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動き出した龍脈〜ロッソ視点〜

 恐ろしい女がやってきた。


 俺、ロッソは竜人だ。成人を前に、世界で経験を積まなければならないという竜人国のルールに従って、人間界へとやって来た。だがいざ来てみれば、只人の弱い事といったら、呆れる程。ちょっと殴れば骨が折れるし、威圧をすればイヌッコロの様にキャンキャン吠えて逃げていく。帝国貴族に逆らったと言う理由で牢に入れられたから、檻を壊して報復に出たら追放された。


 あんなに楽しみだった世界があっという間に色褪せた。


 それでもルールはルールだ。ここで修行し、人間とは何かを学び、忠誠を誓える誰かを探さなければならない。うろうろしているうちに、ギルガメッシュと言う男に出会った。奴は連合国のギルド総裁とか言う地位についていて、冒険者になれといってきた。


 この俺に命令を下すなんてと腹が立ち、逆らったらボコボコにされた。


 俺より強い人間に遭ったのはこれが初めてだった。腹立たしいが、人間の世界について学ぶには冒険者というのはちょうどよかった。


 そこで人間がとても短命で魔力が少なく、その上うまく使えない奴ばかりだと知った。その代用にスキルを使うことを覚えたらしい。ただ魔物を狩るだけでなく、魔石を取り出し、素材を活用する根気もあった。


 矮小ながら、生きることを大切にするのが人間だった。小さくて弱い、守られるのが人間なのだと学んだ。ギルガメッシュみたいなのは異常だったのだ。


「そんな奴らに忠誠誓う奴なんているのか」


「それはお前がまだ出会っていないからだ」


 途中、旅の竜人に出会った。彼もまだ探している最中なのだという。


「人間は短命だから人の顔がすぐ変わっていく。一度訪れた場所でも、二度目には知った人間がいなかったということもある。それが楽しくなってくると、やめられなくなるのだ」


 そういって、国に帰らない竜人もいるらしい。


「俺は早く家に帰りたい」


「焦っても答えは見つからんよ。せいぜい気長に頑張りな」


 そろそろこの世界にきて十年になるが、いまだに確信を持てる人物には会っていない。だけど、人間界も悪くないと思い始めて来たところだった。酒は美味いし、竜人の俺がそうそう命を脅かされることもない。魔獣と言っても何も竜が出てくるわけでもない。


 ダンジョンに潜るとそれなりの敵に出会うから、それで暇を潰していた。金にもなるし、憂さ晴らしができる一石二鳥だった。だから世界中のダンジョン巡りをして、現在この小さな村タンタンにいる。三つもダンジョンがあるからしばらく時間が潰せると思ったんだが。


 


 少し前に気配が変わった。


 龍脈の流れが活発になり、ダンジョンの魔物環境が変わり、深層部の魔物が減った。


「龍脈の流れが変わるって……不味くないか」


 深層にある龍脈が移動するのは、いわゆる"竜の寝返り"と呼ばれる現象だ。世界の至る所に流れる龍脈は、この世界の魔素を湛えている。



「竜の眠る場所に魔物はいない」


 そう言った竜人族が指したのは、北の地にあるメル=ヴォイス聖王国だった。


「彼の地は、その昔、魔力が使えず迫害された人間が作った国なんだよ」


「同じ人間で差別があったのか」


「祖国でもあるだろう。魔力の少ない竜人は旅に出されない」


「そうなのか?」


「ああ。竜人が弱いなんて噂が出て侮られても困るからな。そういった竜人はゴミカスな仕事にしかつけないし、番も持てない」


 それは知らなかったな。竜生詰んだってか。かわいそうに。


「とにかくあそこには行かない方がいい」


「かわいそうだから?」


「違うよ。あそこには竜が眠る。魔素が濃すぎて魔物が出ない場所だから」


「魔素が濃くて魔物が出ない?」


「魔素が濃い場所には強者がいるだろう。それがあの場所では竜なんだよ。だから勝てない魔物はあそこに行かない。速攻で消滅()されるからさ」


「竜より強い魔物なんて、いるわけがないからか」


「そういうことだ」


「この村の周辺にダンジョンが多いのはその影響か?」


「そうだな。竜の寝床から適度に離れていて、近すぎないが龍脈はそれほど深くない。だからダンジョンができる」


「へぇ。じゃ適度に離れてて、適度に近くにいるのが一番美味しいってことか」


「君はまだ若い。どうか間違っても竜に喧嘩は売ってくれるなよ」


 世界が更地になる。そういって笑い合ったけど。




「竜、か」


 あの後、宿に戻って考えた。


 ――あの子供。まだ完全じゃないけど。


「かぁ~。竜、だよなぁ、あれ」


 鱗があった。竜眼も発動してた。まだ子供とはいえ、龍脈を引き連れてきた。竜人とは違う、魔核があった。なぜ人の形を取っているのかわからないが。


「喧嘩、買わなくてよかった……」


 竜人の祖先は竜だった、なんて信じているのは何百年も生きてる爺婆だけだ。俺たちは無敵じゃないし、空も自由自在に飛べるわけじゃない。翼はないし、鱗もなければ、竜眼もない。変身もおそらく無理だ。あるのは魔力と強靭な身体と生命力。それが竜に見立てられて、竜人なんて種族の名前がついただけだ。考えてもみりゃ、竜とまぐわう人間なんていたらゾッとしないな。


「ヤッベェのに出会っちまった……あれ?っつーことは……」


 メル=ヴォイス聖王国って今、竜がいない状況なんじゃ……?


「あの国……終わったな」


 何やらかして、わざわざ竜を起こしたんだかわかんねえけど、起こしちゃなんねぇもん起こして、龍脈ごと逃げられた。どうりで深層階の魔物が減ったわけだ。ありゃあ、あっちに移動したか。


「しばらくはダンジョンも荒れるな……」


 この村、結構気に入ってたんだけどなぁ。どうしようかなあ。





 ――なんて呑気に考えてねぇで、とっとと移動すべきだった。


 まさか俺の運命を決めることになろうとは、この時はまだ全然わかっていなかったんだ。


読んでいただきありがとうございます。感想・ブクマもお待ちしています。

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