2-44:疑念 中
「ハードロック殿たちにも参加いただけるのなら、可能なら先陣を切っていただきたい。同志たちも日々訓練をしており、王国を取り戻そうと血潮たぎる精鋭たちが集まっておりますが、それでも普段は帝国兵との会戦を想定した演習をしていますから、このような屋内の戦闘には慣れていないのです。
それに、報告にあったように凄まじい力で暴れる教徒たちが数多くいるのなら、一般的な兵士では太刀打ちできない可能性も高い……」
「それなら確かに、普段から化け物とやり合うのに慣れている俺たちの方が向いているだろうな」
眼鏡の男は頷き返し、見取り図を指し示しながらひとまず作戦の説明を始める。一番の目的は捕らえられている同胞の解放、二番目の目的が敵首魁の捕縛である。基本的には救出が優先されるが、状況によっては捕獲を優先することも考えられる――邪神が束ねているセクトであれば、首魁を倒せれば洗脳が一気に解けて状況が解決する可能性があるからだ。
ただし、首魁は何者かも分からないし、廃工場のどこにいるかも分からない。元々、夜を偲ぶ会が結成されたときのリーダーがジレという人物であることは分かっているらしいが、その人物が今も教団を率いているかは謎である。
そして、自分たちが攻め入るときに廃工場内に首魁がいない可能性もある。そうなると、リーダーを捕獲する動きを主軸にするのは難しい。
逆に、誘拐されたメンバーがいる可能性の高い場所は見取り図から予測はできる。可能性が高いのは倉庫などある程度の広さがある場所の三か所。一か所に集められているかもしれないし、複数の箇所に点在しているかもしれない――そのため、裏口から侵入し、三地点を全て回って捕まっている穏健派たちを解放し、そのまま元来た道を引き返して撤収する。その間に首魁と遭遇するようなら捕獲すると、そんな作戦が述べられた。
作戦指揮はセギュール、突撃は自分たちが行って教団員たちを蹴散らしていき、残りのメンバーは突撃後の要衝の確保と捕らわれている穏健派たちの誘導、ないし気絶している敵教団員の拘束にあたる。確かにそんな作戦を行うなら、相応の人員が必要になるだろう。
作戦決行は明日の深夜、それまでの間も情報収集を行い、それ次第では多少の変更もあり得ると。セギュールの作戦の説明が終わったタイミングで、パントエールが組んでいる腕を外して小さく――しかしやや不機嫌そうに手を挙げた。
「私は作戦そのものには賛成よ。ただ、できれば立案には私も呼んでほしかったわ」
「そうは言いますが、ことが起こったのは昨日、貴女が帰った後でしたから」
「緊急事態でしょう? そんなことを言っている場合ではないと思うのだけれど……それとも、一人で考える方が早かったってことかしら?」
「パントエール。貴女の立場は組織内においては中尉相当です。立場で押さえつけたいわけではありませんが、組織の運用については私の方が上位の裁量権を持っているのですよ」
「……了解よ。それなら、なぜ賛否を聞いたのかって話は置いておいてね」
空気がピリついている――パントエールは意外と簡単に引き下がったが、納得していないというのは明らかだ。穏健派のピンチを救うはずの作戦会議のはずなのに、肝心の三人の間に漂う緊張感が強く、それにアザレアとフィオナはビビっているようだ。
こんなことなら、一人で来ればよかったか。そんな風に思っていると、厳しい表情を作っていたセギュールの雰囲気が一変し、こちらに笑顔を向けてきた。
「ハードロック殿は、私の作戦をどう考えますか?」
「そういう契約なんだ。やれと言われれば協力するさ。それだけの報酬込みで納得しているんだからな。ただ、悪いんだが参加は俺一人にさせてくれ」
そう返答すると、セギュールよりも早くアザレアとフィオナが反応した。アザレアの方は納得と疑問が半々、フィオナの方は不安と疑問が半々といった雰囲気だ。
「ハルト、どうして?」
「お前、人を撃てるか?」
一応確認は取ったが、単純に自分が「フィオナに人を撃ってほしくない」という気持ちがあるのが大前提だ。自分については、生き残るためにそういうことをする覚悟も決まっているが、彼女の場合はまだ幼い――基本的には生け捕りにしようといっても、激しい戦闘の中では加減も難しい。そんな事故で、人の命を奪うという業を背負うにはフィオナは若すぎる。
実際に、フィオナはセギュールの作戦を聞いている間、ずっと神妙な表情をしていた。恐らく、人を撃つということに関して思うところがあったのだろう――しかし、それでも納得いかないのか、なおこちらに食い下がるような視線を向けてくる。
「……この前、セスティナなら撃った」
「それは、一対一で、相手を生け捕りにしようと覚悟してたからだろう? 今回の場合は、何人も一斉に襲ってくる可能性があるし、加減は難しいはずだ」
「でも……」
「でももへちまもない。アザレアと一緒に留守番をしてるんだ、いいな?」
「……ハルト一人で大丈夫?」
「心配か?」
「強いて言えば、周りに迷惑をかけないか心配」
「そんだけ減らず口を叩けるなら大丈夫だ」
そこまで言うと、フィオナは観念したように目を瞑った。アザレアの方も自分と同じような懸念をしていたのだろう、しかし俺一人を行かせるのが不安なのか、やはり納得と心配が半々といった様子でフィオナの肩に手を添えている。
ひとまず、二人の説得が一息ついたので、セギュールの方へと振り返り、決定した方針を――説明するまでもないだろうが――伝えることにする。
「連れてきたからには二人の協力も期待していたかもしれないが、悪いがそういうことだ」
「正直、貴方がた三人の実力を期待しての突撃作戦ではあったのですが……貴方のご意見はもっともです。それでしたら、ハードロック殿に先頭を行っていただいて、アザレア殿とフィオナさんには後方で支援してもらうのはどうでしょう?
後方にいれば戦闘行動は必要ありませんし、万が一漏れ出てきた敵がいても、他の者たちで制圧可能です。お二人には救出した人員の保護など、安全な範囲でお手伝いいただければと思います。
それに、お二人もハードロック殿の近くにいた方が安心だと思うので……この前も、駅にお迎えに来てくれるくらい、ご心配なさっているようですし」
セギュールの言葉を聞いて、アザレアとフィオナの表情がぱっと明るくなる。もちろん、彼の言葉の裏には「最悪のケースを想定して戦闘力として勘定させてくれ」という意味もあるはずだ。
確かに、万が一のことが――それこそ恐ろしいイグノートゥスがセクトを占領したなど――あるような敵なら、アザレアをいつでも招集できる状態にしておいた方が安全といえる。
何より、アザレアとフィオナもついてくる方が安心なようで、セギュールの言葉にすっかりその気になっており、今から「ダメだ」とも言いにくい。観念して「分かった」と返すと、アザレアとフィオナが両手でハイタッチした。




