2-24:閉じ込められた土の下で 中
そう説明しようと思った瞬間、それより先にパントエールの方から「でも」と声が上がる。
「アザレアが貴方を大事に思う気持ちは、本物だと思うのよね」
「そうか? お前が言うには、家族に見えないって話だったと思うが」
「家族に見えないのは本当。でも、誰かを大切に思うのは、家族でなくたってできるわ」
「……それもそうだ」
自分が、セレスタに惹かれたように――そしてこの想いは、もう二度と成就することはない。いや、こんなことを考えるのは今は止めておこう。やるせなさが怒りに変わってしまいそうだ。そのため、本来やるべき作業に戻ることにする。
「……多分こっちだな」
「こっち?」
「いや、こっちの話だ……はぁ!」
「……はぁ?」
後ろから素っ頓狂な声が上がるのと同時に、正面に大きな穴が開く。正解だったようで、奥からは別の光が見え、向こうからは「パントエール!」と呼ぶ声が聞こえる。ただ、傷の残る身体に鞭打ち、二度もミドガルズオルムの力を使ったので、危うくふらついて倒れそうになってしまう。
「ちょっ……貴方、大丈夫!?」
「死にはしないが、体力がな……悪いが、アンタの神器で回復してくれないか?」
「え、えぇ、分かったわ」
パントエールが狭い空間で細剣を掲げると、身体を淡い光が包み、鉛のように重く感じた手足が幾分か軽くなってくる。それでようやっと開けた穴を這うように抜け出そうとすると、セギュールが手を伸ばして引き出してくれる。
「二人とも無事で良かった! これは、ハードロック殿の術ですか?」
「あぁ……この前たまたま封印した邪神だが、大活躍だなコイツ」
実際のところ、最初は大地を操る能力など攻撃的でなく微妙かと思っていたが、周囲を土や石に囲まれている地下空間において、これほど頼りになる邪神もいないかもしれない。これでもう少し代償が軽ければ文句もないのだが――そんな風に思いながら穴を抜け出し、今度は自分の後ろにいる、埃だらけの女に手を差し出す。
「いやぁ……アンタ、ボロボロだな」
「ふっ……そう言うアナタも、埃まみれよ」
パントエールを引っ張り出し、二人で拓けた地点に戻ると、すっかりと怪物の姿はなく、代わりに自分たちと同じように埃まみれで黒くなっている鉱員たちの姿があった。
「怪物の入れない細い場所に退避していたのです」
「ただ、モンスターが近くを押し合いへし合いしていたので、もう駄目かと思っていました……助けに来てくれてありがとうございます!」
人数をさっと数えてみると、なんと十人。まさか一人も欠けずに生き残っていたとは。同じように思ったのか、パントエールはそこで安堵の息を漏らし、珍しく柔らかな笑みを浮かべていた。
「みんな無事だったようね。良かったわ」
それから、パントエールは一人一人の鉱員の名前を挙げて、彼らと共に生きている喜びを分かち合っていた。その姿を見て、なるほど、コイツはなかなか上等だと思わされる。
言い方は悪いかもしれないが、彼女からしてみれば末端に過ぎない構成員を一人残らずきちんと覚えているのだ。組織をまとめる力があるかは分からないが、冷たそうに見える割に仲間を大事にするというのは間違いないだろう。
逆をいえば、そこから生じる責任感が、彼女を苦しめているのかもしれないが――邪推はよそう、自分には関係ないことだ。そう思っている傍らで、セギュールが両手を叩いて、一同の視線を集めた。
「怪物の発生源も塞がりましたし、皆無事でしたから、これ以上ない成果といっていいでしょう。ハードロック殿がいなければ、こうはなりませんでした……改めて、礼を言わせてください」
「まぁ、着いてくるっていったのは俺だからな。気にしないでくれ。ただ、もらえるものは素直にもらう主義だとは言っておく」
「えぇ、今回の件については、別途の気持ちを乗せさせてもらいます」
別途の、というのに関しては、契約とは別に支払いがある、ということだろう。懐も寒くなりかけていたので、思わぬ収入があったことを喜ぶべきだ。怪物たちの巣が繋がっていた場所はしっかりと封印できたし、改めて一件落着である。
その後、入口に向かうまでには一体もモンスターの襲撃はなかった。自分たちが全滅させていたのか、はたまた入口の方へ向かったのか。ただ、鉱山から出た後にも戦ったような形跡はなかったので、恐らくは坑道へ漏れ出た怪物たちの殲滅は完了したといって良さそうである。
救った鉱員たちとは坑道の入口部分で分かれ、パントエールたちとゲートを越えてエレベーターに乗る。冷静に考えれば、自分は――ハルト・ハードロックという名の冒険者は――未だに煉獄から脱出していないというのが公式記録になるのだな、そんな風に思っていると、後ろから肩を叩かれる。




