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1-21:煉獄を抜けて 中

「……ハルト・ハードロック。第六階層に一人で潜られる、歴戦のファイター様……予定より早いご帰還ね」


 一応、自分の登録は「戦士」という肩書になっている。発掘許可証を発行するのに役職が必要であるほか、地下に潜る冒険者は普通は一人で籠らないので、肩書で必要なメンバーを探すわけだ。


 戦士というのは要するに、「魔術も特殊なスキルもない者のうち、地下資源の採掘に関わる労働者にすら該当しないもの」という、余りものみたいな肩書だ。要するに、力に任せて怪物と戦うのが仕事なわけだが、このあぶれもの感は自分らしくて少々気に入っている。


「そんなわざとらしく言わなくていいぞ、イリス。どうせ誰も聞いちゃいないんだからな」


 イリス・シャルトリューズ。この地下空間におけるダンジョンと街とをつなぐゲートの職員にして、自分と同じ鎖の魔術師である。前髪で隠しているが、彼女の額には自分と同じように、鎖の体を持つ蛇の刺青がある。


「それもそうね……それで? 例のもの、見つかった?」

「いや、残念ながら見つからなかった」

「あら、ごめんなさい。眉唾だったかしら」

「いいや、間違いなくセクトはあった。それで、あの二人を助け出してきた」


 自分が指さした先には、アザレアと彼女に背負われている名も知らない少女の姿がある。アザレアには自分のコートを羽織ってもらっている。返り血に染まった衣服を隠す意味合いだったのだが、そうでなくとも彼女の戦装束は目立つので――丈夫なようだが、動きやすさを重視しているのか、かなり薄手でぴっちりとしている――それを隠す意味合いもある。


 なお、コートを羽織った後にはまたご主人様の臭いがどうとか限界化していたことは補足しておく。


「成程、ただの人身売買だったのね。それを六層だなんて深層でやるのは、違和感があるけれど……それじゃあ、ご苦労様。後は、私の方で二人を引き受けるわ」

「いいや、彼女たちは俺の方で引き取ろうと思っている」

「はぁ? でも、煉獄内で行われた人身売買は、帝国法の下で一旦は遺跡管理局が保護することになっている。そうじゃなくっても、見ず知らずの人を保護するなんて、貴方にとって負担になるんじゃない? まさか……惚れたの?」

「馬鹿言え、俺にはセレスタがいるんだ……単純に、あの二人の内、どちらかが輪廻の宝珠について何か知ってるんじゃないかと思ってな。俺が辿り着いた時には宝珠は見つからなかったが、どこかに持ち出された後だったのかもしれない。

 セクトに捕まっていた影響で、女の方はまだ混乱していて、娘の方はまだ目が覚めてないんだが……時間を掛ければ、何か聞き出せるかもしれない」

「ふぅん……私が話した時には宝珠のことについてそこまで熱心でもなかったのに、どうしちゃったの?」

「今回の件で実感したんだよ。今のままじゃ限界があるってな」


 ここまで話したことは全くの嘘というわけではない。セクトはあったし、そこで二人を拾ってきたのも本当だ。まぁ、アザレアの方はついてきたという方が正しいが――今の力では限界があるというのも事実だ。


 ただ、アオートの胚が、既に手元にあるということだけが嘘にはなるが、事実を織り交ぜて話したのでそれなりに説得力もあっただろうし、自分としても自然に話せたと思う。


「まぁ……そこまで言うのなら、お姉さんが一肌脱いで差し上げましょう。といっても、単純に素通ししてあげるってだけだけど。眉唾を掴ませちゃったかもしれないっていう負い目もあることだしね」


 そう、こう言ってもらえると踏んでいた。煉獄への出入りに関しては、そこまで厳密に管理されているわけではない。書類として記載が残るだけで、写真を撮られるわけでもない。そうなれば、後は職員の裁量に大きく委ねられる――それ故に職員の買収などもあり、ダンジョン内が犯罪の温床になっている部分もあるのだが。


 イリスは手元の書面に筆を走らせながら、「あ、ただね」と言葉を挟む。


「街に入ってからのことも考えておいた方が良いわよ? 塩の大地にはそこかしこから人が流入してきているから、細かく戸籍が管理されているわけじゃないけれど……それでも、きちんと登録しておかなければ、何かあったときに言い訳できないんだから。

 良くて二人の追放、悪くて貴方も含めての逮捕なんてこともあり得るんだから」

「まぁ、おいおい考えることにするよ」

「あと一つ。言っておくけれど、情報だけ聞き出したらぽい、なんてなしよ? そんなひどいこと、お姉さんは許しません。情報が聞き出せなかったから捨てるなんて、もっとダメなんだから」

「やれやれ……お姉さんなんて歳でもないだろうに」

「何か言った?」

「いいや、何も」

「そう? それじゃあ、行っていいわよ……今回もお疲れ様」

 

 イリスがガラスの向こうでボタンを押すと、ゲートの扉が煙を噴き出しながら開く。一度振り返ってアザレアにジェスチャーを送って先に門をくぐらせ、自分は後からその背を追っていく。すぐに背後でゲートが閉まる音が聞こえた。

胚の少女、本格始動まであと5話。

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