2-37:ヴィンセント・フェルノワール 中
「……ねぇ、どうしてフェルノワールは革命勢力に合流したのかな?」
そう質問を差し挟んだのはフィオナだった。
「そこまでは知らん……ただまぁ、予測はできる。アイツは、ソルヴェーニャ王国、ひいては王政という制度そのものに復讐したかったんだろう」
「どうして?」
「アイツの足跡を見ればわかる。恐らく最初は、祖国を解放するために革命に参加したんだろうさ。アイツの祖国は、各国の間で常に分割され続けた……ソルヴェーニャだけじゃなくて、その周辺国はいずれも王政の国だった。
だから、アイツは真の意味で祖国を解放するために、その支配者であるソルヴェーニャの王権を、さらには周辺の王政も否定しようとしたんだと思う」
「でも、それだと矛盾しているように思う。自分が皇帝になるって、王様になるってことでしょう?」
「……あの男のことをフォローするのも気が引けるけれど、実は矛盾はしないわ」
そう口を挟んできたのはパントエールだ。一同の視線が――バルトンを除いてだが――彼女に集まる。
「皇帝という言葉自体は、確かに王の一種のようなイメージを持っている。ただ、大陸の王政は基本的に血族によって世襲されるのに対し、フェルノワールが築き上げた帝国は、選挙によって皇帝が選出される。
もっとも、もはや彼がその地位を独占しているからフェルノワール帝国と揶揄されているわけだけれど、民意によって選ばれるか血統によって選ばれるかの差はある。
フェルノワールが否定しようとしたのが世襲的な王政というのであるならば、彼の行動は矛盾しないのよ。皇帝の権力は絶大だけれど、憲法によって人権を保障しているほか、政治に必ず民意が反映されるようになっているから」
「なるほど……それじゃあ、フェルノワールは政治に民意を反映させたかったのかな?」
「いいえ、そうは思わない。むしろ、権力を正当化させるためにそういった制度を作ったんじゃないかしら。大陸は王政に慣れすぎていて、統治者に血統を求めることが多い……それを壊すためにルールを作り替えた、という方に見えるわ」
「うぅん、混乱してきた……結局、フェルノワール自身は王様を目指したってことで良いの?」
「正確に言えば、こうだと思うわ……あの男は、大陸の古い慣習を破壊したかった。祖国を縛った古い伝統を破壊し、誰もが成り上がるチャンスを得られる、そんな世界を構築し、そして……自分自身がどこまで行けるのか試している。そんな風に見えるわね」
パントエールのフェルノワール評は、結構的を射ていると思う。自分としての印象はこうだ。元々は祖国解放のために力を求めたが、その途中で力に魅入られた、と。もしくは、故郷に対する絶望もあったのかもしれない。
フェルノワールは一度革命軍と共に祖国に帰っている。だが、故郷の民衆は自由も平等も求めておらず、古い因習に縛られて、小さな世界で勢力争いを続けるだけだった。世界が大きく動いているその瞬間に、変わろうともしない故郷の人々に対して絶望し、己は力を求めて戦いに身を投じたと、そんなところだろう。
そんな風に考えながら歩いていると、改めてパントエールが自分の方を見つめてくる。
「私が知りたいのはその辺りよ。今のは、私の予測に過ぎない……あの男の過去が分かれば、もう少しフェルノワールの行動原理や目的がはっきりとしてくるかもしれないから」
「なるほど……それじゃあ、話を続けよう。ここからは、実際に俺が見た部分も含む話になるな」
とはいっても、先ほど言ったように接点などなかったし――実際に向こうはこちらを認識していなかった――遠目から見ていた印象という程度のことしか言えないのだが、説明を続けることにする。
「俺が虚空の鎖に売られた……もとい、入ったときには、フェルノワールはソルヴェーニャで影響力を増していて、本部に来ることは本当に稀だった。
だが、鎖内でもフェルノワールに賛同する勢力は確かに存在した……力のある魔術師たちに立身出世のときが来たのだと、保守派やカウフマン派と対立を起こし始めていたんだ」
「……フェルノワールと少し話がずれるけれど……そのカウフマンって人物はどんな人なのかしら?」
初めて聞く勢力名に、パントエールは興味を持ったようだ。
「……革命風に言うなら、中道左派の人物ってところだ。虚空の鎖が世界に対して影響力を持つべきであり、人の自由と平等のためにその力を行使すべしというのはフェルノワールと同じだが、イデオロギーの構築や戦争を目的とした魔術師の輸出には反対、という思想を持っていた人だ」
「ふぅん……なんだか立派ね」
「お前さんとの相性がどうだかは分からないが、少なくとも王党派とは相いれないと思うぞ。さっきも言ったけれど、イデオロギーの構築には反対なんだ……どちらかと言えば貧しい人を救うとか、そっちの思想だ。
だから、俺みたいに奴隷や農民など貧しい身分の出身者の中で、とにかく武勲を立てたいやつはフェルノワール派、そこまで過激でない連中がカウフマン派で、伝統を守る奴が保守派と、そんな感じで分かれていたんだ」
「なるほど……虚空の鎖の内部でも革命が起きていたのね」
「小規模だがな。五百人程度の組織なんだから」
「議会の人数はそんなものよ」
「別に、鎖は一人一票制だったわけでもないけどな……ただまぁ、比率的に言えば保守派が圧倒的だったよ。カウフマン派が五十人程度、フェルノワール派が百人程度、後は全部保守派だ。ちなみに、イリスも保守派だったらしい」
「……ちょっと待って、シャルトリューズ女史は鎖の魔術師だったの?」
「あぁ、そうだ。もしかして、知らなかったのか?」
「えぇ……あくまでも遺跡管理局員の中で、反帝国派として紹介されて懇意にしていたのよ」
「まぁ、普段は化粧で綺麗に刺青を消しているからな。アイツから言わないんじゃ、知らなくても仕方ないさ……さて、続けるぞ」




