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2-49:裏切り 上

「オッサン、助かった」


 そう声を掛けると、老兵は盾の構えを解きながら「ふん」と鼻を鳴らした。今の彼の行動を鑑みるに、もしかしたら彼への疑いは杞憂だったのかもしれない。


 もし彼が間者であるのなら、今のは自分を葬る最大のチャンスであっただろう。それを庇ったということは、少なくとも自分を殺す気はないということになる。


 ただ、重装備で全力疾走したせいで――それとも歳のせいだろうか――疲れがあるのか、振り返ったバルトンは顔に汗を浮かべていた。


「人質の安否を確認するぞ……灯りを頼む」

「あぁ、そうだな」


 男に頷き返し、スルトの左腕で倉庫の中を照らす炎を出す。改めて落ち着いてみると、見取り図通り縦長の部屋である。以前はここに様々な資材を積んでいたのだろうが、今ではその名残として棚やゴミの残骸が散乱している空間と化している。


 先ほどこちらを襲撃してきたローブ姿たちが七人ほど転がっており、それぞれ脇に小銃が落ちている。見覚えはあるのだが――少し型が古いのか、どうにも思い出せない。


「オッサン、こいつらの銃、どこのものか分かるか?」

「そんなことより、早く人質を救出するぞ」


 そう言いながら、バルトンはずんずんと瓦礫をかき分けて先へ進んでいく。一応、銃で所属が分かると思ったのだが――多分、ここまで倒してきた他の者たちは夜の偲ぶ会の構成員で、このローブ姿たちが乗っ取った連中、その中でも精鋭だろう。他の連中が真っ当な武器を持っていなかったのに対し、こいつらは銃器を与えられているのだから。


 さっさと先へ向かうバルトンをしり目に、麻痺して動けなくなっている男の一人の横でしゃがみ、ローブをはいでみる。当然、そこからは知りもしない顔が出てくるのだが――ガタイの良さ的には恐らく軍人だろう。ただ、どこ出身者か、またはどこの所属かは全く不明で、せいぜい刺青がないことから鎖の魔術師でないことくらいしか判別できない。


 一応確認のために銃器を拾い上げてみると、そちらにはちょっとしたヒントがあった。ボルトの近くに何やら紋章が刻まれており、これに近いものは見覚えがある。確か、革命期のソルヴェーニャで生産されていた銃だ。となると、こいつらはソルヴェーニャ出身かもしれない。


 まぁ、銃というものは生産されている弾丸と規格が合えば鹵獲《ろかく》されて使いまわされるものなので、確定とは言い難いのだが――それでも一つの仮説は成り立つ。もしかするとこいつらは、ソルヴェーニャ王党派が、洗脳されて襲い掛かってきたという可能性である。


 ただ、そうだとしても結局のところは元の木阿弥というか、あまり建設的な結論が出てくるわけでもない。ひとまず、バルトンの後を追い、倉庫内にいるであろう残りの人質を探すことにする。まだ未発見なのは五人ほどいるはずだ――そして彼らが倉庫の隅で縛り上げられているのをすぐに発見することができた。


 猿轡を外してやると、縛られていた面々からは「助かりました!」とか「縄を解いてください!」とかの声が上がる。対するバルトンは「今助けを呼んでくる」と言って立ち上がった。


「貴様は彼らを解放してやってくれ。私は後続の部隊に鎮圧した旨を伝えてくる」

「了解だ……分かったから、お前ら静かにしてくれ」


 先ほどまで銃弾が飛び交っていたせいか、囚われていた人々は半ばパニック状態になっている。しかし、なんだか妙な感じがする。彼らはまるで壊れた機械かのように、同じようなことを延々と繰り返しているから。


『……君、良いのか? 老人から目を離すことになるが……』


 膝をついて一人の縄を外しているうちに、そう脳裏に声が響く。確かに、それはマズい――そう思って立ち上がった瞬間、入ってきた扉が勢いよく閉じられた。


「おい、バルトン!? どうして扉を閉めるんだ!?」 


 もちろん、声を掛けても返事は返ってこない。しまった、完全に油断していた。先ほど庇ってもらったので、もう大丈夫だと思い込んでしまっていた。むしろ、アレはこちらを油断させるための演技だったのかもしれない。

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