表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

旅の途中

「本日の収穫はフォレストベアと飛び兎だ!」


「肉だぁ!肉ぅ!」


 十日も続ければ、旅の生活もだいぶ慣れた今日この頃。こんばんは、クオレです。


 領民だったみんな揃って五百人。民族大移動!みたいな集団だけど、割と好き勝手に歩いているようで、時々グループで別れたりくっついたりしてる。子供も大勢いるので、休憩も多く、歩く速度は割とゆっくり。お父様のいう通り、2ヶ月はおそらくかかるだろうということ。


 本日、わたくしクオレは、初めて!川で!洗濯をいたしました!


「なんで洗浄魔法使わないの?」


 一瞬で綺麗になる洗浄魔法、便利なのに。と聞いたところ、魔法を使わない生活習慣を覚えるのは、とても大事だと言われました。魔法を使えない人々の気持ちもわからなければ、人は時として傲慢になるそうです。いざという時に魔力枯渇も起こり得るし、魔力を隠してきた領民のいうことだから、重みが違う。


「そういえば、そうだった」


 元々、私も魔法は使えなかったしね。龍脈に落ちてから自然と使えるようになったけど、そういえば違いを考えなかったな、と反省。


「ま、公爵令嬢様が川で洗濯してたら驚くけどな!」


「確かに~」


 最近はドレスなんて着ていないので、令嬢のれの字も感じない。それでも、お母様には毎日貴族の礼儀作法の復習はやらされています。お母様の姿勢はスッと伸びてていつも綺麗だ。歩き方も、例え小脇に鍋を抱えていても、包丁を飛び道具のように扱っていても、気品がある。だから私も迷わず訓練を続けてる。


 洗濯物を入れたカゴを頭に乗せ、落とさないように歩くとか。


 扇子の角度を極めて、焚き火を煽るだとか。


 ダンスの足捌きで獣を狩るだとか。


 …………。


「お母様、これは普通の令嬢のやることじゃないと思います」


「普段から使っているものをうまく応用して使うことも大事なのですよ」


 ほら、あそこを見てごらんなさい、とお母様が指を差しました。その方向を見ると、フォレストベアがこちらに向かって来ていた。


「おっ、お母様!熊ですよ、クマ!」


「ええそうね、クオレ。今日の夕食はあれに決定。お母様がこれから本物の令嬢の真髄を見せて差し上げます。さあ、ちょっと後ろに下がっていなさい」


 そういうとお母様は、お気に入りの鉄扇を懐から取り出し宙に投げた。鉄扇はクルクルと弧を描き、お母様の手に戻ってくる頃には、バラけて10本の細い投げナイフに代わっていました。その10本を各手に5本ずつ持つと、風が舞い上がるほどの瞬発力で駆け出したのです。


「おっ、久々のマリオン様の狩りが見られるぞ!」


 目敏く、鉱夫改め冒険者に転向したみんなが、集まってきた。


「そおれっ」


 という掛け声と共に、お母様が宙を飛びます。一本ナイフが熊の前足に刺さりました。


「グオオオォッ!!」


 いきなり攻撃を受け、怒った熊が立ち上がります。大きさにして3M(メト)ほどあるんじゃないでしょうか。私の背の2倍くらいの大きさです。


 するとみんながパンパンと手を叩き拍子を取り始め、お母様は拍子に合わせてナイフを熊に投げつけました。


「ハイッハイッハイッハイッ」


 あれは確かにダンスのステップです。しかしクマと踊っているのは死のダンス。刺さったナイフを抜いては刺し、刺しては抜いて、抵抗虚しく最終的には天誅にナイフが刺さり、クマ絶命。その時間約3分。


 どおん、という音とともに熊が倒れた……と思ったら、すでに解体が済んでいたのです。


 ――えっ。おかしくない?


「これぞ、熊の生き造り!」


 わぁっと皆が走り寄り、あっという間に毛皮やら肉やら骨やらを集め、その場には何も残っていませんでした。


 ――ちょ、ちょっと待って。


 お母様、もしかしてアサシンか何かを仕事にしてました?と言うか、解体士!?


「いいえ。しかし、クオレ。貴族令嬢というものは、いつ何時、どんなことがあるかわからないのです。うかうかしていれば攫われて身代金を要求されてしまうかもしれないし、監禁されて、手篭めにされてしまうかもしれません。そしていざというときに、頼りにならない殿方の救いを大人しく待つのは、愚の骨頂。手遅れ、おさらばです。自分の身は自分で守れるようにならなければならないのです」


「そ、それはつまり、人体も解剖してしまうということでは」


「生か死か。人を殺そうとする者は、死もまた覚悟しなければならないのです」


「お、お母様、実は凄まじい人生を歩んできたのですね」


「お父様に会うまではただの商人でしたよ」


 ――いや、絶対嘘だよね、それ。


「マリオンに出会ったのは、俺が盗賊に囲まれたときだったなぁ」


 しみじみとお父様がいいます。


「そうねぇ。剣一本で、三十人の屈強な男相手によく頑張っていましたわ。でもあれ、帝国の暗殺者でしたわよ」


「ああ。そうだった、そうだった。あの時のマリオンのナイフ捌きに惚れたんだ」


 ――わー……。お母様が、襲われたお父様(プリンセス)を救い出すヒーローだった件。


「魔力なしでも、努力次第でなんとでもなると教えられたんだよなあ」


 ――いや、お母様のそれ、絶対スキルだよね。


 この世界、魔力持ちと魔力なしに分けられてるけど、実は魔力なしという生物はいない。魔力がごくわずかで感知できないか、使えないというだけで。そういう人たちは努力次第で、スキルが生える。


 意識しないで使えるのがスキルで、意識して使うのが魔法だと私は思ってるんだけど。


「あ、これは前世の記憶かー」


 祖国メル=ヴォイス聖王国でもスキルの概要さえ知っていれば、あんなに意固地に魔力持ちと切り分けることも無かったのにな、と思うと残念だ。まあ、二百年も続いてきた意識を変えるのは、すぐには難しいだろうし、すぐにでなければ、私は処刑されてたし。領民のみんなも魔力持ちだったから、逃げるしか無かった。


 龍脈に守られていたあの国が、聖女の結界なんてなかったと気づくのは、いつになることか。……今頃気づき始めてるかもしれないな。


 龍脈がゆっくりと流れを変えた。公爵領はまだ余韻が残っているかもしれないけど、王都の方はそろそろ龍脈の気配が消えてる頃。強い魔物は、気が付いているだろう。


 ――今、あの国が明け渡されたことに。


 そして、攻めて来るのは、魔物だけでは無い。ミスリル鉱山を虎視眈々と狙っている帝国もまた、嗅ぎ取っているに違いない。


 間に合うかどうかは、わからないけれど。





「お嬢~薬草摘みに行くぞ。一緒に来るかー?」


 夕飯は熊肉に決定なので、薬草採取に誘われた。ついでに根野菜とキノコ類も見てみよう。


「うん、行く行くー!お母様!それでは、クオレも行ってまいります」


「ええ。気をつけてね。ローリエとローズマリーをお願いよ」


「はーい。マスタードもあったら採って来るねー」






 楽しそうに走っていくクオレの後ろ姿を見つめながら、私は一つ冷めた視線を北へと向けた。


「あちらはどう?」


「徐々に崩れ始めてるな」


 そう答えたのは我が愛しの夫ドルティエ。メル=ヴォイス聖王国の公爵でありながら、連合国の間諜でもある男。連合ギルド総裁、ギルガメッシュ――私の兄の片腕。


「……そう」


 王妃様が無理矢理つなげた、私たちの娘と第一王子の縁。寵愛された側妃様に牽制して、嫉妬に狂ったがために、子の育て方を間違えた。王は初めから、スタンスヴァルトの土地にしか興味がなかったから、この婚約は容易に成り立ったし、ドルティエの地位も確約されて、誰一人として疑う者は居なかったのは幸いだった。


 クオレのことは全く予想外の出来事だったけれど。


「そろそろ第二王子殿下が出てくるかしら」


「ああ。どうやらマイルズ殿下と聖女の婚姻が早くも成り立ったらしい。王はマイルズと聖女を切り離しにかかったようだが、思い通りに運ぶかな。辺境のロイドをクランスヴァルトの領地の代官にしたらしい」


「まあ。帝国のスパイを?それはまた。ふふ。どうなろうと、もう私たちには関係ないけれど。飛び火が移る前に、できるだけ離れなければね。私達の可愛い娘のためにも」


「王には、聖女の結界について少しだけ漏らしてきた。信じると思うか?」


「信じてくれなくては困るわ。教会を切り崩すまたとない機会だもの」


「全ては教会の戯言だったと知ったら国民はどうなる事か」


「暴動で収まればいいでしょうけど。あとはミスリルをどう使うかにかかっているのでしょうね。そこをマイルズ殿下に差し出すなんて、やっぱり間抜けしかいないわ。ロイドが居るなら、直ぐにも帝国が押し寄せて来るでしょうのに」


 兄がギルド総裁で、私が連合国の一つ、魔導の頂点に立つパルモーレ国の一の姫だと知っていたから、流石の帝国も今までは手を出さずにいたのに。国が崩れていくのを見るのは辛いが、友好的だった貴族たちには知らせを出した。逃げ出すか、留まるかは、彼ら次第。


「はは。君にかかると、全員馬鹿にしか見えないな」


 ドルティエは愛しの妻の肩をそっと抱き寄せた。







 マリオンとドルティエはまだ気づいていない。


 龍脈がクオレについて来ていることを。


 ミスリルの魔力が抜け、鉱山が使い物にならなくなっていることも、王都の地下水路に魔物が生まれつつあることも。そして、帝国が牙を剥くより早く、魔物が蔓延するであろうことも。


 今はまだ。



読んでいただきありがとうございます。感想・ブクマもお待ちしています。

政治的絡みはさらっと読み飛ばしてくださっても大丈夫です。帝国は名前しか出てこないので……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ