2-39:探索の合間に 上
パントエールらと手を組んで煉獄を探索するようになってから二週間ほどが経った。初めてバルトンと一緒に籠ったのと合わせて、合計で三回ほどの探索を行っている。最初はハイペースで籠っていたのだが、今は故あって――怪我などではない――五日ほど探索を休んでいる状況である。
メンバーについては、自分とアザレア、フィオナについては確定しており、王党派からはパントエールが基本的におり、そこへセギュールとバルトンが入れ替わる形で、計五人での探索が続いていた。
戦闘に関しては、七層の浅い部分ではほとんどアザレア一人で十分だったのだが、現状ではしっかりと役割分担をしながら進めている。アザレアとバルトンが前衛、フィオナとセギュールが後衛の火力、自分とパントエールは中衛で、後衛を守ったり前衛の補助を行ったり――自分は弾丸で状態異常をばらまけるし、パントエールは神器による補助がある――という形である。
セギュールがいるときの方が火力はあるが、敵の攻め手を止める人数が減るので楽になるわけではない。バルトンも老兵といえども気力は十分で、彼がいるときの安定感は非常に高いものになっている。
自分一人で煉獄に籠っていたのが嘘というくらい、楽に進めている。元々はシュライクに偵察に行かせて奇襲を掛けたりやり過ごしたりで何とかしていたが、これだけのメンバーが揃っていれば真正面から進んでも制圧できる。今さらながらにパーティーを組むということのメリットを実感するというか、何なら一人で進んでいたのが馬鹿みたいである。
なお、シュライクについては変わらず、煉獄内では自分と念話でやり取りするのみである。一応、鞄の縁から外の様子も見てもらっているが、敵の感知についてはアザレアだけで問題ない――が、案内役としてはこれ以上ない活躍をしてくれている。
ただ、退屈なのか、暇さえあれば脳裏であーだこーだと声をかけてくる。自分としては、面倒なときは大体それを無視している。まぁ、無視しててもあーだこーだと言ってくるのだが、緊急時は黙っているので吉とすることにする。
メンバーについては、大分打ち解けて来ているように思う。とくに目を引くのは、パントエールとフィオナだろうか。アザレアは最前列にいるというのもあるし、そうでなくとも会話については控えめなタイプなので、自然と娘二人が会話をしている時間が長くなっている。パントエールがフィオナに本を貸してくれているようで、主にはその内容についての談義が多かったのだが――。
「……フィオナは不思議な話し方をするわね」
これは一週間ほど前に実際にあった会話で、パントエールがフィオナにした質問だった。実際のところ、自分も少し気にはなっていた。やや感情のこもっていないような機械的な喋り方は彼女独特なもので、普通はあまり聞くものではない。
ただ、なぜそんな話し方になったのかを聞く機会もなかったので――なんやかんや彼女の雰囲気にも合っているし――気になる程度で止まっていたのだが、そこは流石のパントエール、大胆に切り込んでいった形である。
だが、フィオナの方は少々言いにくそうに口をつぐんでいる。それを見て、セギュールが「こら」と窘めるように声を上げる。
「パントエール。人それぞれ個性というものがあります。それを不思議だなんて言うのは失礼なのではありませんか?」
「いえ、彼女の話し方は可愛らしいと思っているわよ。ただ単純に変わっているなと思って……」
パントエールはそこで言葉を切り、フィオナの方へ視線を向ける。自然と、自分も少女の方を見るのだが――フィオナはあからさまに背を曲げて、ズボンの裾を掴んでいた。
「……お父様が、女の子らしい喋り方を嫌ったから」
「それは……」
パントエールはそこで続きを言い淀んでしまったようだ。
一応、フィオナの事情はある程度パントエールには話しているが、コルネリウスとの関係性についてまでは説明していない。その情報の不足もあるのだろうし、そうでなくとも「父に矯正された」などと聞かされれば、それ以上踏み込むのも難しいだろう。
同時に、フィオナも周りが重苦しい雰囲気になってしまったことを気に病んでいるのか、それ以上は説明せずに押し黙ってしまう。
「……もしフィオちゃんが女の子らしい話し方をしたかったら、ここでなら好きに話しても良いのよ?」
沈んだ空気を和ませたのは、アザレアの一言だった。先頭を歩いていた彼女が少女の元へと踵を返し、柔らかな笑顔でそう声を掛けたのだ。
「……アザレアはこの話し方、嫌い?」
「そんなことないわ。私はフィオちゃんの今の話し方も大好きよ。ぶいっ、とか、ぱたっとか、可愛らしいもの」
「それじゃあ、今の話し方を続けてもいい?」
「えぇ、もちろん! どんなフィオちゃんも可愛いし、フィオちゃんの好きなようにしていいんだから!」
「うん……アザレア、ありがとう。ぶい」
「ぶい!」
はにかみながらピースをするフィオナに対し、アザレアは満面の笑みでピースを返している。おかげで先ほど張りつめていた空気がすっかりと緩和され、フィオナとパントエールも自然と会話を再開していた。




