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2-48:廃工場への突入 下

 廃工場の攻略については、見取り図を基に立てた作戦通りにことが進んだ。制圧に関しては、割と自分と相性が良かったとはいえる。イクストルの麻痺弾が命を奪わずに敵を無力化し、後から来るメンバーが拘束を行えば良いからだ。


 とくに銃を持っている敵も多くなかったので、接近戦についてはパントエールもバルトンも問題なく対応できていたのも大きい。


 廃工場に配置されていた敵の数は五十ほど。外を回る歩哨は二十ほど。残りは内部で、これは偵察からの試算よりははるかに少なく、その点については結構な違和感があるが、ひとまず大部分の制圧自体が簡単に成ったのはこれが要因である。


 次に救助について。穏健派の人々が捕らえられていると予測されていた三つの地点のうち、現在は二か所を回っているところで、そこにはそれぞれ五人ほどの穏健派のメンバーが捕らえられていた。ただ、まだ人数が足りていないようであり、最後の一か所である倉庫も回る必要がある。


 最後に今回の騒動の首魁について。これについても現状は不明のままだった。捕らえた教徒共は――いや、邪教徒でないなら単純に洗脳されているものとでもいうべきか――会話が通じるような状況でなく、話を聞き出すこともできないため、全く情報が集まらないのだ。


『ちなみに、こういった症状を引き起こす神器っていうのはあったりするのか?』

『あるかないかでいえばあるだろう、というのが答えになる。ただ、この症状にドンピシャというものは知らん……我輩だってすべてを知っているわけではないのだからな。

 むしろ、帝国の手の者が差し向けているとなれば、君の方が詳しいのではないかね?』

『何度も言っているだろう。鎖の魔術師時代は下っ端だったから、あまり情報を持ってないんだ……それに、知っていたら聞いてないぞ』


 これが帝国の仕業であるのなら、配備されていた者たちの洗脳は神器で行われていた可能性が高いのだが、残念ながら細かい情報は分からなさそうだ。ともなれば、後は出たとこ勝負、人質がいるであろう最後の倉庫に踏み込むしかない。


「……ここまでの動き、どうだと思う?」


 倉庫前の廊下を防備していた連中を倒し、銃弾を込めなおしながら二人に問う。バルトンの方は「もしかしたら……」という疑念がチラつくが、それより早くパントエールが細剣を振って応える。


「正直、拍子抜けよ。ここまで抵抗がないだなんて思ってなかったから……逆をいえば我々の襲撃を予測して、この先に戦力を集めていると考えるのが自然よね」

「あぁ。人員を集めるだけの広さがあるし、その可能性が高いと言えるだろう。しかも、人質に取られて身動きが取れなくなる可能性がある……どうする?」

「三人同時に突入は避けるべきでしょうね。一人は後発部隊と合流して、二人が戻らなければセギュールに連絡を取ってもらい、次の戦略を練るのが良いと思うけれど……」

「俺もそう思う。それじゃあ、最初の突撃は俺とオッサンで行く。パントエール、お前が残るんだ」

「……そうね。ここで無理を通す理由はないものね」


 提案に対し、意外なほど素直にパントエールは従ってくれた。普段は危うい部分が目立つ彼女だが、人質を取られた場合に最も難しい立場にいるのが自分であるということは理解してくれているのだろう。


「バルトン。囚われている者たちを頼むわよ」

「はっ……姫様も、まだどこかに賊が潜んでいないとも限りません。慎重に後方部隊と合流してください」


 頭を下げるバルトンを見届け、パントエールは来た道を引き返し始めた。バルトンと二人きりになるのは少々賭けだが、この先でパントエールが一緒にいるよりは良いはずだ。自分たちも最後の目的地に向けて歩き始めると、横から老人に「ハードロック」と声を掛けられる。


「分かっておるな、人命が第一優先だぞ」

「分かってると言いたいところだが、悪いが俺は見ず知らずの連中と自分の命と天秤にかけるなら、人質を見捨てる道を取らせてもらうぞ」

「それで構わん……よそ者の貴様にここで命をかけてくれとは言えん。いたずらに見捨てさえしなければ問題ない」


 バルトンも意外と冷静というか、てっきり「自分を優先するなど何事か」と喝破されるかと思ったのだが。だが、この男の場合はこの先の配置を理解している可能性がある――それで、自分にとやかく言わずともいいと判断している可能性も否定はできない。


 しかし、こんな風に「誰かが裏切っているかもしれない」という状況の中で戦うのは結構にしんどいものだ。これがまだ「確実に裏切っている」ならマシだろう。そういう風に動けば良いだけなのだから。


 中途半端に「どちらか分からない」という状態だから、無駄な猜疑心を生むし、頭に負荷が掛かる――ひとまず、やはり組織というのは自分に向いていないのだと再確認させられる。


 ともかく、バルトンが先行して倉庫の中へと入る――が、中は意外なほど静かだった。ただ、ここは広くて瓦礫や残置物も多く、しかも暗い。敵が潜伏している可能性は大いにある。


 そのため、まずは中の状況を把握するべく、炎の球を作って――スルトの左腕は意外と役に立っている――それを部屋の中へと進ませる。そして、それが中央へとたどり着いた瞬間、辺りから何かが一斉に起き上がり、直後に複数の銃声が鳴り響いた。


『引っかかったな!』


 そう心の中で叫びながら、敵のマズルフラッシュを目印に一発、二発と麻痺弾を撃ち込む。銃声の数的には、残っている敵は恐らくあと三人ほどだ。先にバルトンが中へと突撃し、大楯を構えながら音のした方へ散弾銃を撃ち込み、自分もすぐに中へと突撃して、暗がりに見える硝煙を頼りに一発撃ち込む。


 左から何者かが接近する気配を感じ、すぐさま向き直ってそちらへ撃ち込むと、斬りかかってきていたローブ姿に命中する。体に麻痺は回っているはずだが、跳びかかってきた勢いがなくなるわけではないので、後は切りかかってきている身体を躱すと、そいつは壁に激突してその場に沈みこんだ。


 これで制圧は完了か――そう思って辺りを見回した瞬間、横から「油断するな!」という叫び声が聞こえる。バルトンがすぐさま自分を庇うようにこちらへ走ってきて大楯を構えると、銃声がまた二発分ほど倉庫内に響く。


 銃弾が盾に当たり、鈍い音が響き――すぐにまた硝煙を目掛けて一発、二発と撃ち込むと、ようやっと空間内に静寂が来訪したのだった。


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