2-23:閉じ込められた土の下で 上
「……大丈夫か?」
「え、えぇ、何とか……何をしたの?」
「生きて帰れたら説明するよ。それにしても、真っ暗だな。ちょっと待ってろ、今灯りを付ける」
マッチもあったはずだが、折角だったらスルトの炎とやらを使ってみるのが良いだろう。魔術書に意識を集中させて手をかざすと、ちょうど手のひらサイズより少し小さい程度の火球が現れ、辺りを照らし出す。
壁を作ったので無事ではあったが、崩落のせいで土砂が自分たちの足元まで来ており――パントエールは両手を地面に着けたまま俯いてしまっている。
「……悪いわね。私を庇って、貴方まで生き埋めになって」
「なんだ、そんなしおらしい態度も取れるんだな」
「そういう貴方は、減らず口が止まらないわね……少しうらやましいわ」
羨ましいも何も、生きて帰る算段があるのだから、気分が落ち込んでいないだけである。しかし、一歩間違うと本当に死にかねないので、慎重に見極める必要がある。
「はぁ……ダメね……」
「……何が?」
一応、壁の様子などを探るついでに、パントエールの言葉に返答してみる。一瞬振り返ると、彼女は自虐的な笑みを浮かべて、溜息を吐きながら首を振った。
「ごめんなさい、独り言……ただの自己嫌悪よ」
「まぁ、結構無茶をしているとは思うが……アンタにはアンタにしか分からない苦労もあるだろうからな」
「……聞かないの?」
「生憎、他人の事情に足を突っ込めるほど余裕のある人生は送ってないんでね。ただまぁ、強いていえば……」
「……何よ?」
「いや、やっぱり止めた。人に何かを言えるほど、偉くはないからな」
本当は、セギュールの言うことくらいは聞いてもいいんじゃないかと言おうと思ったのだが。最近仇を見てカッとなった身としては他人のことは言えないと思い、ひっこめることにした。
そんなことより、今は脱出だ。無駄に火なんぞ焚いているから、酸素の減りだって速い。さっさと方向を定めて、穴を開けるべきだろう。
「……貴方って変わってるわね。普通、お前みたいな小娘が馬鹿なことをするなとか、無茶をするなとか言うのに」
「なんだ、小娘って自覚があるのか?」
「悔しいけれど、流石に自分一人で何でもできると自惚れられるほど、自分に酔ってはいないつもりよ」
「ふぅん」
「何よ」
「あぁ、そうだ、これだけは言っておきたい。アンタの判断は間違ってなかったと思うぞ」
「……え?」
「むしろ、事前に怪物の巣を封印する方法を打ち合わせておかなかったからな。俺やセギュールにも落ち度はあると思っている」
彼女が落ち込んでいるのは、こうやって自分を崩落に巻き込んでしまったせいだろう。いや、もしかしたら、もっと根本的な問題は別のところにあるのかもしれないが――それでも、別に今回の件については、彼女が気にすることもないとは思う。
「……ねぇ」
「なんだ?」
「貴方とあの二人、どんな関係なの?」
あの二人という表現には、一瞬ピンとこなかった。ややあってから、アザレアとフィオナのことを指しているのだと気付く。まさか、煉獄で拾って利用している、とこちらから言うのもなんである。
それ以外の表現なら、何と返すのが無難だろうか――良い返しが思い浮かばないので、いっそ相手に委ねてみることにする。
「……どんな関係だと思う?」
「分からないから聞いているのだけれど……まさか、家族?」
「思いっきり否定したいところだが、どうしてそう思うんだ?」
「子供が一人に男女一人ずつという構成だけど……実際のところは違和感が大きいわ。フィオナが貴方たちの子供だっていうにはちょっと大きすぎると思うし、何よりも貴方とアザレアが夫婦というには、貴方たち二人が他人行儀すぎるもの」
「それじゃあ、なんだと思うんだ?」
「うぅん……にわかには信じがたいけれど、貴方は邪神を使役できるというし、それで二人の精神に作用して連れて行っているとか?」
なるほど、まさしく先日そう言ったことがあったし、アザレアについては普通に当たっているといっていいだろう。
しかし――。
「それをして俺に何の得があるんだ?」
「それが分からないから聞いているのだけれど……二人とも綺麗だし、まさかイヤらしい意図で連れまわしている訳じゃないわよね?」
実際のところは得があると思うから連れて行っているわけだが。フィオナの真実を知らなければ、確かに自分が二人をたらしこんで連れていると思われても仕方がないように思う。
むしろ、客観的な意見としては、そういう風に見えるということを知れて良かったかもしれない。同時に、あまり誤解をさせておくのも何だし――そもそもセレスタ以外の女性に興味があると見られたくもない――二人の行き場がないから拾った、くらいにお茶を濁しておくか。




