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1-35:露店にて 上

 翌日、このへんてこな共同生活が始まってから五日にして、ようやっと三人で街に繰り出すことになった。フィオナの衣装には、昨晩中にアザレアが鉛板を縫いこんでくれていた。フィオナからは「ちょっと動きにくい」と不評が上がっていた。


 ただ、彼女の不機嫌も駅に着いたらすぐに収まった。好奇心旺盛なフィオナは、汽車に興味を引かれたからだ。男の子などは割と機械類が好きというのは聞くが、彼女の関心はそれ以上のように思う。父は科学者だというし、そういう方面への興味は強いのかもしれない。


 汽車に乗ってからは、フィオナとアザレアはボックスシートの窓側に陣取って、二人で延々と外の景色を眺めていた。汽車の通る線路は高架線となっており、街が見渡せるため中々に景色も良い。少し進むと街の様相も変わっていくため――居住区から学術区、ビジネス街と変わっていく――なかなか見ていて飽きない光景なのである。


「それで、今日はどこへ行くの?」

「お前が武器を欲しがったんだろう? まずは買い物だ。それなりの金額は準備してきたから、心配するな」

「おぉ。それなら武器の他にも、新しい本と、新しい服と……」

「おい」

「私、ハルトがやってなかった分の家事をいっぱい手伝った」

「……まぁ、しばらくあのアパートに住むことになる訳だから、本当に必要なものは購入を検討してやる」

「必要なものはたくさんある。アザレアもいっぱいおねだりしよう」


 フィオナの提案に、アザレアは「はぇ?」と間の抜けた返事を返していた。どうやら、外の景色に集中していてあまり話を聞いていなかったようだ。


 二人にあれもこれもねだられたら破産しかねないので、アザレアからはわがままが来ないことを祈りたい――まぁ、自分から欲しがるタイプでもないし、必要そうなものはむしろ買い与えてあげるべきなのかもしれないが。


 商業区に着いて駅を出ると、大変な人ごみに巻き込まれる形になる。着いたのが昼時だったのもあるが――ちょうど、正午を知らせる鐘の音が響く――今日は祝日なので余計に人が多い。フィオナは小さいので、人ごみに流されてしまわないか心配になるが、そこはアザレアが気を利かせて彼女の手を引いてくれている。


 表通りは食料品店や衣料品店など日用品の店が多く、駅の近くにはデパートなどの複合施設もあるのだが、今回の目当ては奥まったところにある裏通りである。そこは、小さな個人店が軒を連ねるマーケットであり、軒先に商品が積んであるような路地である。


 治安の良いところではないので、本来なら女子供を連れてくるところでもないのだが、とくに銃器に関しては表にある量販店よりも掘り出し物が見つかることも多いので、こちらに連れてきた形だ。


 予想通り、周囲からは奇異の眼で見られている感じがする。まぁ、自分がある程度は警戒しておけば大丈夫だろう。最悪アザレアが動けばどうとでもなるとは思うが、あまり目立ちたくはないし、そもそも面倒ごとを起こさないように気を付けなければならない。


 そしてもう一つの予想通り、フィオナは目を輝かせながら店先に並ぶ商品の物色を始めていた。やはり銃器に関心があるらしく、銃器を多く取り扱う店先で足を止め、店主に見えるように一挺の回転式拳銃を指さした。以前に原典派が使っていた、アメルキアの銃に近い見た目をしている。


「これ、触ってみても大丈夫?」

「はは、別に構いやしないがね。ただ、それはお嬢ちゃんに扱えるようなものじゃ……」


 最後まで聞き終わる前にフィオナは銃を取り、慣れた手つきで点検を始める。ハーフコックでシリンダーを回転させて弾が入っていないことを確認し、そのまま両手で銃を持つ。撃鉄を起こして一発空撃ち、今度は振り返りながら片手に持ち替えて一発、さらにホルスターから抜き出す動作で一発。そのままの姿勢でファニングし、慣れた手つきでガンスピンを始める。最後にゲートを開けてエジェクターロッドを動かし、排莢する仕草を取ってから、銃口側に持ち替えてグリップの方を店主へと差し出した。


「名銃だから気になってた……頑丈で誤作動もなさそうだし、なかなか触り心地はいいけど、やっぱり排莢が重いのが気になる」


 唖然とする店主に対し、フィオナは満足げにそう言って、銃を元の場所に返して、今度は隣の店で同じように銃を物色し始めた。


「ご所望はハンドガンか?」

「それと、ショットガンとライフルと……」

「あのなぁ、そんなに持って行ってもかさばるだろうが」

「うん、冗談。考えたんだけど、威力のある弾を込められて、瞬発力があるのが良いと思ってる。ダンジョン内は遮蔽物も多いし、敵の数が多いこともある。何より、モンスターの生命力に対して一般的な自動拳銃の威力じゃ不十分」

「確かに、俺の拳銃じゃモンスターや眷属の相手をするのはしんどいだろうな」

「逆に、なんでハルトはそれを使ってるの?」

「威力じゃなくて、装弾数を重視してるんだ。着弾地点に術を発動できるからな……あとは頑丈さだな」

「ダンジョン内の環境を考えると、頑丈さは確かに大事。なかなか合理的な選択基準。

 私の場合だと、威力が必要になる。命中精度は、腕でカバーする……それなら、口径の大きいハンドガンか、ショットガンが良いかなと。私の身体でも取り回しやすいよう、ショットガンを買うならソードオフにするつもり。最初からいい長さの奴があれば、それを買ってもいい」


 そう言いながら、フィオナは銃身を切り詰めているレバーアクション式のショットガンでスピンコックを始めた。なかなか様になっているが、彼女の身長に対してはまだ銃身が長いようで、首を振りながら棚に戻した。


「本当はアサルトライフルがあればいいんだけれど……やっぱり流通してないみたい」

「アサルトライフル?」

「別名、突撃銃。威力の高い弾丸を連射できるんだけど……まぁ、仮に銃本体があっても、弾薬が補給できなければ意味がないから。今回は諦めることにする」

「この前、化け物と戦う専用の武器があったとか言っていたな? それがアサルトライフルだったのか?」

「アサルトライフルの形をとることもできた……というのが正確。それは、装填する弾倉に合わせて形状を変形させる武器だった。実弾はもちろん、エネルギーの放出も可能……弾丸さえ持ち歩けば、いかなる戦況も対応できる特殊な銃だった」

「そんなメチャクチャな銃があるのか? いや、もしかして……神器《エルダーファクト》か?」

「そう、神器。この前話した、お父様に仕える二柱のうち、片方が私に授けてくれたもの」


 まさか、神器を扱った経験があるとは驚きだった。詳しく話を聞きたかったが、その前にアザレアの方から「あの」と声が上がる。

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