2-65:夢見の廃村 上
パントエールを迎えてから、夢見の世界を二人で練り歩くことになった。既にパントエールにはゴルドヴァッサーを探して倒さなければならないことは共有してはいるのだが、彼女もどこに奴がいるかなどは分からないため、こうやって足を使うしかないというわけである。
しばらく夢見の世界を歩いていてわかったこととしては、やはりこの世界に捕らえられた住人たちは、彼らの幸福な記憶や願望を叶えるような幻想を見ているということ。先ほどのパントエールと同様に、幻想の中で幸せそうにしている人々を何人か見たので、間違いないだろう。
夢見の世界は人々の幻想が繋ぎ合わされた形であるせいか、妙にちぐはぐなところがある。たとえば最初に降り立った穏やかな林道の先には、大きな街の広場へと繋がっていた。
そしてその先は突然の海へ、その沿岸線を歩くと突然屋内に出たりと――恐らく、夢見の住人たちにそれぞれの領域があり、それらの端と端が無理矢理つながっているせいで、このようなちぐはぐが起こっているのだろう。
そしてそれらの領域内の多くの人たちの言葉によくよく耳を傾けると、同じことをうわ言のように繰り返しているだけだった。まるで機械仕掛けの人形のように――もしくは大根役者とでもいうべきか。ともかく意思も願望ももたない人型が多数存在している。
そんな中で、一つの領域内に一人は活き活きとしている人物が存在する。商売を大成功させて店を繁盛させている店主や、幸せな家庭を築いて笑顔を浮かべている女性などはまだいいのだが、中には年甲斐もなくハーレムを作ってはしゃいでいる老人だとか、略奪愛に燃える女などもおり、そういう願望の間を通るときには少女との間に気まずい空気が流れた。
要するに、この「幸せを享受している人物」が神器に囚われた魂で、それ以外の人形が「その人物が見ている夢の中の存在」ということなのだろう。もっと踏み込んでいえば、人々の妄想の形を見せつけられているのであり、半分は面白いような、半分は見てはいけないものを見ているような――最初こそはこの世界を理解するために自分もパントエールも周囲をよく観察していたが、次第に人の妄執を眺め見るという悪趣味から離れ、別の話をし始める。
「……物心ついたときには、私はもうガストン様と一緒にいたの」
パントエールが話すのは、自らの生い立ちについて。曰く、彼女はガストンの亡命先で住み込みで働く女中の娘であったらしい。本来なら乳幼児を主の家に住まわせるなどというのはありえなさそうなことだが、ガストンはコンスタンツを共に住ませることを許可し、本物の娘のように接してくれていたとのことだった。
物心ついたときなどは、まさしく本当の父親だと思っていたようだが――しかしある程度の分別が付くようになり、母が流行病で亡くなるタイミングで、ガストンがソルヴェーニャの王族であるということと、実の親子でないことが告げられたようだ。
それでも、彼女の養父に対する尊敬の念は変わらなかった。もちろん、ガストンが実の父でないことに――この実の親子でないという点には自分は疑問を覚えている――ショックを受けたようだが、それ以上に平民の自分に対しても敬意をもって接してくれる養父への敬愛が勝ったとのこと。
母が亡くなってからは、しばらくは近くに住む者たちやガストン自身も家のことをやってくれて、コンスタンツが十歳になるころには家事も一通り覚えて、力仕事以外はほとんど彼女が取り仕切れるようになったようだ。その頃にはガストン自身も流行病に罹ってしまい、数年で命を落としてしまった。
また、コンスタンツがある程度の分別が付くようになってからは、ガストンは帝王学やソルヴェーニャの歴史、剣術など、家事以外にも精力的に彼女に教えていたらしい。ガストンの教育に付いて行けるだけでも、彼女の素質は素晴らしいものだと思う。それ故に、彼女には王女にふさわしいだけの才覚があるといえるだろう。なにせ、本物の王族の一番近くで、知識と技術を吸収していったのだから。
次に語られたのは、バルトンについてである。亡命中のガストンのために先ほどの隠れ家を手配してくれたのも彼であり、たびたび訪れてはコンスタンツとガストンを見舞ってくれ、また近くの村落の人々に声を掛けて生活しやすいように手配してくれたと。
それ故に、彼女にとってはよき叔父であり、ガストン亡き後は第二の父として存在してくれていたようだ。
王党派レジスタンスの存在をパントエールに教えたのもバルトンであったらしい。そもそも、ガストンがソルヴェーニャから追放された際にも追従しつつ、本国との連絡も取っており、アルトワーニュ伯を中心にレジスタンスが結成されていることを認識していたのもバルトンであった。
ただ、王党派を名乗るには御旗が――要するに王族が――なかったし、またガストンを呼び戻すことは旧フィリップ派のアルトワーニュ伯にとってはリスクが高く、ガストンの生前には結成には至らなかった。




