1-33:奇妙な共同生活 上
そんなこんなで、アザレアとフィオナ、それに自分を含めた三人の共同生活が始まった。フィオナの武器購入は先立つものがないので少し待ってもらうことにして、ひとまずは部屋の模様替えから始めることにした。
少し広めのリビングダイニングと書斎兼寝室という二部屋の物件を借りているのだが、どうせリビング側をほとんど使っていなかったし、流石に二人にプライバシーがないと可哀そうと思い、書斎の荷物をリビング側に移し、個室を彼女たちの寝室にするというプランである。
荷物の移動に関しては、アザレアとフィオナが積極的に動いてくれた。フィオナはプライバシーをもらえるというのが嬉しかったらしく、意外にも協力的だった。アザレアについては、いわずもがなである。
実際に稼ぎに出るには、もう数日待たなければならなかった。というのも、単純に自分の身体がパンタグリュエルの後遺症から回復するのを待つ必要があったからだ。
アザレアをけしかければ早いのだが――ダンジョンに入るには、最低限一人分以上の発掘許可証が必要であるから、自分が向かうのは必須であるし、そうでなくともフィオナを他のイグノートゥスから守るのに、アザレアに別行動をさせるのが危険だったという意味合いもある。
壁の内側にいれば、フィオナの存在は他のイグノートゥスからはかなりバレにくいらしい。シュライク曰く、アオートの胚はその力を発さない限り、僅かな歪みが漏れ出す程度であるらしい。だからシュライクですらあの地下空間内で少女を目視するまでは胚の存在を認知できなかったのであるし、こうやって普通に生活もできている。
なお、外に出すときには特殊な金属を身に着けさせれば、その微小な歪みも外から感知できなくなる程度に抑えられるとのこと。「アルミホイルで簀巻きにするか」というシュライクの意見は意味が分からなかったので却下したが、鉛でも代えが利くらしいので――それも薄くても大丈夫とのこと――彼女の上着の裏地に鉛の薄い板を仕込むことでフォローする予定であるが、それもまずはひと稼ぎをしてからの話である。
家事に関しては、こちらも二人がよくやってくれた。意外にも、アザレアは家事が得意なようだ。正確に言えば、アザレアには結構癖があるのに対し、フィオナが慣れてない中でもアザレアをフォローしている、という構図である。
アザレアは現代的な生活と無縁だったらしく、機械の使い方が全然分かっていなかった。「窯もないのにどうやって料理をするんですか!?」とおろおろしていたのを、フィオナが水道や使わずに腐っていたガスコンロの使い方を教えてくれていた。
フィオナの言っていた研究所とやらにインフラがあるとは思えないのだが、機械の扱いに慣れているらしく、また頭もいいので、「家の構造や見た目から、ここにはこういう機能の機械がある」というのを瞬時に把握できるようだ。使い方を教えるたびにアザレアが過剰に褒めるので、そのあたりもフィオナとしては嬉しかったようだ。
ちなみに、アザレアの「家事に関して癖がある」というのは、概ねの作業は問題なくこなす一方で、たまに妙なポカをかますからである。掃除中の拭き忘れや洗濯物の干し忘れなどは可愛いものなのだが、料理の一品だけ塩と砂糖を間違えるとか、割と危険なミスも起こりうる。
アザレアをよく観察しているフィオナ曰く「ぼーっとしているときがあり、そのせいで失敗している」「多分、変な妄想をしているのではないか」という報告が上がっていた。
「……それで? ハルトは家事をしないの?」
「家事は得意じゃないんだ」
「予想外でも何でもない。部屋は汚かったし、料理は出来合いのものばっかりだったみたいだし」
なぜ居候にここまでこけにされなければならないのか――ともかく、空いている時間には、二人とも読書に励んでいた。普段のうるささからは全く予想のできない静かさと集中力である。
自分の蔵書は職業柄、主に言語学や暗号解読に関するものが多い。アザレアの方は言語自体には興味があるようで、なんとか頑張って本とにらめっこしているのだが、彼女の基礎知識に合わない内容であるためか、わりと「うぅん」と唸り声を上げているのを見かける。
一方で、フィオナの方は驚異的だ。彼女は本棚にあった本を凄まじい勢いで読破していっているだけでなく、自分が無理矢理契約させられて部屋の隅に積んでいた新聞まで読み込んでしまった。さらには物事を推察する能力にも長けているので、新聞から得られる断片的な情報から、最近の世情に関して自分よりも詳しくなってしまったほどである。




