2-34:名もなき湿原にて 中
「貴様! 貴様は何ができるのだ! 女子供にばかり戦わせて、けしからんではないか!」
「いやまぁ、それは全くのその通りだな」
鼻息を荒げてこちらを指さしてくる男に対し、自分は何も反論できなかった。ただ、中近距離戦ならアザレアの方が自分の何倍も強いし、遠距離ならフィオナの方が正確で速い。自分は剣も銃も使えるといえば聞こえはそれなりかもしれないが、より特化したスペシャリストがいれば出る幕もないというのが現状である。フィオナが拳銃しか扱えなかったときには、まだもう少し出番もあったのだが――というのも言い訳に過ぎないだろう。
そもそも、二人が素早く敵を殲滅してしまうので、喰ってかかってきているバルトン自身だって何もしてはいない。それなのにあれやこれやと言われるのも、少々癪だな――何か言い返そうと思っていると、それより先にパントエールが自分と老人との間に割って入ってくる。
「やめなさい、バルトン。ハードロックの実力に関しては、私が保証するわ。彼がいなければ、今頃私は鉱山で瓦礫の下に埋もれていたかもしれないのよ」
「コ……パントエール、しかし……!」
「それに、今回の件は、彼らの実力を見定めるためのものでしょう? 普段は六層で疲弊していた私たちと違い、彼らは悠々と対処しているのは事実……それは認めるしかないんじゃないかしら?」
「う、むぅ……」
仕えるべき主君に押されては、さしものバルトンも反論はできないか。とはいえ、コイツとしてはやはり、自分たちなどに大切な姫様を任せたくないはずだ。そうなれば、ここからどういちゃもんを付けて来るか見ものだ。
そう思っていたのだが――。
「……認めよう、貴様らは強い」
そう、意外なほどあっさりと認めてきた。現在は七層をしばらく進み、見晴らしの良い場所で少し休憩を取っているところである。パントエールがアザレアとフィオナに興味津々なようで、女性三人で固まって何やら色々と話している傍らで、バルトンが唐突に声を掛けてきた形だ。
「どうしたオッサン。イヤに素直じゃないか」
「勘違いするな、強さを認めただけであって、貴様らのことを信用したわけではない」
『はは、絵に描いたようなツンデレ爺だな』
だからツンデレとは何なのか。シュライク曰く、自分がそれであると需要がないらしいので、恐らくバルトンにもないに違いない。しかし、意味は分からずともこのオッサンと同じというのは気分的にはよろしくないが――ツンデレ爺は軽食の肉切れを口に運び、それを飲み込んでから、後ろにいる女性陣に聞こえないくらいの声量で話を続ける。
「……貴様は、事情を知っているのだったな」
「パントエールのことだな?」
「あぁ、そうだ……私は、ガストン様より、あの子の未来を託されたのだ」
バルトンは言葉を切り、少し離れたところで談笑しているパントエールの方を見つめる。その視線には、彼女こそが守るべき主君という強い覚悟を感じると共に、他にも何か深い感情があるように思う――別に不快とかイヤらしいとかではなく、あたかも娘でも見るかのような、そんな雰囲気を感じる視線だ。
だが、多少危ういところがあるといえど、パントエールは大人である。そういった意味では、その視線の温かみが、必ずしも彼女のためになるとも限らない。
「アンタの事情なんぞ知らないが……ちょっと過保護すぎるんじゃないか? 託されたといっても、もう大人だろう?」
「何を言う、あの子はまだ十八だ」
「……それは驚いた。落ち着いて見えるから、もう少し上かと思っていたが。それでも、俺の意見は変わらないな。十八と言えば、一人立ちできる年齢だ」
「普通ならそうかもしれん。だが、あの子の肩にかかっているものの大きさ、それを貴様に理解できるか?」
「……さぁな」
「ふん、であろうな」
「分からないついでにいっちょ教えてくれないか。パントエールの肩とやらにかかっている大きいものってやつを」
実のところ、彼女の肩にかかっている大きいものとやらのことについては、全く想像ができないというほど愚鈍なつもりもない。国だとか、臣民だとか、王党派の期待だとか、恐らくはそういったものだろう。
だが、それを理解できるなどというのは、身の回りのことしか考えてない自分としては――それでいいとも思っているが――おこがましいとも思ったから、分からないと返しただけである。
同時に、その大きなものとやらが、パントエールの焦燥感を生んでいるようにも思う。周りが勝手に期待して、それであの娘がつぶれそうになっているというのなら――そしてそれを周りの大人が勝手に期待しているとなれば、それが原因でパントエールは追い込まれているとも言えなくもないはずだ。
「……あの子の肩にかかっているのはな。ガストン様の夢だ。それも、もう答え合わせのしようもない、あの子がガストン様が夢見たと思い込んでいる、そんな夢だ」
「……夢?」
夢、そういえばパントエールは父の遺言とか言っていたように思う。だから、自分は彼女に対して興味を覚えたのだし、穏健派に合流してもいいと思うきっかけにもなった。ただ、バルトンの表情的には、彼はその夢をあまり好意的に思っていないような雰囲気である。




