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2-63:血の絆より強いもの 上

 パントエールは元のうずくまったままの姿勢で、震える声でとつとつと語り始める。


「……貴方の言う通り、私は逃げているだけかもしれない。でも、見ての通りよ……私は偽りの王女。王党派レジスタンスに祭り上げられた傀儡に過ぎないわ。

 もちろん、帝国から祖国を取り戻したいというガストン様の遺志を継ぎたいと思ったのは本当。仲間たちのことも、大切に想っていたのは確か……」


 そこで言葉を切り、少女が顔を上げると、頬からしたたる雫が宙を舞う。


「でも、やっぱり私には無理だったのよ! 私が不甲斐ないから、アルトワーニュ伯やセギュールは私を信頼してくれないし、バルトンは帝国に寝返ったの!

 もし、私がもっとしっかりしていたら……帝国を倒せる展望を見せられていたら、こんなことにはならなかったのに!」

「馬鹿か! お前のような小娘が組織のオッサンどもを御せるだなんて思い上がりなんだよ!」


 ヒステリーを起こす少女に対し、思わずこちらも大きな声で反論してしまう。しかし、これもまた事実。言い方はきつくなってしまったが、そもそも組織をまとめあげることは誰がやっても難しいはずだ。


 それを二十歳にも満たない少女が統率するなど、土台無理な話である――自分さえしっかりしていればどうにかなったなんて、自己を過大評価しているだけだろう。


 しかし、今は正論を言っても彼女の心には響かない。その証拠に、パントエールは手を床について再び下を向いてしまう。まったく、お守りをしに来たわけじゃないんだぞ――そう思いながら、もう少し優しく説得することを試みることにする。


「……お前さんは歳の割には上手くやってるよ。セギュールもそう言ってたぞ。そもそも、アイツくらい頭がよくたって、王党派を一つに纏め上げられてないんだろう? 実際に、急進派と穏健派に分かれてるくらいなんだから」

「歳の割にだなんて言い訳にしかならないじゃない……それに、もし王党派を指揮しているのが私でなくガストン様だったら、もっと上手く組織を纏め上げていたに違いないわ」

「だが……」


 そのガストン様はもういないじゃないか、とは言えなかった。それは、彼女の背後にある幸せを否定してしまうことと同義だから。今一度、後に座っているガストンに視線をやると、やはりまるで人形のように止まってしまっている――その有様が、やはり既に彼女の義父はこの世に存在していないことを立証しているようだった。


「……そもそも、お前は欲張りすぎなんだ。養父の遺志を継ごうとか、組織をうまく纏め上げなきゃとか、ソルヴェーニャの民のためだとか……人間なんぞ、そんな都合はよくできてない。せいぜい一つのことしか追ってなんかいられないんだからな」

「でも……」

「もし欲張るんだったら、誰かに頼らなきゃならないんだと思う。まぁ、俺も知り合いが少ないから、そう思うってだけなんだが……」


 渾身の自虐を交えても、残念ながら笑いの一つも取ることはできなかった。むしろ、向こうを返答に悩ませるようなことを言ってしまったかもしれないと少し反省する。


 そのまま少しの間、沈黙が流れ――先ほどまで聞こえていた外の鳥の音もすっかり聞こえなくなっており、何とも気まずい雰囲気が流れだした。


「……彼と共に行きなさい、コンスタンツ」


 沈黙を破ったのは、自分でもパントエールでもなかった。声のした方に自分も少女も目線を向けると、先ほどまでまったく動いていなかった壮年が、彫りの深い眼の奥から少女に向けて穏やかな眼差しを向けていた。


「……ガストン様?」

「そちらの彼と一緒に行きなさいと言ったんだ……お前にはお前のやるべきことがある、そうだろう?」

「でも……でも、私じゃダメなんです。私のせいで、私が不甲斐ないせいで、バルトンが裏切ってしまった……」

「それは結果論に過ぎない。それに、もし仮に私が王党派を率いていたからと言って、分裂しなかったとも、裏切る者が出なかったとも限らない……むしろ、弟のフィリップを擁立していた派閥などは、早急に分裂するか、最悪の場合は帝国側に寝返っていたかもしれないな。

 言い方は悪いかもしれないが、他の者たちはお前を御せると思っているから、王党派はひとまずのまとまりを見せていたのかもしれない。

 それこそ、私の目指す国の在り方に反対した者たちがいたからこそ、私は国外へと追放される憂き目に遭ったわけだ……そう思えば、誰が率いているなど関係ないさ」


 パントエールはガストンの言葉に聞き入り、徐々に落ち着きを取り戻していっているようだ。大体自分が言いたかったことをもう少しかみ砕いて言っているだけだと思うのだが、誰が言うかで印象は変わるということか。


 しかし、先ほどまで完全に静止していたガストンが急に動き出したのはどういったことだろうか? てっきり、彼はパントエールが作り上げた幸せなときを繰り返すだけの人形であり、不測の事態には動けなくなるかと思っていたのだが。


 それに、もしこの空間が彼女の妄想であるとするのなら、ここにいるガストンはパントエールに対して耳さわりの良いことを言うのではないか? 対して、少女に語り掛けている壮年は、むしろこちらの言い分を支持してくれている――これは一体どういうことだろうか。

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