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2-53:夢見のゴルドヴァッサー 下

 これ以上コイツを喋らせていても碌なことにはならない。さっさと黙らせるために前進をするが、ゴルドヴァッサーを抱えているローブ姿がこちらと同じ速度で後退をしているため、なかなか追いつくことができない。


「女のためなんて言うなら話は早いよ、ハルト君! 僕がすごく良いって評判の女をあてがってあげるからさ! 僕はあんまり女に興味はないんだけれど、誰かと仲良くするのに使えると思ってね、そういう用の娘たちも用意しているんだ。

 死んだ女のことなんか忘れてさ、未来を生きようよハルト君!」

「クソ野郎が、死ね!」


 ゴルドヴァッサーは逃げている間も言いたい放題だが、このまま行けばいずれ自分の方が有利になるはずだ。今はセギュールはもちろん、アザレアも工場内部に侵入しているだろう。つまり、相手が逃げるだけなら、そのうち挟み撃ちの形に持ち込むことができるはず。


 だが、その予想はすぐに外れた。単純な後退を繰り返していた男たちは、途中で大部屋へと逃げ込んだのだ。そこは廃工場の作業場で、流れ作業用のベルトコンベアーや加工用の機械が点在する部屋。つまり、かなり遮蔽物が多い場所といえる――銃や長剣などを武器とする自分としては、少し動きにくい場所である。


 そしてさらに厄介な点が二つ。一つは、ローブ姿のうちの一人がこちらへ襲い掛かってきたということ。部屋に入った時点で安全な場所へ主を隠したようで、とうとう攻撃に転じてきたのだ。精鋭の二人は他のローブ姿と違って近接戦闘に特化しているようで、銃ではなく短剣によるクロスレンジを仕掛けてくる。


 それについては、パンタグリュエルの強化がある今なら、対応できない速度ではない――が、そこで次の問題点。ここにも洗脳された教徒共が多く存在しているので、こちらとしては一気に囲まれる形になってしまう。しかも遮蔽物に教徒共は隠れているので、奇襲を受ける形になるのが厄介な点である。


 しかもこいつら、互いに傷つけ合うことを恐れていない。遮蔽物が多いということは、本来なら囲まれにくいということにもなるはずなのだが――同士討ちが発生しやすくなるからだ――こいつらはそれを恐れずに思いっきり武器を振るってくる。


 勝手に潰しあっているといえば聞こえはいいが、予測しにくい強襲というのは神経が冷える。特にローブ姿とは接戦なので、打ち合っているときに側面や背後から攻撃が来たら致命傷になりうるかもしれない。


 ひとまず、厄介なローブ姿をとっとと仕留めなければ――アトラク・ナクアの糸を周囲に張り巡らし、接近していた雑魚どもの動きを制限して、糸を躱していたローブ姿に向かって距離を詰め、剣先を一気に突き出す。


 ローブ姿はそれを背後に飛んで躱す――だが、中空へ逃れたローブ姿に、横合いから飛び込んできた何者かが激突する。着地の音は二つ、片方は無様に機材に突っ込む音、そしてもう一つは軽やかに着地する靴の音。後者の音の主である青髪の女は細剣を構えながら血だまりに沈むローブ姿を見つめていた。


「奴が本当に大元帥だというのなら、ここで首を取れれば今回の作戦はお釣りが来るわ……ハードロック! さっさとこいつを倒して、セギュールと合流するわよ!」


 パントエールはそのまま振り返り、新たに襲い掛かってきたもう一体のローブ姿の――自分が相手をしていた奴だ――強襲を細剣で見事に弾き返す。普段は彼女のじゃじゃ馬っぷりには悩まされることはあるが、さっさと雑魚を倒してしまいたい今ばかりは、彼女の腕っぷしの強さはありがたい。


 パントエールがローブの相手をしてくれるのなら、自分はゴルドヴァッサーを探し出して倒せばいい。奴の身を守っていた強力な守護の片方は倒したのであり、もう先ほどの速度で逃げることはできなくなっているはずだ。


 確かに軍としてみればあの神器は厄介な効果かもしれないが、個としての戦闘力なら十分に対処できるはず。襲い掛かってくる信者共をノモラスで迎撃しながら、この空間内のどこかに隠れているであろうゴルドヴァッサーを探す。


「……神器使いが二人同時に相手にするとなると、流石にちょっと厳しいかな? 僕としては、ハルト君とは同じ元雑用として、きちんと正式に再び仲良しになりたかったのだけれど……おい! ご老人!」


 ゴルドヴァッサーと仲良かった記憶など一切ないのだが――その声は、下の方から聞こえた。地下にいるとかいうわけではなく、単純にどこかの機械の下に隠れているのだろう。


 同時に、大部屋の奥の方からガシャガシャという音が聞こえ始める。これはつい先ほどまで聞いていた音。老兵の鎧がこすれ合う音だ。ローブ姿がパントエールから手を引いてこちらにターゲットを切り替えてくる――他の者たちも彼女を狙うのを止めており、パントエールも現れた老人の方へと意識を向けたようだ。

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