2-66:夢見の廃村 中
そしてガストンが今際の際にて、祖国解放の夢を義理の娘とその忠臣に伝えたことによって、コンスタンツは王党派に参画することを決意したとのことだ。フィリップ派中核のアルトワーニュ伯としても、コンスタンツのように若い娘は扱いやすい御旗だったわけである。
レジスタンス参加に関してはコンスタンツの意思で決めたことのようだが、バルトンと以下の点を取り決めたうえで、参加を決定したらしい。
一つは自らの出自はバルトンを除いて誰にも語らないということ――神器の存在とガストンと過ごした日々の記憶があれば、本物の王女であるという正当性は十分に担保できる。わざわざ血縁がないと語る必要もないのであり、彼女が養子であることはアルトワーニュ伯とセギュールですら知らないとのことだ。
また、パントエールがコンスタンツであるという事実を知る者は、王党派レジスタンスの中でも中心メンバーのみに絞るということ。王女の存在を大々的に喧伝すれば士気が高まり諸外国への政治的な影響力は増すだろうが、一方で帝国に狙われるリスクも上がるし、また血筋を疑う者もあらわれる可能性がある。それ故にガストンの忘れ形見が合流しているという情報のみが王党派内に流れ、その身分は公式には伏せられ続けていたというわけだ。
もちろん、ご立派な細剣を腰に携え、ある程度の役職を与えられているとなれば、彼女こそ噂の王女なのではないかとの噂も立つわけだが――それはそれでいいという判断であったらしい。
本当に王女が生きており、パントエールというコードネームで活躍しているということを暗に仄めかせば、レジスタンス内の士気も上がるから。大切なのは公的に言わないことであり、可能性として見せておくことが肝要であったと。
とにもかくにも、王党派レジスタンスの中でも外でも、バルトンが色々と取り計らってくれたからこそ、彼女はある程度の安全を確保しながらここまで活動してこれたのだと。しかし――。
「……そんなにバルトンに守ってもらってたのに、わざわざ最前線でドンパチやるなんて、お転婆が過ぎるんじゃないか?」
「レジスタンスは人材不足だったからね。何より、みんなが戦っているのに、私だけ後ろで手をこまねいて見ているだけなんてできないから……だから、私もできることを探そうと思って、ね」
まぁ、単純に戦闘力としてみても、彼女ほどの者は王党派の中にいないだろうから、そういった意味でも戦いに赴くしかなかったのかもしれない。
話を戻すと、バルトンの裏切りは、彼女にとっては自分が想像していた以上に衝撃的だったに違いない。第二の父と思っていた相手が、帝国に彼女を売り渡そうとした――その事実が耐えがたく、それ故にこの夢の国では、敬愛する養父の下に泣きすがってしまったのだろう。
そんな風に勝手に彼女の気持ちを慮っていたのだが、今の彼女はどこかあっけらかんとした様子で、微笑みを浮かべながらこちらの顔を覗き込んでくる。
「……さて、私のことは大分話したわよ?」
「お前が勝手にべらべらと喋ったんだろうが」
「それは、さすがにあの醜態を見られたら、理由を色々と話さないと納得してもらえないと思ったから……でも、こっちの事情ばっかりじゃ、なんだか不公平な感じがしない?」
「しないな。というか、イリスに色々聞いたんだろう?」
「私は貴方から聞いてみたいのよ」
「……俺の事情なんて、聞く側も話す側も楽しい話でもない。それに、元鎖の魔術師が帝国の皇帝に喧嘩を売ってるってんだ、なんとなく予想もつくんじゃないか?」
「そうね……でも、貴方のことを知りたいの。以前に虚空の鎖の対立構造までは聞いたけれど……もう少し踏み込んだ部分を聞かせてほしい。ダメかしら?」
そう言いながら隣を歩くパントエールは、確かにこちらの事情に興味津々といった雰囲気はある。彼女はそんなに押しが強いタイプでもないので、断り続ければわざわざ話さなくても何とかなりそうな気もするが――そんな風に思っていると、辺りの景色が急に怪しくなり始めた。
そこは、どこかの村の広場であった。その景色を怪しいと評したのは、人っ子一人いない、廃墟のような村であったからである。
今まで見せられてきた景色は、誰かの願望の体現だった。そうなると、このような寂れた村が現れるということにはかなり違和感がある。吹きすさぶ風も冷たく、また太陽の光の届かない鈍色の空が、この場所の雰囲気をさらに異様なものにしていた。
パントエールも急に変わった雰囲気に異常さを覚えたのか、辺りを見回し――話を中断できたのは自分にとっては僥倖か――しばし二人で周囲を警戒する形になる。
するとややあってから、広場の奥からからん、からん、からんと薄い木材がこすれあうような音が響き始める。音のする方へと視線を向けると、黒く蠢く何者かが、ゆっくりとこちらへと近づいているのが見えた。




