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1-20:煉獄を抜けて 上

 結局、少女は煉獄を抜けるまで目を覚ますことはなかった。ただ、第六階層内の移動は非常にスムーズだった。荷物も少女も全てアザレアが運んでくれたのはもちろん、徘徊しだしたモンスターも――現れた瞬間だけ自分が少女を抱えて――アザレアが瞬殺してくれたのだから。


 ただ、問題は街に入る段階にあった。街の中にもジョウント装置そのものはあるのだが、それは封鎖されている。市内の装置から現れた者は、即ハチの巣になるように警備がなされているのである。


 このような処置が為されているのには二つの理由がある。一つは、市内に突然テロリストが乱入することを防ぐため。たとえば煉獄内から装置を起動すれば、テロリスト共が武装したまま一気に市内に入ることが可能になってしまう。


 塩の大地の治安は、お世辞にも良いとは言えない。大陸に戦争を振りまく帝国のおひざ元であるから、基本的には帝国兵が幅を利かせているのだが、彼らの中には祖国を追われて兵士になるしかなかったものもおり、その士気は十全とは言えない。


 その他にも帝国に反旗を翻そうというレジスタンスも多く潜伏しているし、そうでなくとも一攫千金を求めた冒険者たちが大陸中から集まってきている。要するに、帝国に恨みを持っている連中が多くいるのであり、それらが金目当ての冒険者と結託して市内を攻撃しないようにするための防衛処置が、市内の装置封鎖というわけである。


 もう一つの理由は、ダンジョンの出入り口を一つに集約するという目的のためだ。我々冒険者が利用できるジョウント装置は、第三階層の中央部分に存在する。第二層以上に上がるためには、必ずその昇降機を使わなければならないようになっているのだ。


 正確に言えば各階層を行き来できる階段はあるのだが、第二層と第一層のものは市内のジョウント装置と同様に兵士によって封鎖されている。


 出入口を一つにするというのには、様々なメリットがある。これは帝国側にも、冒険者にとってもだ。


 まず帝国側としては、ダンジョンの出入口を管理すれば、どのような人物が帝国内にいるのか――とくにダンジョンを目当てにするという荒くれ者の中にどのような者がいるのか――把握することができる。


 また、たとえば重大な発掘品があった際に、それを冒険者から買い上げることができる。発掘された使いどころの分からないロストテクノロジーの中には、まれに現代人が活用できるものも紛れている。そういった希少品を帝国の物にできるというのが、彼らにとっては大きいのだろう。


 補足で、発掘品の売却は必須ではない。帝国は領地を増やすことでその国体を保ってはいるが、理念としては「古い制度を打破し、帝国の臣民の元に全ての人の自由と平等を実現する」というものを掲げている。それ故に、私有財産については保証されているのであり、冒険者は発掘品を自分の手元に置くか、使い道の分からない物を帝国に売却してしまうかを選ぶことができる。


 出入口を一本化される冒険者側のメリットとしては、危険なダンジョンに潜るのに、一応は保険が掛けられるという点である。出入り口で預け金として保険料を払っておき、今回の探索の目的地と所定の日数を告げておく。それで既定の日数以内に戻ってこなければ、救助隊を派遣してもらえるというシステムだ。


 とはいっても、向こう見ずな冒険者の多くはこのシステムを活用していないし、かくいう自分もそうである。保険の対象が第五層までであるので、使いたくても使えない、というのもあるのだが。


 ともかく、ダンジョンから抜けるには、必ず関所を抜けなければならない。入る時は自分一人だったのに、抜ける時には三人に増えているというのは――しかも片方は年端もいかない少女だ――どういうことかという説明は必須になる。


 しかも、二人とも発掘許可証などもっていないのだから――アザレアに確認しても、もっていないとのことだった――彼女たちは非公式に煉獄内にいたことになる。それを突破するためには、少しばかり工夫が必要になる。


 その工夫とは、単純に「コネがある人物」を利用すること。見ず知らずの人物を通しては、怪しまれて指名手配になりかねない。自分は素性を隠して塩の大地に潜伏している、言わば一人レジスタンスのような存在だ。下手にもめ事を起こして拘束されるなどは避けたい。


 そのコネがある人物は、実は自分と同じ秘密結社である虚空の鎖の出身である。すべての鎖の魔術師が、盲目的に帝国に従っているわけではない。それ故に、彼女は自分の身分の隠蔽に協力してくれている。自分がダンジョンに出入りするときには基本的には彼女を通すし、アオートの胚の情報を――彼女の言では輪廻の宝珠だったが――くれたのも彼女である。


 あとは、そのコネのある人物にどう言い訳したものか、というのが目下の課題だ。さすがに胚が少女の形をしていた、などというのも――それが事実であっても――突飛だし、アザレアの方に関しては完全に言い訳が立たない。


 そうなると、協力者に対して申し訳ない部分もあるが、今回ばかりは嘘も方便である。

胚の少女、本格始動まであと6話。

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