↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
139/198

2-60:夢見の世界への潜入 下

 セギュールと話し終え、ランタン型の神器を床の上に置くと、シュライクはその上へと飛び乗った。


「話は済んだようだな。君を送る前に何点か注意点を伝えておく。まず、夢見の世界への扉は一方通行だ。一度入れば、魔術師を倒すまでは元に戻ることはできん。二つ目、魔術師の魂を滅することは、同じ人間には不可能であるということだ」

「ノモラスで倒すことはできないか? こいつは、異次元にいるイグノートゥスを貫けるんだ、人間の魂も貫けそうなものなんだが」

「だから、話は最後まで聞き給えよ、君……その解釈は半分正解で半分間違いだ。確かにノモラスを使えば人間の魂も貫くことは可能だ。だが、断章ノモラスは魂を捕らえるのが役目であり、滅する力はない。

 何より、夢見の世界へ完璧な形でノモラスを持っていくことはできん。身に着けていれば、その模造品ならば持っていくことができるだろうから、精神世界の相手に対しても一定のダメージを与えることはできるが……それでも、完全に倒し切るのは難しいだろう。

 夢見の世界であの男の魂を滅するために、我輩が力を貸す。同じ邪神の魂なら捕らえるだけで手一杯だが、人間の魂くらいなら捻り潰すことができる。

 しかし、今は夢見の世界の扉は一人分の魂を通すことしかできん……我輩自身は君を送るので手一杯だし、邪神の魂は人のそれと比べて複雑なので、我輩自身がこの神器の中に入ることは今の状態では不可能だ。

 しかし、術者の力が弱まれば、私が夢見の世界に干渉できるようになる。君はゴルドヴァッサーとやらとレプリカで斬り合って、その精神を弱らせればいい……ただ、行く先は相手の領域だ。相当な根気が必要になるだろう」

「了解。根競べだけは得意だ」

「ふっ、そうだな。そうだとも、君の一番得意な分野だ。ちなみに、失敗したら君もただでは済まないだろう。夢見の世界を永久に彷徨い、その肉体はあの男の傀儡と化すだろうが、覚悟はいいかな?」

「お前な、俺のことを信用しているなら、余計なことは言わなくていいんだぞ?」

「きちんと説明しておかないと、消費者契約法に抵触する可能性があるからな。後でクーリングオフだとかなんとか言われても困る」


 相変わらずコイツはたまに意味の分からないことを言うが、ともかく思っている以上に危険な作戦になりそうだ。それを心配してか、扉の前で暴徒を防いでいるアザレアの方から「あの!」と声が上がる。


「心配するなよ、アザレア。それとも、俺のことが信用できないか?」

「うぅ……その言い方はずるいです。でも……ご主人様はいつも傷だらけになっていますから……きっとその、夢見の世界でも大変な目に遭うんじゃないかと思います。だから、心配するな、はちょっと難しいです。

 でも……同じくらい、私はご主人様の強さを信じています。私がこの場を守ります。ですから、必ず帰ってきてください」

「……あぁ、必ず帰る。だからこの場は頼むぞ、アザレア」


 アザレアは力強く頷き、再び持ち場へと戻った。フィオナはシュライクから二、三言を受けており――以前に平原でやったのと同じようにしろとのことだが、瘴気が溢れないように出力には注意しろだとか――その間に自分は暴れるパントエールの隣に座って背を壁に預けた。


「……君、いけるぞ。心の準備はいいかな?」

「あぁ、いつでも構わないぞ」

「それでは、始めるぞ。君は目をつぶって、これから巻き起こる潮流に意識を任せろ。それで、夢見の世界へといける……武運を祈るよ」


 シュライクとの会話を終えて、言われたとおりに目をつぶり、異変が起きるのを待つ。少し経つと、横から――フィオナの方から――僅かに異界の空気が流れてくるのを感じ、意識をそれに傾けることにする。


 直後、身体がひっくり返るような感覚。目玉が反対側に向くような、全身の皮がひっくり返るような反転感が身体を襲った後、魂が身体から抜け出る感覚が身体を襲った。いや、体というのはもはや正確ではないかもしれない。魂が、引力によってひかれる、そんな感覚だ。


 魂にかかる引力が落ち着いてから目を開けると――すでに身体を離れているから正確には意識を開くという方が正しいか――周囲はほとんど真っ暗闇の、しかしわずかに星明かりのような輝きの見える円形のトンネルの中にいた。自分の意識は何かの引力に引っ張られ、中をすさまじい速度で奥へと引き寄せられていく。


 そして再び周囲の景色が一気に反転すると、自分の意識に掛かっていた強烈な引力は鳴りを潜めていた。いつの間にか自分の意識はわずかな足場にあり――円形の足場で、その周囲は奈落の闇だ――ただ一方にのみ、どこまでも続くように見える石の下り階段が続いていた。


 あまりにも果てが見えなくて辟易とするが――どうせほかに道もない。そうなれば、この階段を行くしかない。そう覚悟を決めて、一歩、また一歩と階段を下り始めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。