2-52:夢見のゴルドヴァッサー 上
「活きの良いお嬢さんとは聞いていたが……まさか噂の賞金首と一緒だとは。ディケムが反対勢力に情報を流しているという噂は本当だったんだねぇ」
そう言いながら、ローブたちの後ろでふんぞり返っている男は、長い舌で唇を舐めた。わざわざ剃り上げているのだろう、青白いスキンヘッドに刺青が入っており、両目がギョロっとしていて、やはりどこか爬虫類を思わせるような雰囲気だ。
しかし、一番注意するべきは手に持っているランタンのようなものだろう。ガラスケースの中に縦長の眼のような宝石がはめ込まれており、怪しい光を放っている――あまりにもあからさまといわざるを得ないが、恐らくはアレが奴の、人々を操っている神器だろう。
次いで、男を護る二人の者たち。あのローブ姿たちは相当な精鋭なのか、戦旗オリフラムの力で強化されたパントエールをもってしても、押し込むことができないようだ。それどころかはじき返され、パントエールが自分の隣にまで下がってきた後、スキンヘッドが口元を吊り上げながら陽気な調子で手を挙げてきた。
「久しぶりだね、ハルト君! 僕のことを覚えているかい?」
「口ぶり的に、鎖の魔術師だな? だが……」
「あぁ、そうだ、分からないのも無理はないねぇ。十年以上前だし、見た目は大分変わってるし……どうだい、この体。イカスだろう?」
そう言いながら、男はその場で見せつけるようにくるりと回って見せる。単純にこの男に覚えがないのは――あれだけ特徴的なら見覚えはありそうだが――もちろんだが、鎖の魔術師とすぐさま断言できなかったのは、鎖の魔術師であることを証明するあの刺青がないからだ。
確かにスキンヘッドには刺青が入っているが、それは魔術師特有のものでなく、ただのお洒落といった印象のものである。アレでいて何かの術式という可能性も否定はできなくもないが、少なくとも自分の記憶の中にこの男の情報がないのは確かである。
「僕はエルヴィン・ゴルドヴァッサー。夢見のゴルドヴァッサー……帝国大元帥の一人さ。もっとも、今はまだ非公式だけれども」
「確か……大元帥にはマルテルが死んでから、空席があったはずだな」
「そうそう。僕はそこに収まる予定だよ。それで、僕のことは思い出してくれたかい?」
「その必要はない……テメェはここで死ぬんだからな!」
手早く詠唱を済ませてノモラスを起動し、そのまま一気に前進して切っ先を突き出す。パントエールの攻撃が弾き返されたのだから、出し惜しみなしだ。我ながら迂闊な突撃ではあるが、こちらもパンタグリュエルの制限時間がある。どのみち邂逅してしまったのなら、相手に変なことをさせる前に倒し切ってしまった方が良い。
そう判断しての攻撃だったのだが、ローブ姿たちはすぐにゴルドヴァッサーとやらを二人で抱え、素早く背後へと飛んだ。スキンヘッドは腕に抱えられたまま、楽しそうに口元を吊り上げて――目は相変わらず死んでいるが――声を上げる。
「おっとぉ、酷いじゃないか! 折角懐かしい再会のために、周りに手出しをさせてなかったというのに!」
「テメェのことなんぞ知るか!」
「どうどうどう……落ち着き給えよハルト君。君が僕のことを覚えていないのはちょっと、いやかなりショックだけれど、僕は未だに君のことを友達だと思っているんだからさ」
「帝国に与するやつは俺の敵だ!」
近接で仕留められないのなら、遠距離で仕留める。剣を持ったまま左手で銃を抜き出し、禿頭を狙って引き金を引く。こういうときのために、どちらの手でも銃は扱えるようにしている――しかし驚くべきことに、弾丸はローブ姿が抜き出した短剣で両断された。
もう一発撃ち込むが、それは別のローブ姿によって同様の結果に帰した。なるほど、本体であるゴルドヴァッサーの戦闘力はそこまでだが、この二人の精鋭で身を守りながら、術中に嵌めていくタイプなのだろう。
連戦続きの現状で銃は打ち止め。そうなると、やはり接近戦で仕留めるしかない。改めて剣を握りなおして構えると、ゴルドヴァッサーは相変わらず男たちに抱えられたまま「ちっちっち」と指を振った。
「まったく、どうしたって帝国を敵視しているんだい? 帝国にいれば、力のある者が評価される……今の君は、神器を扱う立派な魔術師だ。フェルノワール様は君が欲しくて指名手配をしているけれど、忠誠を誓えば帝国の兵として迎え入れてくれるはずだよ。
どうだい? ソルヴェーニャ王党派なんて小さなパルチザンに参加してないでさ。もっと大きなことをしようよ! 今なら僕の部下にしてあげてもいいよ!」
「うるせぇ黙れ!」
「どうしてそんな乱暴をするんだい? 確かに君はよくレオン・カウフマンの元に通っていたみたいだけれど、アイツはもう死んだだろう?
現実を見るんだよ、ハルト君! 虚空の鎖に売られて人生を歪まされた僕たちが、その力を認められて自由に生きられるのは帝国しかないんだよ!?」
「黙れ! セレスタを奪ったフェルノワールを、俺は許すわけにはいかないんだ!」
「セレスタ……はぁん、成程、君は女を目当てにカウフマンの研究室に通っていたのか。それは知らなかった! てっきり、僕は純粋な君が、カウフマンの甘言に誑し込まれたんじゃないかと……ま、女に誑し込まれたんなら、あんまり変わらないか、ははは!」
「おぉおおおお!」




