2-46:廃工場への突入 上
廃工場に捕らえられている人員については、驚くくらいに簡単に救出できそうであった。廃工場の内部に思ったほどの敵の配置がなかったためである。
工場への突入に関しては、自分とパントエール、それにバルトンの三人を先頭に突入が決行された。内部に配置されていたセクトの構成員については確かに強力ではあった。ただ、それはあくまでも「人間としては」の範疇の話である。
武器はお粗末で、包丁だの鉈だの日常的に揃えられるものであり、銃はもちろん、魔術などを使ってくるわけでもない。ただ単純に、やたらと力が強いだけ。気になるのは、訓練を受けているような体格でもないのに――動きもそうだ――下手なモンスターくらいの力があるという点だ。
『やはり間違いない。そいつらは眷属ではなく、操られているだけだな』
木偶人形は工場の外で控えているフィオナに連絡用で持たせているので、教徒共の様子を見ることはできないのだが、情報と特徴だけでそのように思ったらしい。肉体のリミッターを外して襲い掛かってきていると――パンタグリュエルを使っているときに近いというのがシュライクの談だ。
眷属ではないということは、それはすなわち「今回の誘拐事件に関しては邪神が絡んでいない可能性が高い」ということを意味する。それは同時に、昨日のセギュールの予測と――自分一人にだけ話された内容だ――とも一致する結果となる。
昨日セギュールに話された話、これも端的にまとめれば、帝国が穏健派の戦力を削ぐために動いている可能性があるとのことだった。ただ、それだけの理由ならあまりに回りくどい――もし単純に帝国が王党派を潰したいのなら、治安維持を目的に兵隊を差し向けてくれればいいだけなのだから。
つまり、これが帝国側によって行われている作戦の場合、単純に王党派を潰すことが目的ではないということになる――そのときのセギュールとのやり取りは次のようになる。
「穏健派のメンバーを誘拐して、敵対勢力の力を削ぐ……これは確かに回りくどい。彼らの真の目的は、恐らくコンスタンツ姫の身柄の拘束ではないかと考えています」
「なんだと? 穏健派の中でアイツの身分を知っているのは、お前とバルトンくらいなんだろう?」
「えぇ、その通りです……少し脱線しますが、貴方は我々の戦力をどう評価しますか?」
「ストレートに言えば、弱小レジスタンスだ。もちろん、アンタの実力やコンスタンツの存在はデカいが、帝国の規模感から言ったら……そうか、そういうことか」
「その通り。私たちが塩の大地に存続できているのは、帝国側から見てすぐに潰さなければならないほどの危険な勢力でないからです。もちろん鍛錬は怠りませんし、情報収集も欠かしません。有事の際には他の勢力と合流すればそれなりの脅威ともなるでしょう。
ですが、貴方の言う通り、我々単品ではそう脅威にはなりません……ディケムは我々を特別扱いしたのではなく、幾つかの反帝国組織に貴方の情報を流しているはずです。
そうなってくると、わざわざ我々を狙い撃ちにするような今回の事件は、ディケムの派閥とは別の集団が、何かの目的をもって我々を狙っていると考える方が妥当だ。そしてその目的となれば、姫の身柄を狙っているという可能性が浮上してくる。
恐らく、筋書きとしては次のいずれかです。身柄を拘束したメンバーの釈放を願うなら、コンスタンツを差し出せと要求してくるつもりでしょう……一人や二人拘束されたくらいなら我々はその要求を突っぱねることもできますが、既に結構な数の行方不明者が出ている今、単純な見殺しは今後の味方の士気にも関わってくる」
「それも少々回りくどい気がするな。コンスタンツ狙いなら、それこそ一人のときを狙えばいいんじゃないか?」
「最初はそう考えていたのかもしれませんが……ちょうど時期を近くして、姫は凄腕の護衛を抱えましたから。別に狙っていたわけでもないのですが、貴方たちが隣室になっていたせいで、狙いにくくなっていたのではないでしょうか?」
もしセギュールの予測が事実なら、自分たちの潜伏場所は帝国に割れていることになるのだが――元からディケムには割れていたのだから今更か。




