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2-30:条件交渉 下

「さて、他に懸念事項はあるかしら?」

「ちょっと待て。アンタらと一緒に煉獄攻略するのが決まった前提で話を進めるんじゃない」

「煉獄の攻略がメインになる以上、出社の方は最低限で構わないわ。貴方はある程度の時間的な自由は確保できるし、街にいる間の身の安全の確保をしながら、煉獄を進むことができる……悪い条件ではないと思うけれど?」

「まぁ、それはそうだが……」

「逆に聞くけれど、煉獄へ行く際は、アザレアを連れて行くのかしら?」

「いや、フィオナも連れて行く」

「嘘でしょう? そんな小さい子を……」

「あぁ見えて、並の奴よりは余程できる。神器持ちだ。それに、アンタらが守ってくれると言っても、一人にはしておけない……煉獄の攻略の方が安全なくらいだ」

「……事情を聞いても?」

「フェルノワールが狙っているものの一つにフィオナがいる」


 そこで言葉を切って、フィオナに視線を向ける。頷き返してくれたので、言える範囲で話すことにする――自分たちを匿うことには相応のリスクがあると、理解してもらうべきだろう。


 フィオナの件については、おおよそすべて話した。そもそも、パントエールが自分を評価してくれたのは、実質的にはフィオナの存在が大きい――あの子の助力なしには、デュランダルを圧すことなどできなかったはずだから。


 ただ、話してもいいと思ったのは、王党派に参加するかは置いておいても、パントエール個人は信用できると判断したからである。


 フィオナが邪神や神器の力を増幅することができること、そのためフェルノワールを筆頭に様々な勢力が狙っていることなどを話す。事情を話している間、パントエールは神妙な表情でフィオナをしばらく見つめていた。


「そう……貴女、大変だったわね」


 パントエールはフィオナにそう言った後、自分の方へと向き直る。


「見たこともないことを鵜呑みにはできないけれど……納得した部分もある。そもそもフェルノワールを追い詰められたのには、その子の力が大きかったわけね」

「あぁ。だが、リスクもある力なんだ。だから、基本的には使うつもりはない。それに、この話が広まれば色々な奴に狙われる。このことは……」

「大丈夫、私だけの秘密にしておく」


 私だけの、というのはセギュールたちにも話さない、という意味合いだろう。実際、その方がありがたい。知る者が増えればそれだけ漏洩のリスクは上がるし、セギュールのような切れ者の場合は、フィオナを何かの交渉材料にする可能性がある――アイツを冷たい奴と言いたいわけではないが、戦争をしている以上、そういう可能性だってあることは否定はできない。


 パントエールは一息入れてから、フィオナの方へ身体を向ける。心なしか背筋も伸び、態度も真剣なようで、誠実に向き合おうという姿勢が見える。


「正直に言うわ。まだ私は貴女の実力については半信半疑よ。でも、あの日煉獄にフェルノワールが直接赴いた理由にはなる……色々な者たちが貴女を狙っているというのは、本当だと信じる。

 私たちは、貴女を帝国や、他の勢力から守って見せると約束する。もちろん、それが私たち自身のためという前提はあるけれど、それでも……少しでも貴女が安心して過ごせるよう、協力するつもりよ」


 パントエールがそう続けると、フィオナは「う、うん」と頷き返す。その表情には困惑が見えるが――パントエールの態度が嫌というよりも、こんなに真剣に人に向き合われた経験があまりないせいで、どう反応すれば良いか分からない、といった雰囲気だ。


「……ご主人様。やはり、パントエールさんに協力するのはどうでしょう?」


 上がった声に視線が集まる。それにびっくりしたように、アザレアはしどろもどろになっているが――元々は一番消極的だったアザレアが参加を表明するというのは、少々意外だった。


「その、私たちというか、とくにフィオちゃんの安全を確保してくれるっていうのは、すごく心強いことだと思うんです。私たちだけでフィオちゃんを守り切るのだって、限界はありますから」

「……そうだな」


 実際、それ故の先日の誘拐な訳だ。原典派とセスティナたちの襲撃については、自分が出かけていたことがそもそもの原因な部分もあるのだろうが――それでも、単純に味方が増えるのは安心材料になる。


『……お前の意見はどうだ?』

『主がその気なら、我輩から言うことは特にない。強いて言えば、その娘のお気持ちを穏健派の総意と思わぬ方が良いだろうということだ。皆がその娘のように甘いと思わない方が良い。

 それに、帝国が本気で動けば穏健派などすぐに吹き飛ばされてしまう……穏健派はディケムとやらに一定の価値を見出されているだけで、お目こぼしされているに過ぎない。多少の身の安全が確保されると言っても、そこにどの程度の価値があるかといえば微妙と思うがな』

『それはそうだな……だが、どこかの勢力を頼れって言ったのもお前じゃないか?』

『その通り。現状の君の立場では、ひとり身の方が制約が多いからな。まぁ、どの勢力に帰属したとしても、恐らく結果はそう変わるまい。

 私が言いたいのはこいつらを過信するなというだけで、逆に甘い奴がいるというのなら利用しやすいというメリットもあるといえる……そういう意味では最高かは分からんが、マシな部類の選択、とはいえるだろうね』

『俺も同じ意見だ』

『あぁ、最後に補足をするならばだ。恐らくその娘は、私兵を持ちたいんじゃないかと思うぞ』


 たしかに、そういった部分はあるのかもしれない。セギュールやバルトンはパントエールに協力的であっても、穏健派内の立場としては彼女の一存で二人を動かすことはできないはずだ。そうなると、組織内で影響力を持つために、個人で使える戦力を欲している――そう考えれば、彼女が協力的な理由も頷ける。


 ただ、それはそれで必ずしもデメリットというわけではないとも思う。穏健派内の他の連中とあまりつるまなくても良いのなら、それだけ負担は減る訳だ。


 シュライクとの問答を終えてフィオナの顔を見る。まだ困惑の色が見えるが、元々フィオナは「パントエールは悪い奴ではないと思う」という意見だったし、自身に真剣に向き合ってくれているパントエールに興味を示しているように見える。


 それなら、やはり一旦参加しても構わないだろう。思ったほど良くなかった場合には、そのときに考えれば良いのだから。


「……アンタがきちんと煉獄に付き合ってくれるなら、穏健派に参加することは構わない。ただ、実際に入ってみてから条件が合わないようだったら、また相談させてくれ」

「えぇ、遠慮なく言って頂戴。もちろん、全部の条件を受け入れられるわけではないと思うけれど、考慮はするから。

 それじゃあ、これ……」


 そう言いながら、パントエールは書類を入れていた封筒から三枚のカードを取り出し、先にアザレアとフィオナの前に置いた。

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