクは、しゃがみこんで息を切らしている少女の方へと飛んでいき、その顔の前で滞空する。


「小娘、貴様が力を引き出せないのは、雑念があるからだろう。混沌の渦にたどり着くためには、ただ心を虚ろにし、根源へ意識を集中させればいいだけだ」

「うぅ……」

「力を引き出すことに躊躇があるのか? 我らが邪神の根源たる力に、恐怖しているというのかね?」


 自分は胚の力の引き出し方など知らないので、ただ小さくうずくまる少女を眺めるしかできないが――確かに胚の力を使うことには、先ほどの戦闘以上の躊躇があるように見える。もう襲われる心配もないのに、怯えているというか、そんな風に見えるほどだ。


 とはいえ、三つ目の目的については譲ることもできない。他の点を度外視したとしても、強化の力を目当てに拾ってきたのだから、それができないのなら、深層では足手まといになる可能性もある。


「……ちょっと二人とも、落ち着いてください。別に、混沌の渦とやらへのアクセスが、今日中にできるようになる必要もありませんよね?」


 背後から聞こえてきた声に振り返ると、アザレアがローブを纏い直し、フィオナの元で目線をあわせるようにしゃがみ込んだ。


「フィオちゃん、お疲れ様! すっごく活躍してたわね。おばあちゃん、驚いちゃった!」

「アザレアぁ……」

「怖かったわよね……よしよし」


 味方が来て安心して泣き出しそうになるフィオナの頭を、アザレアは優しい手つきで撫でている。そのままアザレアは顔だけ振り返り、こちらへ向けて真剣な表情を浮かべる。


「今日は、フィオちゃんがあれだけ戦えることが分かっただけでも良いじゃないですか。それに、力を引き出す練習なら、アパートでだってできることじゃないですか?」


 アザレアの言葉に、滞空したままのシュライクが応える。


「本番の緊張感の中でアクセスできなければ意味がないからな。実戦で試したいのが正直なところだが……」

「アナタには意見を聞いてません。ご主人様、どうでしょう?」

「先ほど、二人とも、と我輩にも声をかけておったではないか……まぁ、主が構わんというのなら、我輩もとやかくは言わんがね」


 一人と一柱の視線が自分に一斉に注がれる。この二人は、相変わらず仲が悪い。アザレアは元は異端狩りをしていたのであり、邪神と相いれないのは納得できる。シュライクもそれが面白くないのか、言葉の端に棘が――まぁいつもあるのだが、アザレアに対しては通常以上に――目立つ。

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