↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/198

2-71:遥か光年の星より 下

 再び自由になった四肢をもって男の身体へと肉薄し、剣の切っ先を突き出す。しかし、今度は男の振り払った長い腕に吹き飛ばされてしまい、先ほどのバルトンと同じように壁に叩きつけられてしまう。


 だが、この背中に走る痛みも幻覚だ――そう自分に言い聞かせ、すぐに再び立ち上がり、また剣を構えて相手に突撃する。何度吹き飛ばされても、一回届くまで何度でも立ち上がるだけだ。


「あぁ、もう、ちょっとは大人しくしてほしいね……分かった、それじゃあこういうのはどうかな?」


 もう一度同じように吹き飛ばされて、今度は鎖より強靭な鉄の枷をこちらの四肢に付けられてしまう。そして、ゴルドヴァッサーがもう一度指を鳴らすと、自分と無機生命体のちょうど中間に人影が現れた。


 それは文字通りに本当に黒く蠢くなにかとしてこちらへと徐々に歩みを進め、段々と人の姿を取っていき――そして最終的に黒い表皮が一気に剥がれ落ちると、蠢く影は少女の姿を取って、自分の目の前に立った。


「あぁ、ハルト……会いたかった」


 少女はそう言いながら、枷で動けなくなっているこちらの頬を撫でる――明るい茶髪に人懐っこそうな目つきの、可愛らしい少女。それは、確かに自分が夢の中で見る少女に限りなく近い存在であり――ひとまず目の前に現れた少女を無視して正面に視線を向けると、ゴルドヴァッサーはさも「良いことをした」といわんばかりに手を叩いていた。


「僕の言うことを聞いてくれれば、君の愛したセレスタと、幸せな時間を過ごすことができる。もう二度と会えないはずの愛しの彼女と、もう一度触れあうことができるんだ。それだけじゃない、ここなら君の好きなように状況を変えることもできる……ほら」


 さらにもう一回異形が指を鳴らすと、目の前の少女の長い髪がすっと縮んで、セミロングになる。相も変わらず、少女はこちらを半笑いで見つめ――さらに距離を詰めてきて、今度はこちらの胸元当たりをなぞり始める。


「こんな感じで、髪型を変えたりすることだってできるし、年齢や体型だって変更可能……色々なシチュエーションを楽しむことができるんだ」


 ゴルドヴァッサーはなんだか嬉しそうな声色でそうまくし立ててくる。一方の自分は、段々と吐き気がしてきているところである――コイツとしてはセレスタを再現したつもりなのだろうが、自分としてはこんなのはそこそこ似ている他人に過ぎないのだから。


 恐らく、自分はまだゴルドヴァッサーに意識を奪われていないので、こちらの記憶からセレスタを生成することができないのだろう。それ故に、アイツの記憶から生成したセレスタのような何かが目の前にいるだけなのだ――それがべたべたと、下腹部まで手を伸ばしてきているのだから――枷がなかったら早々に突き飛ばしているところだろう。


 そんなこちらの不満が伝わったのか、ゴルドヴァッサーは訝しむように首をかしげる。


「ふむ、満足していないようだね? 別に、彼女に飽きたのなら、他の女と取り替えることだってできる。もっといえば、金持ちとなる夢であったり、王となる夢であったり……好きな夢を現実かのように感じることができるんだ。

 まぁ、セレスタを求めるなら眠り続けてもらうことになるけれど……フェルノワールを倒した後なら、ずぅっと幸せな夢を見ているのも悪くないだろう?」

「……テメェは馬鹿か」

「……えぇ?」


 こちらの返答に対し、ゴルドヴァッサーは大きく首をかしげる。話している間に、こちらは身体に力を込めて――この世界の主はアイツだろうが、精神力で抗うこと自体はできる――チャンスをうかがう。


「お前自身が証明しているんだ……夢なんか見たって空しいだけだってな。そうだろう? もしお前が夢の世界で満足できるってんなら、お前はこの世界で古い仲間たちを思い出して、ずっとここに閉じこもっていればいいだけだ。

 所詮、夢は夢……それで渇きが癒えることは、永久にないんだよ!」


 そう吠えるのと同時に両腕を縛っていた枷を全力で引きちぎる、その勢いでセレスタの幻影が跳ね飛ばされて、彼女の幻影は中空で消え去った。そのまま剣の切っ先で足についている鎖を突き砕き、再び男へ向かって前進する。


 ゴルドヴァッサーも痛いところを突かれたのだろう――こんな風に昔の光景を再現しているのに故郷へ帰ろうとしているのだから――急に肩を震わせはじめる。


「酷いねぇ、ハルト君は……それなら、ちょっと黙ってもらうために、君の一番の弱点を……覗かせてもらうかな!」


 男がそう叫んだ瞬間、突然地面が漆黒のヘドロのようなもので覆われる。そしてそれが一気にせり上がってきて、世界が暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。