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2-70:遥か光年の星より 上

「ハードロック!? 貴方、大丈夫なの!?」

「……あぁ、問題ない。現実で足がなくなったわけじゃないからな」


 こういう勝負をするのは、今日が初めてではない。これは夢だ、幻覚だと自分の脳に言い聞かせる――すると、焦げてなくなっていた左足が修復される。


「ふぅん……成程、幻覚との勝負には慣れているわけだ。流石、十二年前のコズミック・タイドから生還しただけはあるね」


 ゴルドヴァッサーの声が再び響くと、突如として手足を縛る鎖の枷が現れる。これだって現実ではないのだから、引きちぎることは不可能ではない――のだが、向こうもこういった勝負には慣れているのか、引きちぎった先から鎖が修復されてしまい、なかなか手足が自由にならない。


「まぁ、ちょっと話を聞いてくれよハルト君。僕が君と仲良くしたいっていうのは本気なんだ……それに、僕と手を組めば、君の願いも叶うかもしれないよ?」

「……なんだと?」

「話を聞いてくれる気になったかな? まぁ、つまりはこういうことさ……僕はね、帝国を乗っ取ってやろうと思っているんだ。自分自身の目的のためにね」


 そこでゴルドヴァッサーは言葉を切り、鋼鉄の顔の中で蠢くギョロっとした目で――なるほど、先ほどの身体は確かに少しはこれに似ているかもしれない――こちらを見つめている。


 恐らくは「目的はなんだ」と聞いてほしいのだろうが、向こうのペースに乗る必要はない。無視して鎖をちぎろうともがいていると、「ハルト君は意地悪だねぇ」と溜息が一つ聞こえた。


「僕の目的はね、故郷であるヴェクトラ・ノクス星へと帰ることさ。元々は前世の記憶を失っていたけれど、夢灯アヴァロンの力で僕は過去の記憶を見た……それで、本来の自分を取り戻したのさ」


 そう言いながら、ゴルドヴァッサーは四本の腕をガチャガチャと動かし、より首に近い方の二本を上に掲げ、残りの腕は横に広げた。


「見てごらんよ、この美しい世界! 無様に腐敗して分解される有限の有機物なんかと違って、無機物で構成された秩序だった世界さ。

 僕らは食事だとか有性生殖なんて汚らわしいことはしない。地表からの電気化学反応で電子を得てエネルギーにできるし、仲間を増やす際には配列情報を持つコアを身体から分離させて成長させる……僕らはね、一つの秩序のもとにある群体なんだ。

 それと比べて、君たちの肉体のある世界の、なんと醜く劣っていることか……有機物って劣化するし腐るし、生殖するにもつがいが必要だとか、汚らしいし非効率的だ。こんな世界にいつまでもいたら、頭がおかしくなってしまう。

 何より、ここにいても仲間の声が聞こえない。それは本来的には群体である僕にとっては……記憶を取り戻した僕にとっては、永劫にも勝る孤独なんだ。

 だから僕は、帝国を乗っ取って、その技術力と資金力、それにイグノートゥス共の持つ知識をすべて宇宙開発につぎ込み、故郷へと帰ろうと思っているのさ。

 僕の故郷は、ここから何光年か、いや何千光年離れているのかも分からないけれど……それでも、イグノートゥスを使役すれば、宇宙船もそう遠からず作れるだろう。なんなら、ジョウントのように瞬間的に母星に帰ることのできる装置を作ることもできるかもしれない」


 凄まじい早口で何やらまくし立てているが、ゴルドヴァッサーの気が演説に向かっている間に何とか鎖を断つ方法を考える。どうせ聞いていたって理解もできないだろうし、何の得もないのだ――そう思っているうちに、男の口から「フェルノワール」という単語が聞こえ、つい意識が声に向かってしまう。


「彼に対しては、今は忠実な振りをしているんだけど、そのうちフェルノワールの奴も殺してやらなきゃならない……ただ、今の僕の力では、フェルノワールの持つデュランダルの防御力を超えることができない。

 そこで、君の出番ってわけさ、ハルト君。君の持つ神器は、確かにデュランダルを超える可能性を見せた。それに、イグノートゥスの使役……その力を使えれば、宇宙船を作るのに必要な知識も簡単に手に入るって寸法さ」

「……なるほど、懐かしい相手と親睦を深めたいなんていうのは、嘘っぱちだったわけだな?」

「そんなことはないさ。あくまでもそっちはついでだったってだけ……君でいうところの、そっちの娘と同じことだよ。

 後はまぁ、ハルト君は少なくとも、この世界よりは進んだ文明世界の出身のようだからね。そういう意味じゃ、少しはシンパシーを感じているっていうのは本当だよ?

 君の魂を捕らえて使役するより、最初っから協力関係であった方が話は早いんだ。僕は目的を達成するのに君の力を借りられるし、君は王党派なんて時代遅れの連中ではなく、この僕の力を借りながらフェルノワールに迫ることができる……どうだい、悪い話じゃないだろう?」

「あぁ、面白すぎて笑っちまうぜ!」


 怒りの力が鎖の再生速度に勝ったのか、拘束具を引きちぎることに成功する。自分の復讐は、この男の願望のついでで果たされるべきものではない。そもそも、いくら手段を選ばないと言っても、こんな奴と手を組んで帝国と戦うなどというのも願い下げだ。

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