1-32:おばあちゃんはママ 下
「ハルトの言うことは信用できない……そっちのシュライクっていうやつのことも」
「あのなぁ……まぁ話だけでもいいから聞けよ。恐らく、その研究所がある場所は、煉獄というこの地下空間のどこかに違いない。俺とシュライクは、この地下空間の最奥を目指している。だから、その途中でその研究所とやらも見つかるかもしれん」
「でも、結構広い空間なんでしょう? もし研究所が見つからず、先に最奥に着いちゃったらどうする?」
「そんときはまぁ、後から研究所を探すのを手伝ってやってもいい……だから、俺に協力しないか?」
「協力……煉獄を進むのを手伝えってこと?」
「あぁ、そういうことだ」
フィオナの言う特徴が本当なら、実際にコルネリウスの研究所というのが煉獄内のどこかにある可能性は高い。それも、恐らくは六層以下だろう――四層までは人の出入りが結構あるのに見つかっていないわけだし、同時に五層は自分がある程度は踏破しているが、彼女が言っていた特徴のあるような場所はなかったからだ。
一応、六層以降を塒にしている連中もいるという話は聞いたことがある。物資などはジョウント装置を使えばすぐに街に調達に来られるし、まだ見ぬ古代の遺物や、低階層で取れないような貴重な鉱物なども採掘できるからだ。
もちろん、深部ほどモンスターも強力なので、そういったリスクはあるのだが――それゆえに娘と認められなかったフィオナを訓練させて、化け物と戦わせていたのかもしれない。
それに最悪、煉獄内に研究所がなくたって自分は構わないのだ。要するに、彼女が自衛をしながら着いて来てくれることが重要なわけである。それなら、可能性だけ見せてついて来てもらえばいい――そんな風に考えていると、アザレアが横で小さく「あの」と手を挙げる。
「あの、ご主人様……すいません、意見を述べさせてもらうと、私は反対です。もちろん、フィオちゃんが強いのは理解してます。私はアオートの胚っていうのはよくわかりませんが、確かに不思議な力も感じます。
でも、フィオちゃんは迷子なだけです。そんな子を危険な目に遭わせるのは、違うかなと……私達だけで探索して、研究所が見つかったら連れて行ってあげる、じゃダメでしょうか?」
思わず返答に窮してしまう。彼女の提案は、至極真っ当であるからだ。まぁ、アザレアに関しては命令をすれば問題ないと思うが、フィオナのモチベーションが下がることは避けたい。
少女の方も無理に連れて行くことも不可能ではないだろうが、それだと自分かアザレアのどちらかの手が塞がることになる。いくら胚の力で自分が使う術の威力が向上するといっても――まだ実証もしていないからどれくらい強化できるかは不透明だが――手間が増えてしまえば元も子もない。
そんな風に思っていると、フィオナがアザレアの手の上に自身の手を重ねながら、こちらを見て頷いてきた。
「いいの、アザレア。私、協力する」
「フィオちゃん? でも……」
「ハルトのことはどうでもいいけど、アザレアの役には立ちたいから」
そう言いながら、フィオナはこちらに向けて舌を出して挑発してくる。どちらかといえばイラっとするというより、なんでここまで信頼がないのか疑問なのだが――ともかく少女の「べぇー」を眺めていると、机上の人形から声が聞こえ始める。
「後は、単純に連れて行った方が安全、というのもあるぞ。小娘、先ほど貴様はイグノートゥスに追われていただろう? 下手にアパートで待たせて、一人のときに襲撃されれば、それこそそこら辺の弱小セクトにですら誘拐されてしまう危険性がある」
「そんな風に侮らないで、って言いたいところだけど……今の私じゃ、そう思われても仕方ない。本当は、化け物たちを倒すのに専用の武器があったから、それで戦えていたんだけど……それがない今、私が非力なのは否定できない」
やる気になっているフィオナに対し、アザレアはおろおろしながらこちらと少女の方を交互に見ている。おそらく、「私がご主人様の側にいないとフィオちゃんを護れないし、アパートでフィオちゃんと一緒にいたらご主人様を護れない」とか思っているに違いないのだが――最終的に決心がついたのか、アザレアも首を一度軽く振り、両手で握りこぶしを作った。
「うぅん……それじゃあ、フィオちゃんが危ない奴らにさらわれないよう、一番近くで守るわね!」
「うん……私もアザレアのこと、守れるように頑張る」
「ふふ、嬉しいわ。フィオちゃん、よろしくね!」
女二人は互いに手を取り、笑顔を向け合いながらきゃっきゃしている。まぁ、紆余曲折あったが、これで二人を拾った目的であった戦力の増強はできそうだ――そう胸を撫で下ろしていると、フィオナの方が突然こちらに真顔を向けてきた。
「化け物と戦うなら、武器は必要」
「そうだな、最低限、自分の身くらいは守ってほしいからな」
「アザレアを護るって約束したから。一番いい武器を希望する」
「あのな……まぁ、明日あたり買いに行くか」
「やった、ぶい……それじゃあ、ハンドガンとショットガン、それにライフルに、グレネードとナイフと……」
「お前、ひとりで軍隊とでも戦うつもりか?」
そんな量を買っても運べないだろうなど、さまざまに突っ込みどころもあるのだが、そもそも昨日の探索で稼ぎがなかったので、財布事情が厳しいことを思い出す。武器を買う金がないどころか、一気に増えた人数の食費を賄うのも厳しい。ともなると、まず身体が回復したらひと稼ぎしてこなければなるまい。
しかし、武器がない状態のフィオナを煉獄に連れて行くのも危険だ。そうなると、次の稼ぎは自分一人で行かなければならないか――まぁ、その次から楽になるのなら、それもいいだろう。自分を蚊帳の外にしながら盛り上がっている二人を眺めながら、そんな風に思うのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回で、ハルト、アザレア、フィオナ、シュライクの基本メンバーがひとまず揃いました。
「ハードロック一家」と呼ぶにはまだ少し早いですが、ここから彼らの物語が本格的に始まっていきます。
ここまで読んで「続きも読んでみたい」と思っていただけましたら、ブックマークや★評価で応援していただけると嬉しいです!
作者の励みになりますし、今後の更新の力になります。




