2-40:探索の合間に 下
しかし、なぜコルネリウスはフィオナの喋り方を矯正したのか。シュライク曰く、自分たちの知るフィオナが自然な言葉を使うことが、コルネリウスの癪に触ったのではないかとのことだった。
確かに、愛娘に似ている女の子が愛娘と同じように喋るのは気に食わないのだろうが――それはコルネリウスの傲慢であると思う。フィオナはコルネリウスのエゴで生まれたのであり、似てて当たり前なのに、それに激昂するなどというのは、あまりにも理不尽だ。
まぁ、娘を蘇らせようと三百年も生き続けている奴なのだから、相当な変わり者なのだろうが――少なくとも、あまり気持ちのいい奴でないことは確かだろう。
さて、ここ数日の探索が止まっている理由だが、何やら王党派のメンバー、並びに自分たちが現在居住している地域で、謎の失踪事件が発生し始めたことが原因である。
失踪しているメンツ自体は様々で、王党派の私兵はもちろん、職人や女性、それに老人、子供と見境はなく、場合によっては王党派と関係なく失踪してしまっている場合もあるようだが、多くの場合は穏健派のメンバー並びにその親族が失踪してしまっているらしい。
三週間ほど前、要は自分がスカウトを受けるその前から兆候はあったらしいのだが、塩の大地は治安も良くないので、最初は特別に問題視はされていなかったらしい。
ただ、それが断続的に、かつ一週間前からは一日に複数人が消えるような事態に発展しているらしく、それ故にパントエールら主要メンバーは事件の調査に当たるため探索を中断しているのだ。
傾向としては王党派を狙う犯行だということで、犯行を取り仕切っている組織としては、複数の候補が考えられる。帝都での失踪事件は、暴力沙汰や強盗などの単純かつ原始的なものから、場合によっては弱小セクトの無理矢理な拉致などが多いが、その場合は穏健派ばかりを狙う理由になりにくい。
そうなると、帝国と考えるのが自然なようにも思うが、それもやや不自然である。
その最大の要因は、帝国が拉致などまどろっこしい真似をする必要がないという点。穏健派という名前ながらも反体制組織なわけであり、帝国側はその気になれば治安維持の一環と称して、丸ごとしょっ引くことも不可能ではないのだ。
この説に関しては一応、ディケムによって抑えられているという可能性のほか、証拠不十分で逮捕に踏み切れていないとも言えるが――ともかく此度の犯行が帝国によるものと断言するには根拠が足らないような状況である。
自分たちとしても連日の探索の疲労もあったし――とくにフィオナの疲労が顕著だ――たった三回の探索で七層のかなり奥まで進めていたので、ひとまず探索の中断を受け入れている形である。
また、場合によっては失踪事件の解決に力を貸してもらうかもと言われているが、それもここに間借りしている契約内容に含まれるので合意している形だ。
探索を中断しているここ数日は、主に休息に当てられた。そもそも自分が指名手配中であり、あまりみだりに外をうろうろするのは好ましくない――自分のことは一度だけ新聞の片隅に載った程度で、帝国兵でもない限り、自分を探している連中などはそうはいないだろうが、とくに以前の居住区で近所だった人々に出会えば面倒なことになるかもしれない。
せっかく身分証もできたので、比較的近所にある図書館で改めて自分もカードを作り、家の中で本を読んでいる時間が多かった。
ただ、あまりにずっと家の中にいても気が滅入るので、帝国兵があまりいない場所を散歩したり観光したりもした。とくに学術区はちょっとした散策には良い場所で、アカデミックな場であるだけでなく、一万年前の遺物が展示されている美術館もあり、古い建物も保存のために多く残されている。知的好奇心が旺盛なフィオナにとっては見どころの多いところのようだ。
対して、アザレアは意外と活気のあるところが好きらしく、商業区がお気に入りらしい。別段あれもこれも買い込みたいわけではないようだが、都会的な雰囲気には憧れがあるらしく、ウィンドウショッピングをするだけでも――付き合わされる方は大変だが――楽しいらしい。
あの辺りは逆に人も多くて紛れやすく、兵士も少なめなのでそこそこ安全だし、どのみち生活品を買いに行かなければならないので行かざるを得ない場所である。まぁ、指名手配をされている手前、自分だけは留守番をしている方が安全でもあるのだが――以前の原典派の襲撃は自分がいないときに行われたものであるから警戒したいし、アザレアとフィオナが自分と一緒に行きたがるので、諸々を勘定して一緒に行った形である。




