2-50:裏切り 中
急いで扉まで走っていき、扉を開けようとするが、向こうから強い力で押さえつけられているのか、開けることができない。こうなれば、ノモラスを起動させて無理矢理こじ開けるしか――そう思った矢先、背後からけたたましい叫び声が上がる。銃を抜き出しながら振り返ると、人質の一人が言葉にならない声を上げながらこちらへ跳びかかってきていた。
先ほどの違和感の正体はこれか。囚われてしまった人々は、他の連中と同じように洗脳されていたのだ。今にして思えば先ほどバルトンを見ても名前を呼んだりはなかったし、単純な動作しかできないということなのだろう。
ただ、縄を解いたのは一人だ。そして直線的な攻撃は、麻痺弾で一瞬で黙らせることができる――というか、した。残りは大人しくしておいてもらうとして、さっさと扉を破壊してバルトンの後を追わねば。
そう思って再びノモラスに手を掛けるが、今度は複数の雄たけびが聞こえる。声の方を見ると、囚われていた者たちが縄を引きちぎっていた。最初からこうするつもりで緩くしていたのか、それとも限界を超えた力で引きちぎったのか――どちらにしても、身を守らなければ。
先ほどと同様に直線的な攻撃をしてくるならば、落ち着いて狙えば問題ない。そう思っていたのだが、微妙に知恵が回るのか、彼らは先ほど倒した連中の銃を拾い上げている。この場所にいるとハチの巣にされる。
しかし、銃を持つ知恵は回っても、それ以上の知恵は回らないようだ。動き回って瓦礫や棚などを利用して敵を分断し、敵の接近するタイミングをずらす。相手は狙いも甘い――僅かに瓦礫から身を乗り出して一発撃たせ、排莢している間に一体ずつ麻痺弾を撃ち込む。
危なげなく残りの四人を無力化することはできたが、その代わりに時間が掛かってしまった。もう一度扉に手を掛けて押そうとするが、やはり強力な力で押さえつけられているようだ。
詠唱を吟じ、ノモラスを起動して扉へと突き刺すと、先端が金属板をやすやすと貫き、真ん中に円形の穴が開く。どうやら、棚で押さえつけられていたようだが、それも一緒に吹き飛ばすことに成功した。
問題は、この棚を置いたのが誰かだが――答えは考えるまでもなかった。扉の外にはまたうじゃうじゃと、洗脳されている連中が現れていたのだから。
『数が少なかったのは、潜伏していたからか!』
『そのようだな。だが、逆をいえば奴らもここで決着をつけるつもりなのだろう……出し惜しみなしのようだからな』
元々、敵の数が少ないことに関しては、襲撃を予想した教団の連中が戦力を分けたのではないかと予想していた。しかしこれだけいるのなら、恐らくすべての戦力をこの工場内に潜伏させており、シュライクの言うようにここでケリをつけるつもりなのだろう。
この人数を一人で相手にするのは骨が折れるし、何よりもちんたらしている場合ではない。扉を閉めて去って行ったことを考えても、もはやバルトンが裏切ったというのは確定であり、そうなるとセギュールの読み通り、敵の狙いはパントエールである可能性が高い。
彼女は今、一人でこの数の敵とやり合っているか、最悪の場合は既に捕らえられてしまっている可能性がある。出し惜しみなしで行くしかないだろう。
パンタグリュエルの肉体強化を解放して、ノモラスを持ったまま廊下を一気にかけ始める。無視できる者は無視し、無視できない者に関しては切り伏せながら――元は善良な一般人なのだろうから可能な限り急所だけは外しておく――廊下を突き進む。
幸いなことに再配備された教徒に関しては銃を持っていないので無茶は効くが、こう数が多くては進むのにも時間がかかる。
『フィオナに伝えてくれ! セギュールに、お前の言う通りだったと、緊急事態だと伝言を頼む!』
『良いのかね? 我々にこういった伝達手段があることが……最悪の場合、我輩の存在が穏健派に知られることになるが』
『細かいことは後で考えるから、伝えてくれ!』
『了解だ。まぁ、バレたとしても良い子にするから安心してくれ』
コイツが良い子にするとかいうのは全く信用ならないが、セギュールに連絡が行けば外からの援護も期待できる。
後は、パンタグリュエルの強化が切れる前にパントエールと合流し、安全圏まで離脱すればいい――本来の目的は捕らえられた構成員の解放だ。だが、救うべきメンバー自身が操られている以上、根本的には術者を倒すしかない。肝心の術者が見つからない現状では、まず離脱を優先するべきだろう。




