2-22:坑道第十三区画 下
さて、すでに八体ほどの化け物は倒したが、果たしてあとどれくらいいるのだろうか。襲撃の頻度が上がってきているということは、奴らの巣に近づいて来ている証拠かもしれない。
同時に、逃げ遅れた鉱員たちの生存は絶望的に思える。怪物たちが積極的に人を狙っているのは、自分たちが襲われていることからも明らかだ。それでここまで誰ともすれ違っていないことを鑑みるに、恐らくはもう化け物の胃袋に収まっている可能性が高い。
とはいえ、王党派としてはこの区域を利用している責任もあるだろうし、少しでも生存の可能性があるなら諦められないだろう。セギュール曰く、あと少しで十三区画らしいし、ひとまずその地点まで向かい、生存者を探しつつ、化け物の巣と繋がってしまった穴を塞げば、任務完了だろう。
進むほどに坑道は狭くなり、もはや先ほどのモンスターがやっと一体通れるか程度の幅になってくる。こちらも戦いにくいが、坑道の終着点が見えてきた証拠だろう。ここまで生存者は一人も見られなかったが、ひとまず怪物の発生源は押さえられそうである。
しかし――。
「……あんな空間があるって知ってたか?」
「いやぁ、視察までしたことはなかったので……大変なことになってますねぇ」
丁度一体が塵になった瞬間に、比較的拓けた場所が見えた。自然発生的にあった空間なのか、はたまた掘った鉱物を蓄積しておくために拡張したのか、どちらかは分からないが――どちらにしても、その場所には怪物が押し合いへし合い、そこにうじゃうじゃと溜まっていた。
すぐにその中から一体が射出されるように飛び出てきて、パントエールがそれを迎撃するために前へと出る。ここにいれば一体ずつ処理をすれば良いが、キリはないだろう。恐らくあの密集しているところの裏側に巣穴が通じており、そこを閉じない限りは延々と補充されるだけだろうから。
「一掃する手段が必要だな」
「手段はあります。むしろ、一か所にまとまってくれているなら好都合です。お二人は何とか時間を稼いでください」
「どれくらいだ?」
「一分ほど。それで、解決して見せますよ。ただ、詠唱が完了してもあの空間に直接撃ち込まなければならないので、押し込むこともしてほしいのです」
セギュールは本の後ろの方のページを開きながら、早口に詠唱を紡ぎ始めている。詠唱に時間が掛かるということは、先ほどまでのコンビネーションが使えないということになる。
銃を引き抜いてハンマーを起こし、パントエールが切り落とした腕の部分に麻痺弾を撃ち込んでパントエールをサポートする。
「聞いてたかパントエール! 奥へ押し込めだそうだ!」
「了解よ!」
彼女はセギュールと付き合いも長いのだから、何をするつもりなのか理解しているのだろう。自分が麻痺させて動かなくなった怪物の頭をパントエールが切り落とし、まずは一体を塵に返した。そして次の一体が距離を詰めてくる前に、パントエールは素早く前進し、数メートル進んだ先でハサミをまた切り落とした。
そこに自分がまた銃弾を撃ち込み、パントエールがとどめをさす――という流れで、徐々にだが甲殻類どもを奥に奥に押し込めている。そして広間の直前まで怪物たちを押し込んだタイミングで、二発の銃弾を壁に撃ち込む。弾丸が穿った場所から黒い糸が噴出し、絡まり合い、巨大生物がこちらへ進んでくるのを防ぐ壁を作った。
「お二人とも、下がってください……薙ぎ払え雷光、バライヤージュ・イオニザン!」
自分とパントエールが壁際まで後退すると、二人の間を巨大な雷球が突き進んでいく。それが糸の間を縫って広間へと出て、そのまま上へと上昇したかと思うと、球が弾け――激しい音と光の向こう側、何が起きているか見てみれば、弾けた球から放射状に電撃が走り回り、広間を焼いていた。
閃光と音とが収まると、広間に蠢いていた甲殻類たちは一斉にその動きを止め、身体の節々から煙を吐き出し――そしてそのまま一気に塵へと化した。流石にアレは上級の魔術になると思うのだが、あれだけのモンスターを一瞬で消し炭にするとは、凄まじい威力である。
あとは仕上げか。それに関しては、気は進まないが、ミドガルズオルムの力を使える自分が適任だろう。そんな風に思っていると、反対側の壁で待機をしていたはずの女が、剣を構えて一気に走り出したのだ。
パントエール、そう呼ぶのだが、彼女の疾駆は止まらない。むしろ、自分の耳にすら自分の声が聞こえなかったくらいだ――セギュールの魔術があまりに轟音を立てていたせいで、耳がやられているのだろう。
しかし、彼女が何をしたいのかは何となくだが理解できる。それは重要なことなのだが、無茶でもある。ともかく一人にするまいとその背を追っていくのだが、彼女の方が先に広間の奥に繋がる通路へと入っていく。
ややあってから追いつくと、パントエールは天井のでっぱりへ剣戟の一閃を加える――すぐに天井が振動をはじめ、ぱらぱらと小石が落ち始める。
後続が来る前に穴を防ごうという考えなのだろう。自分もそうしようと思っていたのだし、その判断自体は正しいとも思う。だが、彼女が離脱する前に、また怪物が一体、凄まじい勢いでこちらへ向かってきている。
退くべきか迎撃するべきか悩んでしまったのだろう、パントエールは防御の姿勢を取って、巨大なハサミを受け止めてしまった。神器の加護と、剣の強度のおかげか直撃は免れたようだが、そのまま身体が吹き飛ばされて背中から壁に叩きつけられてしまう。
こうなっては、出し惜しみなどしている場合でもない。鞘からノモラスを抜き出してすぐさま起動キーを唱え――まだ耳がやられているせいで音は聞こえない――刀身を回転させる。本来は魂を捕らえるのに使う一撃だが、回転する剣の威力はそれなりにある。そのまま先端を怪物に向けて突き出すと、硬い甲殻を突き破り、頭部からその巨体がバラバラに粉砕された。
そのまますぐにパントエールの方へと向かい、彼女を庇うように壁に手を当てる。今の戦闘の余波がとどめになったのか、一気に天井が崩れ始めてしまう。それと同時に、ミドガルズオルムの力を使い、自分と彼女とを守る壁を作り出す。
そして、ようやっと感覚が戻ってきた耳に天井が崩れ落ちる音が聞こえ始め、次いで視界が真っ暗になったのだった。




