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1-27:路地裏の攻防 中

「……追いかけっこは終わりだよ、お嬢ちゃん」

「くっ……!」


 こうなっては、戦うほかない。覚悟を決めて拳銃を突き出し、迷うことなく引き金を引く。一発目は心臓に、二発目はきちんと眉間に命中した。噴き出す血が生々しく、目をそらしたくなるが――男は胸を手で押さえつつ、額から流れる血を舐めながら、相変わらず値踏みするような視線をこちらへと向けてきている。


「酷いじゃないか……何の断りもなく発砲するだなんて。しかも、急所を狙うなんてさ」

「普通の人間は、急所を撃たれて喋ったりしない」


 もちろん、普通の人間は銃弾を素手で受け止めたりもしないはずだが――ともかく、やはりこの程度ではこいつも倒れてくれないか。


 男の体は傷ついた箇所からぐずぐずと崩れ始めて、ドロドロと溶けていき――逃げ出したくとも背後の連中も変態し始めているし、手元の武器では押し切ることもできない――最終的に溶けた頭の皮膚が体中を覆い、どろどろとしたスライムのような存在に変態した。


 それだけだったらまだ良かったのだが、おぞましいのはそのぶよぶよとした存在から、いくつもの舌のようなものが伸びていることだろう。その見た目はかなり気持ち悪い。


「はは、我々の正体が分かっていルのかな? それなら……我らが神ガ、君の身体を求めテいルんだ。ついて来てもらうヨ……!」

「……いやぁ!」


 伸びてくる複数の巨大な舌に、思わず悲鳴を上げて目を瞑ってしまう。こんなことだから、私はダメなんだ――でも、おぞましくて、襲い来る攻撃を直視することができなかった。


 空を切る音が聞こえ、次いで巨大な質量がどこかに衝突したかのような衝撃が身体を震わせる。それは、予想していたような感覚ではない――てっきりあのヌメヌメとした舌で身体が巻き取られるかと思っていたのだが。


「ごめんなさいね、怖い思いをさせて……」


 聞こえてきた声は、先ほどまでの不気味な男の声ではなかった。目を開けると、そこには巨大な槍が落ちてきていて、自分の手前まで伸びてきていた舌たちを綺麗に寸断していたのだった。


 そして、その槍の上に、一つの人影がある。ふわりとした髪に、長いスカートの女性――それは自分の辞書になかった、弾丸を止めた女性だった。


「でも、もう大丈夫。私の後ろに隠れていてね。ついでになんだけれど……後ろから撃たないでくれると嬉しいわ」


 女性は一度振り返り、少々悪戯っぽい笑みをこちらに向けて、こちらを庇うように槍の手前へと飛び降りた。


「グッ、おのアマぁ、ふっおろひてヤ……!?」


 男の声が最後まで聞こえなかったのは、もう喋る口すらなくなっていたからだ。女が槍を引き抜いたかと思うと、それをそのまま化け物たちの方へと凄まじい速度で射出して――本当は女が投げているのだが、あまりに馬鹿げたスピードで、それこそ撃ち出されたとでもいうべき速度である――路地にひしめいていた化け物たちが全て両断されたのだ。


 女が手を引くと、路地のはるか向こうからまた凄まじい勢いで球体が戻ってきて、その手に収まる。とにもかくにも、どうやら助かったらしい。眷属を瞬殺する人間なんているのかという疑問がありながらも、振り返られてしまっては――しかも自分は相変わらず袋小路にいる――逃げることも無言のままでいることもできないので、ひとまず何か言うことにする。


「あ、あの……ありがとう……」

「……やっと可愛い声が聞けた!」


 女はぱっと笑顔になって――目はなんだか正気じゃなさそうで相変わらず怖くはあるのだが――謎に感極まっているのか、こちらに近づいてそのまま自分に抱きついてきた。


 体格差的には抱き締められたという方が正しいか――ただ、これは不思議と嫌な感じはしない。なんだか懐かしい匂いがするし、とっても柔らかい。むしろ、こんな身体であんな力が出ているのは不思議なくらいである。


 ただ、抱き締められる力が少々強く、こちらがもごもごとしていると、女は「あ、ごめんなさい!」と言って解放してくれ、そして一歩離れて笑みを浮かべながらべらべらと話し始めた。


「さっきね、ご主人様に言われたの。最初の時は血だらけだったから、怖がっちゃったんじゃないかって! 私もご主人様に買ってもらった服を汚したくないし……と、ごめんなさい、おばあちゃん、脱線しちゃった!

 私はアザレアっていうの。アナタは?」

「わ、私は……!?」


 名前を答えようとした瞬間、また女に強く抱きしめられた。鼻いっぱいにアザレアの香りが広がり、視界が彼女の衣服で覆い尽くされ――そして身体がされるがままになると、重力が一気に反転した。


 動き的には、アザレアが自分を抱えながら跳躍し、袋小路の壁で三角跳びをしたということなのだと思う。着地してから身体が解放されると、案の定もと来た通路側へと出ており、袋小路側では先ほど葬られた亡きがらたちが一か所に集まり、一つの大きな肉塊と化し始めていた。

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